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沖浦数葉の創作メモ -浦島太郎のウラ話-  作者: 広瀬凉太


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第14話 海流に乗って

「……わぁ……っ」

 水槽の中で踊る色とりどりの魚たちに、数葉(かずは)が歓声を上げる。

 

 それは、いわゆる『サンゴ礁の海』を再現した水槽だ。


 青い海水(みず)の中でもその存在を強く主張するコバルトブルー。ルリスズメダイにソラスズメダイ、そしてナンヨウハギ。

 目の覚めるような鮮やかな黄色。キイロハギにフエヤッコダイ、ヒフキアイゴ、それからチョウチョウウオの仲間たち。

 くっきりと塗り分けられた白と黒のツートンカラー。ミスジリュウキュウスズメダイやツノダシ、ハタタテダイ。


「……あ、ネモ」

 イソギンチャクの中に隠れる、白とオレンジの小さな魚。

 ネモ(誰でもないもの)と名付けられた一匹のカクレクマノミの物語は、映画公開からかなりの時間が経ったものの、今でも強い人気を誇っている。


「……意外と、ちっちゃい?」

「図鑑に載ってるのは最大のサイズで、入手しやすいサイズとか飼いやすいサイズはまた別だからなあ」

 とはいえ、例の映画を見て、ナンヨウハギとのサイズ差に違和感を覚えたのは内緒である。


「……ねえ、浦島太郎が見てたのって、こんな景色だったのかな」

「竜宮城が南の海ならば、そうだったかもしれない」

「……この辺だと?」

「本州沿岸の魚たちって、もっと地味だから」

「……でも、あの白と黄色い魚、海で見たことある」

「白と黄色はいくつかいるけど……」

 さすがにそれだけで断定は難しい。数葉が指さす方法を見ようとすると、自然に彼女に近づくことになる。

 んー……やっぱり近いな。いや、以前VRのゲームでもっと接近したことはあるが、現実はやっぱり違う。


「あれは……トゲチョウチョウウオだな」

 ちょっと手間取ったが、数葉の指さす魚は特定できた。


「あれを見たのって、どこの話?」

「……子供の頃、旅行で行った伊豆の海で見た」

 子供の頃の記憶なんて、と思われるかもしれないが、彼女は非常に高い記憶力を持っている。


「本来南の海にすむ魚が、海流に流されてもっと北までやってくるのは、よくある話だよ。伊豆ならば、見られてもおかしくないだろう」

「……えーと、死滅回遊魚(しめつかいゆうぎょ)とか、そういうやつ?」

「以前はそんな名前で呼ばれてたけど、今ではイメージが悪いせいか季節来遊魚(きせつらいゆうぎょ)なんて名前が使われるようになった」

 まあ、名前を変えたところで魚の生態が変わるわけではないが、それでも、一部はまた南の海に戻っている、なんて説もある。


「もしいつか、もっと温暖な気候の地域が広がれば、彼らは冬を乗り越えて新たな生息地を手に入れることになるかもしれない」

 それはそれで、もともと北の海にいた生き物たちが割を食う羽目になるのだが、それは言うまい。


 そうして俺たちはしばらく、サンゴ礁の魚たちを――もしかしたら、浦島太郎が見たかもしれない光景を――飽きもせず眺めていた。一人だったらさっさと通り過ぎるところだが、こういうのも悪くない。


「……そろそろ、次に行く?」

「ん。そうするか」

 自然に手と手を繋いで、俺たちは再び歩き出す。


 そういえば、ウミガメも――。

 自分の生まれた浜に戻ってくるというが、時には海流に流されてしまうものもいるらしい。

 浦島太郎を乗せたカメは、無事に元いた村に帰れたのだろうか。

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