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◎何をもって、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「サロス。君は生きるんだ。」


「俺は…。」


「俺達が魔王を倒す。だからお前は逃げろ。」


「俺だって…。」


「私達、あなたが本当にしたいこと、知ってるから。」


「俺も…。」


一面、岩に囲まれた場所で、サロスはかつての仲間にそう言われた。


目の前にいる魔王は無傷。


魔法使いのアストラも、戦士のヴィルトゥスも、僧侶のクルックスも、腕に足に顔に傷を負っている。


「なんで…。なんで。」


伝説の剣を持つサロスの手は震え、魔王を見据える目はぼやけていく。


「…なんで、俺なんだ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ん。」


サロスは見知らぬ天井を見た。


「ここは。」


起き上がり、掛け布団を退かす。


周りを見渡す。

香りの良い木で建てられていて、柱には複雑な、けれど優美な彫刻が彫られている。

そして、今、サロスが座っているベッドはふかふかでもう一度眠りに付きたくなる。


「…!サロス!起きたんだね!!」


「おー!コア!体力は大丈夫か!?」


「もちろんだよ!それよりもサロスだよ。また最高高度から落ちたんだから。」


「こっちも大丈夫だ。若干節々が痛いけど、それ以外は元気だ。」


「じゃあ、ゆっくり休んでて。しばらくしたらまた見に来るから。」


「ああ。…?どこか行くのか?」


「…今回の火災の原因について話し合うんだって。」


火災の原因。


サロスは、クルックスのことを思い出す。

電話で何かを始めていた。

その後、あの火災。


そして援護に来たあのフード。

フードに書かれたマーク。

火にタコの触手が絡まったようなマーク。


「俺も、その会議に出ていいか?」


「でも、体が…。」


「大丈夫だ。それより、原因が誰だか俺は知ってる。」


コアは目を開き、頷いて、サロスを会議室に案内した。


その道すがら、こんな会話が2人の耳に入った。


「こんなんじゃ、人を救いきれないぞ。」

「そろそろ新人のレンジャーが欲しいよな。」

「あ、そうそう新人といえば、あの試験者、見た?」

「あー!あいつだろ?"勇者になりたい"って言ってたあいつ!」

「そうそう!あの変な奴!あいつ、家族のためだとか言って魔物を売ってたらしいぞ。」

「そういう奴は家族のこととか本当はどうでも良くて金のことばっかなんだよな。」

「それなー。」



コアとサロスは扉を開け、各地区の町長や村長が並ぶ会議室に入った。


「いやー!本当にお2人に対してはなんと御礼申し上げればよいか!」


その中の一際若い1人がサロスとコアに感謝を述べた。それに続き、みんながありがとうと感謝を2人に伝えた。


「体の方は大丈夫なのか?」


「おかげさまで。それよりも、みなさんに渡したい情報があるんです。」


「情報?」


若い町長、今サロス達がいるこの町の長がサロスに聞いた。


「先日の火災の原因。つまりは犯人の正体についてです。」


「なんだって!?」


町長に村長が机に手を付き、身を乗り出した。


「その正体とは、レスレク団です。」


「ま、まさか、あの魔王信仰の…だとは。」


それぞれがサロスの放った言葉に衝撃を受けていると、若町長が言った。


「これから、言うことはどうか他言無用でお願いしたい。」


サロスとコアは顔を見合わせ、もう一度、若町長の方を向く。


「数年前。彼ら、レスレク団に私達の宝。火の魔導書が盗まれた。」


「え!?」


「このことはノビリスでも限られた者しか知り得ない。重要事項だ。」


2人は唾を飲み、彼の言葉に一層集中する。


「そして、今回、火災の犯人としてレスレク団が挙がったタイミングで、どうかお願いしたい。レスレク団から火の魔導書を盗み、レスレク団を壊滅させて欲しい。」


2人ともに黙っていた。

が、感じていることは少し異なっている。


「もちろん、無償だとは言わない。もし完了してくれれば、"火の魔導書の写し"でも何でもを報酬として送ろうと思う。」


