◎"勇者になる"とは。
あの村の襲撃から翌日。
サロスは店に帰ってから、そそくさと荷物をまとめていた。
その顔は悲しみか悔しさかで歪んでいた。
「…サロス。」
そんな時、常連が来た。
「サロス?何して…。」
コアは彼の姿を見るなり困惑していた。
「どうして身作りなんて。」
「…俺の過去がバレたからな。ここから出ていくんだよ。コアも、もうここに来るな。怪しまれるぞ。」
サロスはコアのことを見ずにただ淡々とそう言った。
だがコアにはそう言われても引き下がれない用事がサロスにあった。
「…サロス。僕…。僕、"勇者"になりたいんだ。」
その言葉を聞いた瞬間、彼の忙しない手は止まった。
「お前、何になりたいって。」
声色は暗く、恐れを引き出すものだった。
それでも、コアは引かない。
「僕は、勇者になりたい。」
「お前、自分が言っていることが分かってるのか。この世界で"勇者"は裏切り者、臆病者のレッテルなんだぞ。そんなものにお前はなりたいのか?」
「…なりたい。」
「…それに、勇者になるってことは死と隣り合わせなんだぞ。一度旅に出れば、もうここに戻れないかもしれない。お前の母にも父にも会えなくなるんだ。」
「…僕の父は昨日死んだんだ。」
コアはサロスの言葉の連なりを止めるように言った。
「僕は、止めたいんだ。きっとこれから僕みたいな犠牲者が増える。昨日の村に来たゴブリンはその先駆けだよ。そうなる前に止めるんだ。」
「……。」
サロスは沈黙した。
コアの父が亡くなったことに対して喪に服しているのか、また別の意味があるのか、分からない。
ただ、この沈黙を破ることは間違いだと、コアには分かっていた。
「コア。お前がなりたい理由は分かった。でも、許可できない。さっきも言った通りお前の命だっていつ失うか分からないんだ。その理由だけで乗り切れるほど道のりは甘くない。」
「…サロス。なら、見てて。」
コアは彼から一歩下がり、両手を合わせ、何か力を込めた。
そして、その両の手を徐々に離していくと、五指、それぞれの間に電光の線が現れた。
コアが手を捻るとそれに対応し電光はねじれ、人差し指を動かせばそこに流れる電光も波のように揺れ動く。
サロスは、思った。
天才だと。
現代、魔法の力は小さく、弱々しいものである。電気の魔法で例えれば、静電気くらいが関の山である。
それを、コアは静電気よりも太い電光を出し、また微細なコントロールも出来ている。
言うなれば、300年前の魔法使いに匹敵する魔力だ。
「お前、いつからこんな力が…。」
「昨日から。お母さんを救おうとした時に一心不乱に力を込めたんだ。その時に…」
コアが説明を言いかけた時。
ドアを蹴破り、数多の兵士が入ってきた。
「おいおい。あまりにも早すぎる!」
「これ、どうなってるの!?」
兵士はサロスとコアの周りを囲み、槍を構えた。
そして他の兵士とは一線画す容貌の兵士が言った。
「非促進勇者誕生条約に従い、剣の勇者であると告発を受けたサロス、お前を逮捕する。」
「…マジかよ。」
「お前!そこの子供!お前はこの件に加担しているのか。」
兵士はコアに詰め寄った。その雰囲気に圧倒されたコアは否定することができず、ただ口を閉ざしていた。
「…そいつは俺が誘ったんだ。」
すると、サロスは兵士に弁明し始めた。
「そいつの魔力はすばらしくてな。新しい勇者にできるかもと思ったんだ。でも本人が勇者になる気がないと何回も断った。"家に帰って母親と一緒に過ごしたい"と言ってな。だからそいつは被害者だ。この件とは無関係だ。」
コアは、サロスからの目配せを読み取り、頷いた。
「…そうか。なら早くここから出て行け。」
コアは心配そうな目で彼を見ながらレリクを後にした。
そして、連行されたサロスは檻に入れられ、裁判にかけられた。
「判決を言い渡す。"有罪"。被告人サロスは数多くの証人により非促進勇者誕生条約に違反しているとして有罪判決とする。刑罰は極刑。」
「…おい。嘘だろ。」
サロスは被告人席で腕を拘束されながら、絶望した。
「刑罰は明後日。ポプルス国立アリーナで行われる。」
そんな裁判の後。
サロスは檻の中で考えた。
人助けして死ぬのか。これほどまでに良い死に様は無いな。
少し苦笑しながら考えた。
"あいつら"に会えるだろうか。
会ってくれるだろうか。
サロスは死んだ後のことを心配していた。
「…サロス。サロス!」
ん?誰だ?
