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◎道中には。


「これから、どうするの?」


コアは道に転がる小石を蹴りながらサロスにそう言った。


「雷の魔導書を取りにいく。」


「雷の魔導書って?」


「歴史で習わなかったか?」


コアは首を横に振る。


「分かった。じゃあ説明しよう。」


雷の魔導書は他の火、風、水の魔導書と同じ系列のものである。その中身はその名の通り属性に従った応用魔法が載っている。


これは、見るからに雷属性のコアにピッタリである。魔法の強化ができれば、魔王討伐に一役買える。


だが忘れてはいけないのがこの4冊の魔導書は現代を作った、技術発展の要であることだ。

そのため、それぞれの魔導書は有力な4つの国家が保管している。

加えて、保管している国はどこかは分からない。

機密情報として扱われ、国民には到底伝えられないものだった。


しかし、サロスは1つだけ場所を知っていた。

それが雷の魔導書である。


その保管場所は…。


「ポプルス国中心部、キャッスルオブポプルスの地下だ。」


「え!?…ってことはまた、お城に侵入するの?」


「ああ。」


「嘘でしょ…。」


「まあ、最後まで話を聞け。」


サロスは続いて言った。


場所が分かっても、簡単に盗める物ではない。


雷の魔導書が置かれているのは正八角形の部屋である。

この部屋には4つのドアが等間隔に付いている。そして、そのドアの前には近衛兵が2人、交代制で警備している。

その上、部屋の中には罠がこれでもかというほど仕掛けられている。

どれか一つに引っ掛かるだけで、国中の兵士が侵入者を捕らえに来る。


「…じゃあ、どうするの?」


「望みは、頭が良く、近衛兵を2、3人を相手取ることができる仲間を少なくとも2人得ること。」


「そんな…。」


コアは膝から崩れ落ちそうである。


「まあ。考えはある。…サピテンス国だ。」


「サピエンスって、ハーピーの国の?」


「ああ。北の最高高度に国を構えるあの国だ。」


「さ、寒そう。…でも、なんで?」


「彼らは他のどの国よりも勇者に対して寛容なんだ。古代の勇者についても研究してたりするからな。」


「そんなことして、サピエンス国は魔王に狙われないの?」


「さっきも言った通り、国の場所自体が遠く、魔王も攻めたくても攻めづらいからな。ドラゴンとかを引っ張ってこないと難しいだろうな。」


「なるほど。じゃあ、つまり、僕達が今から向かうのは…サピエンス国ってこと?」


「その通り。だが、まずは、俺の家に戻って車を取ろう。…それに、お前も母親に言うことがあるんじゃないか。」


「…そ、そうだね。」


コアは歯切れ悪く答えた。



今、2人がいるのはポプルス国、東城下町の塀外。


そして、目指す場所はさらに東に進んだ、港町。その間を結ぶ一本の数キロに及ぶ道を歩いていく。


コアはもちろん、サロスはお金を持っていないため、バスも使えない。



そうして地道に歩き、1キロかそこらを超えた辺りに、ある人が右往左往と見るからに迷っていた。


「…あ。ここら辺にアイフっていう本屋さんってあるかい?」


その迷っている人、お婆さんは2人に話しかけてきた。


サロスは、お婆さんにこう教えた。


「…あー。それならここを右に行って、真っ直ぐに行った突き当たりにありますよ。」


「…ん、うーん。ごめんね。私、本当に地理に弱くて。もしよかったら案内してくれるかい?」


続けて、彼は了承しようとするが、コアに止められた。


コアはサロスの腕を引っ張り、小声で主張した。


「サロス。待って。今はそんな時じゃないでしょ。早く車を取って、この国から出ないと、また捕まっちゃうよ。」


「でも、放っておけない。…大丈夫さ。」


だが、コアの主張は却下。サロスはお婆さんのお願いを聞き入れた。


「本当かい!ありがとねー。」


臨時的にお婆さんがパーティの仲間入りを果たした。


お婆さんに積極的に話しかけるサロスを見てコアは不服そうに溜め息をする。


「最近は、やっと自分から考えるようになってねー。全く困ったもんだよ。」


「お孫さんもきっと、お婆さんに感謝してますよ。しっかりと怒られて育てられてよかったって。」


「そうだといいんだけどね…。」


コアは考えた。

怒られて育つことについて。


昔から僕は親のためを思って生きてきた。

だから、怒られるようなことをした覚えはなかった。


怒られてみたかった。

父親に。


変かもしれない。

でも、そういうことから学べることもあるのかもしれない。


サロス達の会話を聞いていたらそう思ってしまう。


「なぁ。コア。お前もちょっとはお婆さんと話してみたらどうだ?」


「いや、僕はいいよ。」


コアは愛想悪く会話を切った。


「…そうかい。」


サロスはそれに呆れて返した。


居心地の悪い空気の中、お婆さんが言ったアイフという本屋に着いた。


「ありがとうね。案内してくれて。…何かお礼をしたいね。」


サロスは大丈夫だと言うが、お婆さんは聞かない。


「…あー。そうだ。2人にそれぞれ好きな本を買ってあげる。」


流石にここまで言われると断ることもできないため、サロスは微笑みながら頼んだ。

が、相変わらずコアはむすっとして何も言わない。


アイフ店内には小さい本屋にしてはかなりの量が置いてあった。

歴史書に図鑑、小説に辞典まで。

様々であった。


サロスとコアは別れ、それぞれで本を探し始めた。


お婆さんはコアの元にやって来た。


「…ごめんなさいね。急いでいたところ、頼み事なんて…。」


「え?あ、いや、大丈夫です。別にお婆さんが尋ねてきたことに不満があるわけじゃ…。」


「…あら、そう?でも、あなた、ずっと…。」


「それは、サロスのせいなんです。僕達は一刻も早くこの国から出なきゃいけないのに…。こんな…。…すみません。」


「大丈夫。いいのよ。それにしても、あなた達は前からこんなに仲が良くないわけじゃなかったのね。良かったわ。」


「そんなこと…お婆さんが気にする必要は…。」


「いいえ。2人はこれからか、これまでか、旅をしてるんでしょ?だったら、仲良くしないとダメよ。」


「わ、分かりました。」


なんだか、温まるな。

コアは念願の"叱られる"ことができた。


お婆さんは2人に本をあげ、別れた。

そんな別れ際に一言。


「ここまで送ってくれてありがとうね。それに2人とも仲良くね。旅は楽しくないといけないからね。」


「はい。」


「…はい。」


少しずれているが、返事が重なった。


またもや村に進み始めた。


「サロス。ごめん。僕、自己中だったよ。」


「いや、俺も、しっかり説明しなかったのも悪いから。」


「説明?」


「ああ。人助けの理由だよ。今、お前、どう思ってる?」


「…!」


コアは気付いた。

さっきまでの鬱陶しさが消えていた。


「人助けってさ。もちろん。助けられた人にもいいものだけど、助けた方にも何らかの利点があるんだよ。それを、教えたかったんだけど、口下手だからさ。体験してもらおうってさ。」


「…ちゃんと伝わってるよ。なんとなく、分かった気がするから。」


「そうか。なら良かった。」


時間はちょうど朝ごはんの時間。


「せっかく人里に近付いたし店で食べるか。」


「うん。そうしよ。」


寄り道を繰り返す。


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