サロスは"火の魔導書の写し"に反応した。


それがあれば、コアの魔法の幅は電気に加え炎も加わることになる。そうなれば、魔王討伐にも一役買う可能性は大いにある。


だが、レスレク団のリーダー。教祖はクルックスであることに間違いない。

となれば、彼女を殺さなければいけない。


自分の拳を握りしめ、決めかねている。


しかし、コアは速攻、若町長に言った。


「なら、僕がその任務受けます。」


「コア!?」


サロスは小声でコアに呼びかけるが、固い意志で町長に言った。


「であれば、俺もこいつと一緒に行きます。」


「おー!それはありがたい!!君達2人であればあの猛炎を鎮めたようにレスレク団のやつらも沈めてくれるだろう!」


他の長もしきりに2人を拍手して感謝する。


「では、明後日の夜に、盛大に出発式を上げよう。それまではこの城で過ごしていて欲しい。」


そう若町長に言われ、サロスとコアは別々の部屋に案内された。



コアは部屋に着くなり、ベッドに腰掛け、電話をかけた。


「コアさん。まだ意識は戻りません。」


「そうですか。大体の目処も…。」


「はい…。治療もやれることはやりましたが、後は本人によるかと。」


「…分かりました。ありがとうございます。」


コアは電話切り、近くの机に投げた。


「……。」


拳を手のひらで包み、目を閉じ、蹲った。


そして、こう信念を呟いた。


「…絶対に殺す。」


そして電気が拳の内から漏れ閃光を散らす。



比較的落ち着いている?コアに比べ、部屋に着いたサロスは探していた。


「どこだ。俺の剣は。」


タンスの中、クローゼットの中、ベッドの下まで、探したが見つからない。


サロスは部屋の外に出て、そこら辺を歩く使用人やメイドに剣を見なかったかと聞き回った。


しかし、見つからない。


そんな時、ログハウスの城をウロウロと歩いていると、1本の矢が目の前を通り過ぎ、壁に突き刺さった。


羽の部分に紙が付いている。


サロスはそれを取り中身を見る。


……城外、丘の下で剣を持つ。……


サロスは城を出て、丘を下る。

外はもう暗く、星がよく見える。


そのような時間に、静かに佇む1人の姿があった。


「返してくれるか?アンバー。」


「もちろんです!」


アンバーはサロスの元に寄り、剣を渡す。


「…ありがと。もし、これが見つかってたら、ここまで待遇は良くないだろうからな。」


アンバーの顔は沈んでいく。


サロスはその顔を見てか見ぬか、話続けた。


「それで…どうして、あんなことを。」


「……。」


「って。聞かなくても分かるか。お婆さんだろ。たった1人の家族。そのために犯罪にまで手を染めて。」


「………。」


アンバーの両手は腰の前で組まれ、顔は下を向く。


「……夢まで諦めて。」


「え。どうしてそれを。」


アンバーはサロスの方を向く。


「小耳に挟んだんだよ。お前がレンジャーの試験者だって。」


サロスは続く。


「…なんで勇者に憧れるんだ。」


「…人を助けたいからです。」


アンバーの声は淀みなく、こちらを目掛けて真っ直ぐに飛んでくる。


「…私の両親は消防隊員でした。」


昔から、森林の中に住むエルフにとって火災は切ってもきれないものだった。そのために消防隊員は"勇者"のようにかっこよく、讃えられた。


「私はそんな両手が大好きでした。どんな時でも助けを求める人を見捨てない。たとえ、犠牲になっても。」


ある日、人為的起こされた火災がノビリスを襲った。その炎は今回のものと同じように逃げ場を塞ぎ、内側の人を閉じ込め、絶望に叩きつけた。


そんな中、アンバーの母と父は火の進みが他と比べ遅れている場所を見つけた。


そこを集中的に消火することで逃げ道を作り多くの人を救った。

1人も見捨てないと最後の住民を救い出すまで

2人は火の中を探し回った。

そうして、町を囲う大火災で脅威の死傷者0人を達成した。


しかし、2人は炎から出る魔粒子を多く取り込んでしまったせいで中毒となり火災現場で命を落とした。


「私は、最後まで人のためを思って行動した両親が大好きです。だから最初は親の後を追おうと消防隊員を目指しました。ですが私には水の魔法の素質がなかったんです。そこで消防隊員をサポートするレンジャーになろうと決めたんです。」