彼は檻の外を注視する。その外には、コアがいた。小声でサロスを呼んでいた。
「お前、何やってんだ。目配せしただろ。」
コアに合わせて小声で返す。
「そう言われても、裁判の結果を見たんだ。明後日死んじゃう人をほっとくなんて無理に決まってる。」
「だがな、お前がここにいることがバレたらお前も死ぬハメになるんだぞ!?」
「……。」
コアの口は押し黙った。
「…父親のためにも生きてくれ。」
コアはどう開けるか模索するのをやめた。
実際、コアはまだ決心がついていなかった。
父親を偲んで母親と2人で生きるのか。
誰かを失くす思いを二度とさせないように魔王を倒すのか。
それか…。
「おい!誰だ!」
コアは小さい体を活かし、物陰に隠れた。
「…どうした。衛兵さん。」
「さっきここに、人影が…。」
「そうなのか?俺は見えなかったが。」
「そうか…。ふん。にしても、現代で勇者になろうだなんて、馬鹿だな。お前。」
「…そうかもな。確かに勇者の言葉が背負う意味は暗い物ばかりだ。」
コアは悩む。
「…でもな。勇者は、いつの時代でも希望の光なんだよ。口では憧れるなんて言えないかもしれない。がんばれと言えないかもしれない。それでも心の内では今度こそと願うんだ。」
「…なんか、お前、他人事みたいに言うんだな。」
「勇者は第三者目線が好きだからな。」
兵士はふーんと軽く流した。
コアは、兵士の目を掻い潜り村に戻った。
僕は…。
それから、二日経ち。いよいよの処刑の日になった。
「おい。出ろ。」
サロスは言われたとおりに動き、従った。
数分歩いた後、アリーナに出た。
真ん中にたいそうなギロチンが用意されている。木製の支えに、よく研がれた刃。
痛みを感じる前にあの世逝きだな。
サロスはあまり動揺していなかった。
だが、観客席は騒がしかった。
やっちまえ、だとか、やめて、だとか、三者三様の叫び声が飛び交っていた。
兵士がサロスに頭と両手を窪みに架けろと命令した。
先程までと同じように素直に言うことを聞く。
兵士はサロスが動かないことを確認し、もう上半分の板を彼の頭と両腕に合うように乗せ鍵をかけた。
そしてその兵士が観客席の中でも一番眺めがよさそうなところに座る王様に合図を送った。
「我が国民達よ!あの条約締結から200年。現在まで数多くの罪人を裁いてきた。今日、また1人重罪人がこの世から去る。これは我々にとって栄光ある日である。さあ。勇者を許すな!」
短い口上を述べた王は、ギロチンの隣で斧を持つ死刑執行人に頷いた。
「……。」
サロスは何も言わない。
死刑執行人は斧を振り上げ…。
その瞬間。
「待て!」
と叫び電気を帯びてコアが観客席から飛び出した。
数分前。
サロス…。何か考えがあるんだよね。
だから、あんなに冷静なんだよね。
コアは焦っていた。
「コア。いい?勇者っていうのはああなる運命なの。」
母はコアに言い聞かせていた。
一昨日。コアは母に言ったのだ。
勇者になりたいと。
それから、母親は勇者の何たるかを教えた。
…というより、勇者がどれだけ酷いものかを述べていた。
「……。」
勇者になることは今を捨てることだ。
それをコアは今回のことで深く実感した。
子供ながらに勇者になることを美化していた。
だが実際は違う。
勇者であることで死に直結してしまう。
