◎旅立ちでは。
そして数時間。
2人は幾度となく寄り道をして、やっとのことで村、サロスの家に着いた。
「よし。じゃあ。俺は車と色々必要なものを取ってくる。コアは…。」
「サロス。僕。」
「コア。怖いのか?」
「…分からない。でもお母さんに会いに行く足が動かない。」
「コア。悔いのないようにするんだ。絶対に。」
サロスは怖気付くコアにそう言った。
「…う、うん。」
またもや歯切れが悪い返事である。
コアは母の声と手を無視してしまった。
それは母親へ向かうコアの足を止める。
なんて言えばいいんだろう。
ひたすらにそう考え、目を回す。
コアはそんなこんなでサロスの家に彼と共に入った。
「よし。始めるか。」
サロスはガレージ内に止めてある紫のバンを見てそう言った。
バンパーは凹み、エンジンはピストン部分が折れていたり…。
「きっと、あの時無理やり動かしたせいかな。」
ゴブリンのことを思い出し、少し後悔する。
工具を取り出し、換えの部品を取り出し、作業に取り掛かった。
コアは、店内を行ったり来たり、考えた。
時にはクローズと書かれた掛け看板のドアに頭を打ちつけて。
ドアの音が漏れたのか。外からノックが3回ほど聞こえた。
コアはおでこを擦りながらドアを開けた。
「なんだよ!生きてたのか!」
「良かったー!」
「ジェイク!ヘレン!何でここに!」
「何でって、ここ最近ずっとここに通って戻って来てないか確認してたんだぞ。」
「うんうん!」
2人は、よくこの家にコアと共に遊びに来ていた仲良しグループの2人である。
「それにしても良かった!」
「うん!」
3人は抱き合い、喜びを噛み締め合った。
「…村のみんなは僕のことについてなんか言ってた?」
コアは2人に真剣に聞いた。
「まあ。そうだな。コアについて、ってよりサロスの方が噂に上がるかな。」
「うん…。」
「噂?」
「ああ。簡単に言えば、前々から怪しかったなり、お金を騙し取られたなり、いい噂じゃない。」
「うん。」
「その分、お前には逆に被害者なり、可哀想だとかドウジョウ?してる感じが多かったな。」
「うん。」
「…間違ってる。そんなの。」
「その気持ちは分かるよ。ただ、しばらくはこのままでいた方がいい。」
「…どうして。」
「…分かるだろ。コアまで、そう言われ始めたら俺達だってつらいんだ。」
「…でも、サロスは、僕達を助けてくれた。それを忘れるのか?」
「……。」
「…。」
2人は唇を噛み、言葉を発することは無くなった。
「…。僕は伝えに行く。」
コアは2人を押し除け村の中心部へ向かった。
「待てよ!コア!」
「コア!」
その後、サロスは2人の声を聞いたのか、ガレージから出てきた。
「おー。お前らか。コアって呼んでたみたいだけど。ずっと会いたがってたぞ。」
周りを見回し、コアを探す。
だが、もちろん、見つからない。
「あいつ、どこに。」
「…サロス!ごめん!コアを止めて!」
「え?」
コアがサロスの評判を良くするために村に行ったことが伝わった。
「…あのバカっ!」
サロスはコアを追いかける。
数分後。
コアを見つけ、大きな声で呼びかける。
「コア!!」
「サロス?」
サロスは近寄り、問いただす。
「お前、何しようとしてるんだ。」
「村のみんなに君が悪い人でないと伝えるんだよ。」
「そんなことは必要ない。」
「…どうして。」
「必要ないことだからだ。」
「そんなんじゃわからない!」
「…いいか。俺は村のみんなに認められたいから助けたんじゃない。助けたいから助けたんだ。」
「でも…、サロスは勇者に対する評価を変えたいとは思わないの?」
「思わない。」
「どうして。」
「勇者が今のような印象になったのは勇者自身のせいだからだ。人々から期待され、送り出されたのに、魔王は倒せず、世界は救えず、人々を裏切ってきた。」
コアは静かにサロスの言う言葉に聞き入っていた。
「だから、村の人が言う”勇者”の評判は正しい。それを変える気はない。でもな。変える方法がないわけじゃない。」
「え?それって。」
「魔王を倒すんだ。できなかったことをやり遂げるんだ。」
「…でも、そんなこと…。」
「俺達は勇者だ。だろ?命をかけて、世界を救うんだ。」
コアは頷き答えた。
「…そうだね。確かに僕たちは勇者だ。世界を救うヒーローだ。」
「…なんで、そんなものにあなたがならなくちゃいけないの?」
コアにとって聞き馴染みのある声がした。
「お母さん。」
「あなたね!私の子を奪わないで。」
母親はサロスに凄まじい剣幕でそう言った。
「…お母さん!それ以上はいいよ。」
「あなたは分かってないの。彼はあなたの才能を利用しようとしているの!」
「お母さん!僕は自分で選んだんだ。勇者になることを。」
「なんでよ!さんざん言ったでしょ!?勇者のなれの果ては絶望しかないの!お母さんを裏切るの?」
「…そういう意味じゃ。」
「お母さん。俺はコアを必ず守ります。」
「は?あなたには関係ない話…」
サロスは割って入った。
「いえ、あります。コアは自分で選んで俺に話してくれたんです。他の人を探すわけでもなく、一人で行くわけでもなく、俺を選んでくれたんです。俺はそれが嬉しかった。」
「だからって…」
「だからこそ、責任があります。彼を守る責任が。コアはこの世界を平和にしたいと望んでいます。その夢は俺が最後までサポートします。」
母親は気を落ち着かせ、聞いていた。
「なので、どうか、お許しください。」
「僕からも、お願いします。」
2人は力強く頼んだ。
「…なら。絶対に守ってください。私に残された家族はコアだけなんです。」