レンジャーは消火する消防隊員の代わりに逃げ遅れた人を助け、兵士としても働く仕事である。


アンバーは必死に勉強し、レンジャーの資格試験を受けた。


結果は…。


「…合格でした。」


しかし、そう言う彼女の顔は暗く落ち込んでいる。


「試験官が私の夢を聞いた時、私は幼い頃からの夢を言いました。"勇者になりたい"と。」


それが原因で、合格を取り消しにされ、アンバーは借金を返せなくなった。


元より、お婆さんを養いながらの専門学校に通うという、無理をしていたためである。

レンジャーはノビリス公認の職業であるためにお金の問題はじきに解決するものだった。


だが、不合格となり、計画は狂った。


「後は、簡単です。どうにかして、お婆ちゃんを養いながら借金を返済しなければいけないと根を詰めていき、やがて魔物のブローカーに志願したんです。」


サロスから、言葉は出ない。


「ここまで私の人生を壊した、"勇者"に憧れるのはなぜか。サロス様はそう思いますよね。」


…夜風が吹く。


「"勇者"が今の私を作ってるからです。」


その風はアンバーの短い茶色い髪を揺らす。


サロスはアンバーの元に寄り、剣を渡す。


「明後日。俺とコアはレスレク団の陣地に潜入する。それまでこの剣を持っていてくれ。」


一拍置いて、こう言う。


「"お前"を信じる。」


サロスはそう言うと城に帰って行った。


アンバーは預けられた剣を抱えた。


夜に告げる。


「私は"勇者"になりたい。」



1日、2日とあっという間に時間は過ぎ、当日となった。


「…それではレスレク団壊滅を願って!サロス様とコア様に!」


「2人に!!」


長とそれを囲う多くの人が飲み物を掲げた。


「コア。お前、最近大丈夫か。心に余裕がない感じがするぞ。」


「え?そ、そんなことないよ。ただ、緊張して。」


サロスは短く笑ってからこう言った。


「そうだよな。ここまで盛大に見送られるとは思ってなかったし。このお金も。」


テーブルの上にお金入りの袋をドサっと置く。


「こんなに貰ったの!?」


「ああ。あの若町長は気前が良いらしい。」


「これいくら入ってるの。」


「ざっと数えて…10万パス…あるな。」


コアとサロスは震え、額の高さに怖がった。


やがて、式は佳境になり、サロスとコアの2人を見送った。

城の扉を開け、数多の人々に拍手され、2人は踏み出した。



今まで布一枚で旅をして来たためにボロボロであった服を見てコアはサロスに言う。


「まずは、このお金で装備を買おう。」


「ああ。」


サロスは二つ返事で答える。

彼自身、替え時だと思っていた。


防具店を探していると、彼女が現れた。


「アンバー!どこにいたの!」


コアは迷わずアンバーの元へ駆け寄っていく。

それを追うようにサロスも彼女の方へ。


「ごめん。色々あって。」


アンバーは申し訳なさそうにコアに謝る。


まぁ、この気持ちは大方本当だろうが。


「サロス様。これを。」


コアから離れ、剣を渡す。


「…ありがと。」


「サロス様。コアくん。もし良かったら私も連れて行ってくれませんか。」


「え?どこに行くか知ってるの?」


コアからの質問が飛ぶ。


「うん。知ってる。レスレク団のところだよね。私は魔粒子を辿るのが得意だから奴らの基地に案内できる。」


コアは口をポカンと開け、すぐにハッと意識を戻して、サロスに言った。


「やったね!仲間が増えた!…サロス?」


無口なサロスを見る。


彼はアンバーに近付いて、聞いた。


「良いんだな。」


「はい。決めましたから。」


コアは頭に疑問符であったが、アンバーに防具店のことを聞いた。


場所を案内、一直線に向かい、すぐに着いた。


コアは店に入り、鎧を着て、剣を持ち、ノリノリで言った。


「僕こそ真の勇者なり!」


サイズの合っていない鎧で顔の半分が隠れているのを見て思わず笑ってしまう。


「コア君。それあってないよ。」


アンバーは笑いながら言う。


その時、サロスはアンバーの背中に弓に加え、剣と盾が背負われていることに気付いた。


「…憧れか。」


そう呟き、自分の装備を選ぶ。


手に取った鎧を着て、鏡を見る。


黒い目、黒い髪。

何の変哲もない顔。


これが勇者の顔か。

やっぱり似合わないな。


結局、動きやすい服を選びマフラーを新しくした。


コアもアンバーも結局、姿はあまり変わらず新しいものに変えたのみだった。


店を出て、アンバーは早速、魔粒子を調べる。

3人はあの火災の魔粒子を辿り、レスレク団の拠点へ向かった。



まだ直ってないために車は使えなかった。


その間、コアとアンバーはまた勇者の話で盛り上がる。

時折、サロスにも話が振られ、それに答える。


「サロスはどうしてそんなに勇者に詳しいの?ただ300年生きていたからって身につけられることじゃないでしょ。」


コアはそう疑問を投げた。


「そういえば、言ってなかったな。俺が魔王に負けた後の話は。」


じゃあ、良い機会だし、と、サロスは話し始めた。


300年前、魔王から逃げることに成功したサロスは、仲間の遺品を彼らの地元に届けようとポプルス中を駆け回った。


しかし、この頃から"勇者"が持つ意味は変わった。


そのために、勇者に関わる人の物は拒否され始めた。


持ち帰っても、涙すら流されず、追い返される。

そんなことが続き、サロスは決めた。


亡くなった勇者のために遺品を回収し、供養することを。


ここから、サロスの骨董品屋、"レリク"が始まった。


また、しばらくすると、勇者の遺品回収としてそこそこ有名になったサロスは魔王の領域を知る人としても有名になった。


その噂を聞きつけた勇者はサロスの元へやって来て、仲間になってくれと頼んだ。


ここから先は予想できるだろうが、仲間になったサロスはその時々の勇者を知ることができ、かつ先で敗れれば遺品を回収することができる。


「ではでは!ルイーザ様もですか!?」


アンバーは聞いた。


「そうだ。」


「どんな風に出会ったのですか?」


アンバーは続けて聞いた。


「分かった。教えよう。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


サロスは300年前、魔王に敗北した後も諦めず、その時々の勇者と共に挑み続けた。それから50年。つまり、現在から250年前のある日、レリク、サロスの家に客人がやってきた。