それほどまでに勇者は恨まれ、疎まれ、憎まれる存在である。
でも、僕は…勇者にならなくちゃいけない。
そうならなくちゃいけない理由がある。
…お母さん。ごめん。言うことが聞けない息子で。絶対、生きて帰る。
コアは席から立ち上がる。
「コア?」
母からの言葉に耳を傾けない。
差し伸べた母の手を背中にする。
「っ!待ちなさい!」
…決めたことだ。
「待て!」
そう言って観客席から跳んだ。
電気を左手に纏い、地面に押し当てる。
そして溜めた電気を地中を通して流す。
土の中を5本の稲妻が進み、鍵を壊す。
しかし、ギロチンを吊り上げている縄までも焼き切ってしまった。
「やばっ!」
サロスは上の板を退かし、刃が首を切る前に間一髪で抜け出した。
「コア!危ないだろ!」
「ごめん!」
王様は下で見張る5人の兵士達に急ぎ命令を下した。
「兵士達!彼等を殺せ!」
その声を合図に槍を構え、ゾロゾロと2人の元へ迫る。
「おい。コア。ここに来たってことは、良いんだな。」
兵士達から後退りしながらサロスはコアに呼びかける。
「うん。決めた。勇者になるよ。」
彼の表情は依然暗いままだ。
だが、彼もまた決心した。
"勇者"になることを。
「コア!俺の剣を取ってきてくれ!その間は俺がこいつらを相手する。」
「分かった!…でもどこにあるの。」
「俺が出てきた門あるだろ。そこの中に武器庫がある。その中を探すんだ。形は分かるな。」
コアはうん、と頭を振り、強固な鉄の門に走っていく。
「…さてと。お相手願おうか。兵士の皆々様。」
兵士の数は5人。
相手にとって不足なし。
サロスは向かってくる兵士に力強く構えた。
1人目が槍を縦に振り、それを避けその兵士の腰に下げている剣を抜く。
2人目の振られた槍を剣で弾く。
高い金属の音が鳴る。
3人目の攻撃を避け、頭を剣で叩く。
4人目に槍を弾き、5人目に槍と鍔迫り合い、競り勝ち、顔を剣で叩いた。
兵士は痛そうにするが、効いてない。
サロスは刃の方を兵士達に向けずに剣を振るっている。
なのだから、もちろん効くはずがない。
彼は向かってくる兵士に対して傷付けることなく相手取る。
しかし、兵士達はサロスを傷付ける。
人数の影響で持続力ではどうしても勝てない。
槍を弾いても別のところから槍は向かってくる。なのでどうしても避けきれず左頬を抉られた。
サロスは距離を取る。
頬から血が滴る。
「コア。頼むぞ。」
数分前。
コアは鉄の門の前に到着した。
だが開け方が分からない。
手で開ける、無理だ。
兵士に頼む、バカを言うな。
僕ができることを尽くすんだ。
コアはそう唱え、手に電気を纏う。
しかし、今までとは違い攻撃性ではなく、温度に着目する。
手が焼ける。だが、こうするしかない。
コアはそう思い、ひたすらに熱を求め、電気を溜めた。
コアは歯を軋ませながら、鉄の門に触れその鉄を溶かす。
赤く光り、ドロドロに溶ける。
コアはその隙間を通り、武器庫に侵入した。
中は薄暗く、一定間隔に電球が掛かっている。
「…多分、剣だよね。」
コアは剣が乱雑に置かれている剣の棚を調べた。
欠けた歯車のついた黒い剣。
騎士王が持っていそうな黄金と青の剣。
女神が作ったっぽい、鳥が形どられた青い剣。
それらの剣を投げ、掻き分け、やっと見つけた。
「あった!」
コアは鞘が縄で固定された剣を引っ張り出した。