「はい。分かりました。」
母は息子に歩み寄り、こう告げた。
「コア。本当なのね。」
「うん。」
「絶対に帰ってきて。いつも、家であなたの好きなシチュー作って待ってるからね。」
涙交じりに告げた。
「絶対帰ってくるよ。」
2人親子は精一杯抱き合った。
それを見てサロスは思った。
後悔はさせないと。
日をまたぎ、次の日。
サロス、コア、ジェイクにヘレナの4人は協力してバンを直した。
バンパーを交換し、ピストン部品を取り替えた。
加えて、3対1で紫色の車体は変更されることに決まった。
ちなみにサロスは少数派である。
紫色から黒に変えられた。
暗闇に紛れることができるためである。
そう理にかなった色となったバンは修理完了した。
しかし、修理をし終わってからというもの、兵士の声が聞こえてくる。
「じゃあな。コア。元気でな!」
「うんうん!!」
「うん。2人とも元気でね。」
「挨拶は済んだか?」
「うん。大丈夫。」
ジェイクとヘレナは機会を見て、家から出ていく。
「俺達も行くか。」
サロスはマスクを手渡す。
「これは?」
「変装グッズだよ。ここを出るまで付けとけよ。」
「分かったよ。」
2人はゴム製の顔全体を変えられるマスクを被った。
そして、ようやく、サロスは車のエンジンをかけ、ガレージから抜け出した。
国境の線にはところどころに門が道なりに設置されている。
そこ以外からは国から出ることはできない。
次の目的地は、国境界の西の門である。
「コア。あと少しで西門に着きそうだ。」
「もう!?」
道中、順調に車を走らせて数時間。
西門まであと数キロである。
「…まあな。」
コアの驚愕と反対にサロスは冷静である。
「てか、その本ずっと読んでるな。」
「この本、面白いんだよ。今までの勇者について記録されててさ。」
「そうかそうか。」
「ほら!サロスについても…。」
コアは、サロスが載っているページを隅々まで読む。
そこには、「300年前、魔王に殺され死亡」と書かれてあった。
「死亡…って。これどうなってるの?てか300年前って?」
「そうだったな。コアにはまだ言ってなかった。俺は、300年前の勇者だ。」
コアは目を点にして驚いた,
「え!?じゃ、じゃあ今のサロスは…。」
「幽霊じゃないぞ。俺は生きてる。」
サロスは300年前のことを説明し始めた。
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300年前。
サロスはある辺鄙な村の出であった。
魔王の侵攻は止まるところを知らず日々サロスの村も危ぶまれていた。
ある時、サロスは村の友達と遊んでいると森の奥深く、洞窟の中に何かがあることに気付いた。
かくれんぼの最中で、洞窟はそんな遊びに適中であったし、それが気になって仕方がなかった。
「おーい!誰かいるのか!」
洞窟に入って、第一声は先に続く暗闇に飲まれていった。
中にも植物が生い茂り、進むのに苦労し、やっとのことで辿り着いた。
何かの場所に。
その何かとは、
「…剣?」
岩にヒビを入れながら突き刺さっている剣だった。
黄金の鍔に緑色の宝石が埋め込まれている。
それ以外は比較的シンプルな剣であった。
サロスは考える暇もなく、その剣を握る。
すると、宝石は輝き、粉塵を巻き起こした。
だが一心に剣を岩から抜こうと踏ん張った。
やがて、宝石の光が洞窟の外に漏れ出すほどになると剣を岩から抜くことができた。
力の反動で地面に座り込むが、サロスは抜いた剣をまじまじと見た。
それから、サロスは勇者として、旅に出ることになった。
道すがら、魔法使いのアストラ、戦士のヴィルトゥス、僧侶のクルックス、という仲間を見つけ、魔王討伐を目指した。
数々の試練を超え、魔王の領域に踏み込み、魔王に挑んだ。
しかし、結果は分かる通り、敗北した。
アストラも、ヴィルトゥスも、クルックスも、皆、魔王に焼かれ、刺され、殺された。
剣の勇者であるサロスも殺されると覚悟した。
しかし、できなかった。
伝説の剣、サーケル・グラディウスにより不老不死となったためである。
サロスは考えた、魔王にはここで挑んでも勝てないと、ならば、仲間の遺体を持ち帰り、家族の元へ届けるべきだと。
仲間を地元に返すことを決め、魔王の領域から脱出し、周った。
周り終わったあと、サロスは、家に帰ることはなかった。
なぜか。
村を出る時、期待された。魔王からの支配が終わると、世界は救われると。
だが、できなかった。
単純に言えば、村の皆んなに合わせる顔がなかった。
帰ることもなかったために、親にも死んだと思われたのだろう。
だから、サロスは300年前、死んだと書かれている。
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「だろうな。俺が死んだと書かれている理由として考えられるのは。」
「……。」
コアには何も言えなかった。
自分もこれから、そうなるのかもしれないと考えたし、仲間を失った悲しみも、約束を果たせなかった後悔も、感じていた。
「…ほら。到着だ。」
ブレーキを踏み、ゆっくり車を止める。
「身分証を。」
サロスは言う通りに出す。
そして、手続きを通している間、コアは本を読み続けていた。
そこには、こう書かれていた。
「世界を変えようと努力し、魔王を倒すことに健闘した勇者。総勢、849名に追悼の意を。」
手続きは済み、門は開けられた。
「…ありがと。」
門番に礼を言って、再び車のアクセルを踏み、ポプルスから逃げることに成功した。
それから北のエピテンスに車を走らせた。