「ここの近くにいるという剣の勇者を知ってるか!?」


ドアを壊す勢いで開け放ち、大声でサロスを探していた。


もちろん、そんな大音量に気付かない訳もなく、サロスは戸惑った声で答えた。


「な、何ですか。」


「伝説の剣に選ばれた勇者を探しているんだ!」


黒い髪にツインテール。黄緑色の目を持ち、なにより尖った耳をピクピクと揺らしながら彼女は大きな声で言った。


「それって、俺のこと?」


「お前は剣を持っているのか!?」


そう言う彼女に、サロスはグラディウスを見せる。


「本物だー!なら!お前!私の仲間になれ!」


感動したかと思えば次にサロスを自身のパーティに招待した。


「…おっと。言い忘れてた。私の名前は、ルイーザ。魔王を打ち倒す勇者の名だ。」



それからというもの、彼女は男以上に男らしく、猛々しい人で、あらゆることに巻き込まれに行く人であった。

そのために、サロスとそれ以外のパーティメンバーは常に苦労させられた。



そんなある日。


メンバーの1人がルイーザに対して感謝のプレゼントをしようと言い出した。


それに深く賛成したサロス含む3人でルイーザの好きなものを集め、日々の感謝を込めて渡すことにした。


その中の1人は魔王の領域内にのみある、ある花をプレゼントしようと考えた。


その花とは青い薔薇であった。


それを求めた1人は紆余曲折を得て、どうにか一輪の青薔薇をゲットできた。


しかし、事件は起こった。

竜騎士が彼を捕まえたのだ。


罪は領域への無断侵入。


それを聞いたサロス達はルイーザに伝えると、彼女は風のように竜騎士を追った。


やがて、ルイーザとサロス達は竜騎士に追いつき、彼女は言った。


「仲間を離しやがれ!!」


その怒号を聞き竜騎士はルイーザ達に提案をした。


一本勝負。勝てば仲間を、負ければ全員を殺す。


ルイーザはそれを受けた。


剣と盾を構え、竜騎士に言った。


「必ず、返してもらう。」


2人の戦いは熾烈極めるものだった。

火花が散り、衝撃で空気が揺れ、見ているこちらも手に汗を握った。


正に互角。


"絶対"を守るエルフの勇者として、一歩も竜騎士に気後れせずに立ち向かった。


だが、少し竜騎士の方が上手(うわて)であった。


やつはまたもや仲間を攫い、ルイーザの気を乱した。


ルイーザは約束を守らぬ姿に怒りを募らせた。


その瞬間であった。


判断を鈍らせたルイーザに1本の剣が突き刺さった。


竜騎士の顔は嬉々とし、腹に刺した剣を抜こうとする。


しかし、抜けない。


力をどんなに込めて抜こうとしてもびくともしない。


「…言っただろ。必ず返してもらうと。」


黄緑色の目は真っ直ぐ竜騎士の目を据えていた。


ルイーザは右手の最後の力を振り絞り剣を振い竜騎士の鎧ごと、首を切った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こうして、勇猛な勇者。ルイーザは命を落とし、仲間を救った。」