緑色の宝石が埋め込まれ、白い鞘がクロスして巻かれた縄で金色の鍔に結ばれて取れない。
…どうして、抜かないようにしてるんだろう。
コアはそう思って仕方がなかった。
だが、気を取り戻し、剣を運ぶ。
地面に引きずりながら。
石畳の床に傷をつけ、両手が体の後ろに持ってかれながら一生懸命に運ぶ。
そして、やっとのことで門を出た。
剣の勇者は伝説の剣を持たずして兵士と闘っていた。
砲丸投げの要領で重たい剣を遠心力に回転して投げた。
その時、剣に付いた緑色の宝石は薄く輝いていた。
コアはそれに気付かず、思いっきり投げた。
「サロス!受け取って!」
剣は空を舞い、元の所有者の元へ飛んでいく。
「…よくやった。コア。」
サロスは兵士の剣を地面に突き刺し、手を掲げる。
そして剣は彼の手によってパシッと掴まれた。
「早く!あいつを殺せ!!」
王は焦燥に駆られ兵士に命令する。
が、もう遅い。
鬼に金棒という言葉があるように、
"剣の勇者に伝説の剣"。
負けるはずがない。
「行くぞ。」
サロスは周囲を囲う兵士に静かにまた力強くそう言った。
剣を両手に持ち、腰を落とし、背後に構える。
「はぁっ!」
体を回転させ小さな旋風を巻き起こす。
小さくとも周りの兵士は吹き飛ばされていく。
「コア!来い!」
呼ばれたコアは走ってサロスに掴まった。
そしてサロスは剣を先と同じに構え、宝石を光らせ、剣を大きく振った。
回転しながら体は浮き、空を斬りあげる。
やがて、数回転した後、アリーナの観客席の高さを超え、外に出た。
「嘘だろ…。」
そこにいたすべての人が愕然とその様子を見た。
アリーナ上の空に出たものの。
「着地の仕方どうしよう。」
「え!?」
2人は数百メートルの高さから落下した。
「サロス!僕に考えがある!」
「頼んだ!」
コアは、電気を手に溜め、地面に向かって放電する。
サロスはそうするコアに掴まった。
電気の量を増やし、落ちる速度を弱めていく。
そしてコアの魔法により、安全に着地した。
「よくやったな。コア。」
サロスはグッドサインを出してそう言った。
コアは顔が緩み、嬉しそうに微笑んだ。
「よし、じゃあまず、人通りの少ないところに行こう。」
「うん。」
2人はアリーナから逃げた。
口が塞がらない王はハッとし、兵士に再び命令を下した。
「あいつらを絶対に捕まえ、処刑するのだ!!」
それから、1日後。
「痛っ!」
「我慢して。傷口を塞がないと。」
「分かってるけど、痛いもんは痛いんだよ。」
コアは魔法を使って傷口を縫っていた。
傷に電気を微量に流し、サロスの治癒力を高める。
だが、もちろん、麻酔もないために電気特有の痛みを伴う。
その痛みでサロスは弱音を吐いている。
「よし。一旦終わったよ。」
「…ありがとな。」
そんな会話をし終わった時、窓の外から声がした。
「見つけ出せ!全ての門に奴らの姿は確認できていない!ならまだここから逃走していないはずだ。隈なく探せ!」
「「「はっ!」」」
数人の兵士が勢いよく返事をし、ばらけた。
「早くここから出ないと。」
コアは焦りながらそう言った。
「ああ。その通りだな。」
アリーナから出ることは出来たものの、王の声明により、サロスとコアは指名手配犯となった。
そのおかげで王国の全ての門は閉ざされ、一切の出入りは禁止されてしまった。
