第三話:与えられた祝福と、新たな旅立ち
どれくらいの時間が経ったのだろう。
目を開けた覚えもないのに、目を開けたような感覚がある。気がついたとき、俺はまたあの“白い空間”に立っていた。
白。
ただ白いだけのはずなのに、不思議と温かい。
前回とは違い、その中心には、確かな“意志”のような何かが漂っている。
曖昧な姿をした神──呼び方が正しいのかも分からないが、その存在が静かに口を開いた。
「君には、新たな世界で生きる道が残されている。選ぶのは、君自身だ。」
この声を聞いた瞬間、胸の奥が、小さく震えた。
俺は死んだはずだ。それを受け入れたつもりだった。
でも……「続き」があると言われて、心が勝手に熱を帯びる。
「……もし、もう一度生きられるなら。誰にも迷惑をかけずに静かに生きていけるなら……その世界に行きたい、です」
自分で言いながら、少しだけ照れくさい。
けれど、神は静かに頷いた。
「ならば、君に祝福を授けよう。新たな世界での“可能性”となる力を」
周囲の光が淡く色づき、七色の帯が揺らめきながら俺へ近づいてくる。
胸の奥がじんと温かくなる。
「君に与えるのは──『すべての魔法属性』だ」
「……えっ。す、すべて……?」
神は淡々と告げる。
「この世界では、生まれ持つ魔法属性は一つ。稀に二つ。それが限界だ。八つすべてを扱える者など存在しない」
八属性……全部。
それだけで十分すぎる祝福のはずなのに、神はさらに続けた。
「安心するがよい。君に与える魔法は、すべて“初級”の威力に留めてある。強力な力とはならぬ。ただ、“幅”を与えただけだ」
俺は胸を撫で下ろした。
正直、強すぎる力なんて怖い。扱いきれなければ他人を傷つけてしまう可能性だってある。
「……それなら、なんとか扱えそうです」
「君ならそう言うと思っていた」
どこか優しげな気配が、白い空間に広がった。
「それから──魔力量についても調整した」
「調整……?」
「君の魔力量は“測定不能”としてある」
「いやいやいや、測定不能って大丈夫なんですか!? 危険じゃ……」
「何も恐れる必要はない。ただ大きな器になっただけだ。満たすのは君自身だ」
……なんだか意味深な気もするけど、危険はないらしい。
本当に大丈夫なんだよな? と疑問は残るものの、聞かない方がいい気がしたので飲み込んだ。
神はさらに続ける。
「最後に──君が新たな世界で生きるための肉体を用意した。魂が無理なく馴染むよう調整してある」
「転生……ってことですか?」
「その通りだ。君は今の意識のまま、新しい世界へ向かう。そこでどう歩むかは、君自身が選べばよい」
胸の奥が熱くなる。
“選べる”。
その言葉が、これまでの人生で一度も持てなかった自由のように思えた。
「……行きます。そこでもう一度、自分の生き方を探します」
神の光がわずかに揺れ、微笑んだように感じた。
「良い覚悟だ。ハヤカワ・アルトよ──新しい世界で自分の道を選ぶのだ。そこは厳しくも美しい場所だ。君が抱いた光を失わぬよう願っている」
光が強くなり、白が白ではなく“輝き”へ変わっていく。
視界が溶けていき、身体が浮き上がるような感覚。
ああ……行くんだ、俺は。
終わりじゃない。
これは確かに──始まりだ。
目を閉じ、身を任せる。
光がすべてを呑み込み、意識は次の世界へと滑り出していった。