「ルイーザ様はやはり本当の勇者なんですね。」


「…間違いない。」



と、勇者の話が終わると同時にあのフードが現れ走ってサロス達から逃げていく。


「おい!待て!」


すかさず追いかけるサロスは叫んで止めようとしたが効果なし。


木々の間を草木を揺らしながら追いかけっこが始まった。


遅れないようにコアとアンバーもついてくる。


右に左に、撹乱しようとしてくる。


サロスは待てと叫び、コアとアンバーに位置を知らせながらフードを追う。


アンバーは言う。


「この道、魔粒子を辿っている。」


つまりフードは自分の拠点を明かしにサロス達の目の前に現れたことになる。


フードは諦めず、木と木の間を縫って、3人を巻こうとする。


サロスはその行動にやがて遅れを取り、見失ってしまう。


だが、フードが洞窟の中へ入って行ったのを見た。


サロスは迷わず追いかけ、洞窟の中へ。

コア達2人も続いて入っていく。


しかし追いかけていたフードの姿はない。


洞窟の中には松明が置かれて、そこそこ明るい。


真ん中には祭壇のように土を盛り上げ、洞窟の壁に掛けられた5枚のタペストリーが一望できるスペースがある。


その7枚のタペストリーの両端に先ほど述べた松明が2本ずつ掛かっている。


それ以外に入り口も、それに通ずるボタンもない。


「あいつはどこに行ったんだ。」


サロスがそう漏らすくらいにはここから移動する道が見つからない。


その時、コアがピンときたのか、こう言った。


「このタペストリーを燃やしてみようよ。」


「…まあやってみるか。だがどうやって?」


松明はかなり高い位置にあるために松明自体をタペストリーに当てることはできない。


「私に任せてください。」


そう言ってアンバーは弓を構える。

松明の方向に。


そして、弦を離し、矢は一直線に松明の火に飛び引火、壁に反射しタペストリーを燃やした。


「熱っー。」


コアは燃えるタペストリーを見て感想を述べた。


身の丈2倍以上のタペストリーが燃えているのだから当たり前である。


そうして、灰となったタペストリーの奥には何も無かった。


「何も無い!」


コアもそう言った。


「…これじゃないってことか。」


「じゃあ、私が残りも燃やす?」


「いや、待て。こんなあからさまなことあるか?」


燃えるタペストリーの隣に松明。


「いかにも燃やして下さいって言ってるみたいだ。」


サロスは周りを見渡し、ヒントを探す。


「…無い。」


それでも考える。


「…なら。ここから見れない場所…。」


サロスは祭壇から飛び降り、祭壇本体を見る。


そこには…。


「あった!タペストリーだ!」


壇上では見えない、壁のタペストリーと反対の位置、祭壇の下にタペストリーは飾られている。


「これを燃やしてみよう。アンバーできるか?」


「…やってみる。」


弓を構え、岩との反射角を考え、松明を狙う。


そして、矢を放つ。


すると、アンバーの考え通り、松明で引火した矢は岩で跳ね返り、祭壇下のタペストリーに刺さり、燃やした。


その先には…。


「階段だ!」


コアが言った。


「俺のセリフだ。」


サロスがツッコむ。


3人は階段を降りて地下へ進む。



しばらく歩くと広い部屋に出た。

とは言ってもその全容は暗く、見えない。


見えるのは、中央に立つ展望台のような、神輿のような物である。

赤い提灯がその塔を囲うように吊るされている。


目を凝らすと、そんな塔の周りを巡回するフードがいた。


ぱっと見4、5人のフードが見回りしているようだ。


「よし。コア。アンバー。合図したら俺について来い。監視を掻い潜るぞ。」


小声で物陰に隠れながら2人に告げる。


「待って。町長さんから言われたのはレスレク団の壊滅だよ。なのに、監視も倒さないの?」


「…いいか。こういうのは1番上の奴をどうにかすれば解決するんだ。」