「だから、方法を考えた。塀を飛び越えるか、兵士の目を掻い潜って抜けるか。その2つだ。」
「でも、兵士の目を掻い潜れても、さっきの兵士が言ってたみたいに記録装置があるからどの門から出たのかが1発でバレる。
かといって、塀を飛び越えるといっても、アリーナの観客席を越えることもギリギリだったのにそれ以上の高さがある塀をどう飛び越えるの。」
サロスはコアの反論に待ってましたと言わんばかりの顔でこう言った。
「飛び越えるのは別に地面からじゃなくてもいいだろ。」
「え?それって、つまり。」
「ああ。高い場所から滑空するように飛べばいい。」
「でもこの近くで高い場所って言ったらお城くらいしか…。」
「その通り。だから城に向かうんだ。」
コアは何言ってるの状態で固まった。
「でも、そんなことしたら、また捕まっちゃうかもしれないよ?」
コアから当然の疑問が返ってきた。
「まあ。それは、なんとかするしかないな。」
サロスから納得のいかない答えが送られた。
だが、それでも成功の可能性は一番(2つある内の1つだが)高かったために、コアも認めた。
夜、暗くなり、派手な動きをしてもバレづらくなった。
ただ、いかんせん兵士は2人を探し見回りしている。
サロスとコアは建物の屋根に跳び移りながら城に向かった。
城内は最低限の灯りがあり、暗闇から兵士が代わる代わる現れていた。
「コア。いざとなったらお前の電気で兵士を気絶させてくれ。」
サロスは小声でそう伝えた。
コアはそれにハンドサインで答える。
城の内部は他のものと比べると簡単な作りをしていた。
中庭があるドーナツ型の建物とそれに直方体の四角い建物がくっついている。ドーナツ型の方は5階、直方体は4階まである。
外装は中世ヨーロッパを彷彿とさせるロイヤルチックなデザインである。
サロス達が目指すのはもちろんドーナツ型の5階。そして入城したのは直方体の3階、端である。
サロスが見回りする兵士の確認。コアは移動の妨げになる兵士を電気で眠らせる。
途中、サロスが兵士に気付かれそうになるが、コアの反射神経によりどうにか眠らせることができた。
そして直方体型の4階にたどり着いた。
「この調子なら大丈夫そうだね。」
「ああ。だが油断するなよ。こういう時に限って何か起こる…。」
「待て!お前ら!」
「…ほらな。」
サロスは歩くコアを止め、声のする方、つまり前方を見た。
「俺様は、ポプルス国の近衛隊長が1人。エリック=クワッド。お前達、指名手配犯の確保を遂行する者だ。」
「…本当か?」
サロスはエリックに片眉上げてそう言った。
「…あ、ああ。もちろんだ。」
「じゃあ、聞くが。なんでお前は街に下りて俺達を探さないんだ。」
「そ、それは…。分かった!白状する。俺様はこの城の警備を担当してる。だから、お前達を捕まえる義務はない。」
「…よく言った。」
サロスは、コアに耳打ちする。
「…こいつは前から知ってる。頭の弱いやつなんだ。だから言いくるめられればどうにかなる。」
コアは目と口を開けて納得した。
「じゃあ、行くよ。急ぎの用事があるんでね。」
コアの手を引っ張りエリックの前を通り過ぎた。
「…待て。」
エリックはそうはさせない様子で言った。
「まだ何か?」
「お前達を捕まえられないかもしれないが、お前達は不審者だよな。城に居ていい人間じゃない。」
まずい…。
「ってことは!」
「コア!全速力で5階に行くぞ!」
エリックは背負っていた大剣を抜き、大上段に構えた。
「紅き大剣の斬撃は罪人を赤く染め上げる。喰らえっ!」
エリックは大剣を振り下ろし、赤い斬撃が飛んだ。
「っ!」
サロスはコアの背中を押した後に腰の剣を鞘と共に抜く。
剣を肩に沿わせしっかりと構え、赤い斬撃を受けた。
ドーナツ型の建物に移動したものの大きく吹き飛ばされ剣を離してしまった。
「まずは、お前からだ。剣の勇者。」
サロスは膝をついて、エリックを睨みつける。
赤い鎧を身に纏った大男は目もくれず大剣を振るう。
地面を抉り、柱を壊し、サロスを追い詰めていく。
「サロス!」
「いいから!お前は先に行って待ってろ!こいつを片付けたらすぐに向かう!」
大剣の横振りを前転で避け、剣をもう一度手に取る。
「片付ける?この俺を?バカ言うな。」
「"バカ"はそっちだろ。」
「うるせー!」
上から振り下ろされる大剣と下から切り上げる緑色の剣は鈍重な音を響かせた。
コアはドーナツ型の建物を登り、5階に到着。
しかし、ここにも刺客がいた。
「何か御用かな。子供風情が。」
槍を持ち、オレンジ色の髪を夜風に靡かせる男がコアの前に現れた。
男はゆっくりと歩いて近付いてくる。
「悪い。自己紹介がまだだったな。私はポプルス国近衛隊長が1人。イリック=クワッド。侵入者であるお前を排除する命を預かっている。」
コアは足を引いて退くが、イリックは歩いてくる。
「…そう怖がるな。すぐに終わる。」
そう言うとイリックは槍を構え、コアに迫った。
地面を蹴り、コアの心臓目掛けて槍を突き立てる。
コアは、両手を電気で包み、腕を広げ、電気の網を作る。
イリックは槍でコアを突こうとするが、
その電気網を見て攻撃をやめた。
「…ほほう。中々、魔法の使い方がなってるじゃないか。」
彼は冷や汗を垂らして言った。
「…だが、その大きな電気の網。消耗が激しいんじゃないか?私ならもっと小さいものにしておくがな。」
イリックの槍では、コアの出す大きな網を縫うことが出来ない。そのためにイリックはコアにそう諭した。
しかし、コアには分かっている。この網こそがやつにとって最大の防御だと。それと同時に特別に消耗が激しいことも。
互いに見合わせて、頃合いを待つ。
一方、サロスは…。
赤い斬撃に翻弄されていた。
「喰らえ!」
エリックの出す赤い斬撃は広範囲のために迂闊に動けない。
サロスは斬撃に合わせ防御するのに手一杯だった。
ったく。どうしたもんか。
…少なくともこの斬撃をどうにかできれば勝ち筋はある。
何か方法を。
「おらっ!」
が、エリックが考えさせてはくれない。
2連撃の斬撃を交わし、受けた。
鞘に次々とダメージが入っていく。
このままでは鞘が壊れる。
それだけは避けなければいけない。
彼は、追い詰められ、決死の行動に出た。
やつの動きから見て、機敏な動きはできない。
ならっ!
「距離を詰める!」
「勇者っ!喰らうがいい!」
腹に向かって剣を思いっきり叩きつける。
鈍い音をさせ、エリックにダメージを与える。
そして、サロスは構え直し、剣を左上に持っていき、頭を狙って振り下ろす。
ドカっと後頭部に剣が当たる。
だが…。
「イッテー!!」
気を失わない?!