「そんなわけ無い。今、監視してる奴らが次のレスレク団を作るかもしれないんだよ?」


「でもな…。」


コアはサロスの手を振り解いて、監視の前に出る。


「おい!」


フード達は振り返り、武器を構える。


「全員倒す。」


電気を両手に纏い、宣戦布告。


「あのバカっ。」


サロスは物陰に隠れたまま、コアを罵った。


「助けないんですか?」


「あんな奴知るか。」


アンバーが聞くがサロスは聴く耳を持たない。


やがて、コアとフードの戦いは始まる。


コアは電気をムチのように実体化させ、フードの攻撃を防ぐ。


電気のムチを振り回し、フードは近付けない。が戦いも終わらない。


そのためにコアは隙を見てフードの元へ駆け寄り、体に電気を流そうとした。


「罪のない人達をよくもっ!」


コアの右手は稲妻を散らしながら飛び掛かる。


とその時、サロスがコアを押し倒し、電気は床に流れ消えてしまった。


「っ!何するの!」


コアはサロスを突き飛ばし、怒った。


「バカっ!あんな電力で人に流したら死ぬだろ!」


「殺すためにやってるんだから当たり前だ!」


「…お前は勇者だ!人殺しじゃない!」


「……。」


コアの口は塞がった。


フードは2人の言い争いに構わず襲ってくる。


それに気づいたサロスは攻撃を避け、剣を抜き上段からの振り下ろしでフードの頭に殴打する。


「バカ。行くぞ。殺すなよ。感電程度でいい。」


「分かった…。」


コアは両手に電気を纏い直した。


「アンバー!あの塔に登って援護してくれ!」


サロスはそう彼女に命令し、アンバーも了解と障害物を越えながら中央の塔に向かった。


その直後、フードは全てで6人であったのに、12人に増えた。どこからともなく煙の中から現れた。


「まるで忍者だな。」


サロスがそう漏らすほどである。


コアとサロスがそれらのフードを迎え撃つ間、アンバーは塔の梯子を登る。


が、追加の6人は弓矢を使うため高所は使わせないと言うつもりかアンバーを狙う。


梯子に登るのに集中して、敵の放つ矢に気付かない。


そのことにコアが呼びかける。


「アンバー!後ろ!」


その声に反応し、手を梯子から離し、矢を避けた。


すかさずフードの矢は飛んでくる。


アンバーは腰に下げた盾で防ぎ、急いで梯子を登り、塔の上を目指す。


コアは向かってくる槍のフードにゆったりと構える。


槍はコアの体を貫かんと突いてくる。


コアはそれを避け、2、3回突いたところで槍は止まった。その一瞬を見逃さず、コアは槍を掴み、電気を流す。


槍のフードは感電し、コアはフードの足元に電気を飛ばし地面を少し抉り、フードを倒す。


その後ろから続くフード達は突然倒れた槍に躓き、重なっていく。


コアは地面に手を置き、固まったフード達を感電。


また、更に奥からフードは現れた。


コアは障害物を階段のように登り、フードに跳びかかった。

その跳ぶ直前に足から電気を出し勢いをつけた。


左手に電気を溜め、フードを殴ると同時に電気を放出。


フードは大きく飛ばされ床を舐めた。


サロスもフードの槍を相手に戦っていた。


槍を剣で止め、回し、地面に相手の槍を突き刺した。


動けないフードに肘打ち、体を捻って右足でフードの腹を蹴る。


よろけたフードは後ろのフードにぶつかり、密着状態。


そこをつく。


サロスは剣を斜め下に構え、素早く、フード達の元へ。

そして剣を振いまとめて飛ばす。


アンバーはどうにか矢を避けながら塔の上に。


だが先客がいた。


アンバーは腰の剣と盾を持ち、先客を倒す。


盾で1人を塔から押し出す。


落ちてきたフードを見て、サロスは言う。


「お前にも言ってるんだぞ!人を殺すなよ!」


「は、はい!」


アンバーは答え、残りの1人に向かう。


盾で攻撃を防ぎ、弾き、剣を両手で持ち、刃のない横面を頭にぶつける。


カーン!と金属音を出して、フードを倒した。


盾と剣をしまい、弓に持ち替え、命令の援護を行う。


その時、サロスの背後にフードの姿。


その姿にいち早く気づいたアンバーは矢を奴の肩に打ち、怯ませ、サロスに気づかせる。


サロスはそのフードを剣で斜め上から振り下ろし、倒す。


指を立たせ、グーサイン。


サロスは2人に告げる。


「伏せろ!」


腰を回し、剣を左に構え、緑の宝石を光らし、大きく振った。


コアは膝をつき、アンバーも伏せた。


円状の旋風が部屋に広がり残りのフードを吹き飛ばし、壁に叩きつけ、気絶させた。


しかし、塔の中部分が風で脆くなり、塔は倒れそうになる。


「アンバー!」


サロスは物を使って塔に近づき、その上から飛び降りたアンバーを抱える。


「あ、ありがとうございます。」


「悪い…。大丈夫か。」


「は、はい。」


アンバーはサロスの剣が光ったことに気を取られ返事が途切れ途切れであった。


「行こう!」


コアが2人を呼び、サロスがアンバーを下ろし、コアに付いて行く。


コア達はある扉にぶつかった。


とは言っても実際にぶつかったわけではない。


開けられない扉が3人の目の前に現れたのだ。


サロスがコアの肩を持ち、俺が代わろうと扉を押し引いてみる。


だがびくともしない。


「3人で力いっぱい押してみましょう。」


アンバーの提案を受けて、コアを1番前に、サロスを後ろに3、2、1のタイミングで押すことに。


アンバーが数える。


「3。」


「2。」


「1。」


コアにアンバー、サロスが一斉に力を込め、扉を押す。


すると、扉は金属を軋ませ、汚い高音を出しながら徐々に開いた。


「ここは、なんだ。」


現れた部屋は冷凍室だった。


「さ、寒い。」


コアが両腕を摩りながらそう言った。


確かにとサロスも息を白くして辺りを凝らして見る。

少しずつ、何が冷やされているのかが見えてきた。


「これは…コロヌか?」


天井から吊るされたコロヌだった。

体毛も内臓も、何も手につけられていない。

ただ、死んだままを吊るされている。


サロスは小さな声でアンバーに聞いた。


「何か知ってるか?」


「いえ。私は、集めてこいとしか言われてなくて、何に使うとかは。」


「2人ともこっちに。」


コアが2人を呼び寄せる。


「何かの手記を見つけたよ。日付と何かの番号?が振られてる。」


「この番号。さっきのコロヌに付いてたのと似てるな。」


「じゃあ、この番号を探してみよう。」


「そうだな。」


3人は183276という番号が付いたコロヌを探し始めた。


コロヌは列を為して吊るされている。

その列は全部で8列ある。縦に何個ほど吊るせるかは分からないが、10個はいけるはずだ。


そして、サロス達は順番に吊るされているコロヌを調べた。


183273。


183274。


183275。


183277。


「…無いな。」


少し先も調べていたサロスが言った。


「どうやら、あの手記に書かれているのは何かに使ったコロヌと使った日を記してあるんだな。」


「…コロヌだけじゃない。」


ふとコアが漏らした。


「何言ってるんだ。」


サロスがコアに近づき、そう聞いた。

コアは黙って指を指した。


その指の先には…。


"人間"が吊るされていた。


サロスはその人間に寄って、吊るしから下ろした。


「おい!大丈夫か!」


だが応えない。

脈を見るが、無い。

完全に息途絶えている。


「こ、ここに、人間もいるってことはあの手記の中のどれかにも人間が…。」


コアは言った。

そんな想像を口にした。


「何に、使ったんだ…。」


「それはじきに分かります。」


「え?」


首に何かを刺された。

その感覚も少しずつ薄れていく。


隣のコアも倒れ、視界がぼやけていく。


やがて、視界は暗闇になった。


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