「この野郎!!」
エリックは大剣を横に振りかぶり、サロスは剣を軌跡上に剣を構える。
大剣は振られ、衝撃は剣を超えサロスに伝わる。
「ぐっ!」
痛みのあまり目が見開き、吹っ飛ばされた。
壁に叩きつけられ、右と左の両方が痛みに苛まれた。
「…今ので何本か骨がいったぞ。」
「もう許さねー。剣の勇者!お前を殺す!」
サロスは軋む骨をなんとか抑えて立ち上がった。
…そうだ。思い出した。飛ぶ斬撃の攻略法。
彼は剣を肩に担ぎ、構えた。
「…?何やってんだ。」
エリックは大剣を構え、そうサロスに言う。
「…お前を倒すんだよ。」
腰を落とし、足を広げ、深呼吸する。
「…なぁ。飛ぶ斬撃の仕組み、知ってるか。」
「はぁ?」
「…あれは、空気を斬撃にしてる技なのさ。だから…。」
空気の流れを変えれば…。
サロスは剣を握り締めると、また剣の宝石は輝いた。
「何言ってるのか分かんないが、勝つのは俺様だ!」
エリックは大剣を真上に構える。
「…はぁっ!」
サロスは踏み込み、一直線にエリックの元へ。
エリックも見逃さず大剣を振り下ろし、斬撃はサロスの元へ。
しかし、斬撃はサロスに当たることなく消えた。
なぜなら、サロスは竜巻のように回転しながら移動していたために、空気の流れが変わったからだ。そのため斬撃は消えた。当たらなかった。
「なにっ!?」
「エリック!終わりだ!」
サロスはそう言うと横回転から縦回転に切り替えて、またエリックの頭を剣で殴った。
「ぐはっ!」
今度こそ、エリックは白目を剥いてその場に臥した。
サロスは剣をしまい、コアの元へ走った。
数分前。
イリックは先ほどと同じように槍を突き立て、コアに寄った。
それに応じ、コアは溜めた電気の網を手に巻き地面に流した。
その電気は一本の太い電気となり、心電図のように地面の上を上下と弾みながら敵の方へ向かっていく。
しかし、イリックは槍を地面に突き刺し高跳びのようにコアの頭上を跳び電気をかわした。
そしてすぐさま、槍でコアに横振りで殴った。
それを目で追っていたコアは殴られる前に殴られるであろう場所に両手を用意したが、攻撃力が段違いのため手だけでは防ぎきれず体にも響いた。
ただ、コアも殴られるだけじゃ終わらない。
掴んだ槍に電気を流し、イリックを感電させた。
2人とも地面に膝をついた。
コアは魔法のせいで息が上がり、立ち上がれない。
反対にイリックはまだ立てた。
彼は息切れるコアに寄り、思いっきり蹴った。
「…ふん。せっかくなら、こんなガキじゃなく、剣の勇者を相手取りたかったな。」
イリックは仰向けになったコアにトドメを刺そうと槍を高く上げる。
「…死ね。」
槍はコアの胸を刺す…、
までに至らなかった。
コアに足を掴まれ、感電したイリックが槍を離したためである。
「…悪かったね。ガキで。でも、君は少しでも僕を侵入者として扱うべきだったと思うよ。」
コアは言葉切れきれになりながらもイリックに言った。
「コア!大丈夫か!」
サロスもエリックを倒し、寝そべるコアに話しかけた。
「う、うん。なんとか。」
「エリック様!どうなさったのですか!」
「探せ!近くに侵入者だ!」
兵士が直方体の方から駆けつけてきた。
「コア。行くぞ。」
コアはそう言われると、サロスに抱きついた。
サロスはまた剣を抜き、空を飛ぶ準備をした。
「おい!待て!」
「見つかったよ!」
「分かってる!…掴まれよ!」
サロスは一番距離が短い塀に向かって飛んだ。
そうして、飛ぶこと数秒。
塀を越えることに成功した。
しかし着地には失敗した。
地面に頭から落下した。
「「痛っー!」」
「もう少し気をつけて着地してよ!」
「仕方ないだろ!俺は飛べても着地は出来ないんだ。」
「探せ!城から逃亡者だ!塀の外にいるかもしれない!」
国の内側からそう叫ぶ声が聞こえた。
「コア。ここから離れるぞ。」
「うん。そうしよ。」
暗闇の中、2人は新たな場所を目指して動き出した。




