◎隠せば。
最近投稿が遅れ気味になっていて申し訳ございません。
その代わりとは言ってはなんですが面白い話(自画自賛)を書いていくつもりなのでよろしくお願いします!
青空に紅蓮の巨体が映える。
サロスが最後のドラゴンを倒したその後。
ソーフィエやアンバー、スミルノフは空を見上げた。
それと同時にサロスもそれを見た。
「ソーフィエ。あいつを倒せば終わるんだよな。」
「あ、ああ。」
ソーフィエがいつもの冷静を欠いて言った。
「なら、スミルノフは逃げ遅れた人たちを頼む。アンバーとソーフィエはコアを。あいつを倒すにはコアの力が必要なんだ。」
「サロス…。まさか。」
アンバーが心配した通り、
「俺はあいつを空から引き摺り下ろす。」
「サロス。そんな無理だよ!一回戦って分かってるはずでしょ!?」
「でも、やるしかない。俺が今の状況を招いたんだ。そのけじめを付ける。」
「そもそも、あんな高い場所にどうやって行くの!」
「それは…。」
サロスの声が段々と小さくなっていく。
「仕方ない。私が手伝おう。」
と、ソーフィエが進言した。
「え?」
「まあまあ。皆まで言うな。お前さんを手伝いたくなっただけだ。」
サロスは呆気に取られていた。
「アンバー。コアのことは任せた。」
ソーフィエはアンバーに告げ、サロスの肩を持ち、空へと飛んだ。
「お、おい!あいつに近付いたらお前は!」
「落ち着け。私だって何も戦う力が無いわけじゃない。」
「それでも…」
「観念して私に連れられるんだな。」
ソーフィエは翼を羽ばたかせ、ドラゴンへと向かった。
「コア。大丈夫?」
アンバーが地面に倒れたコアを揺する。
「…。」
が、反応がない。
アンバーは焦りながらもコアを抱え、避難所へ運んだ。
避難所内の医療セットから魔力パックを取り出し専用のチューブをコアに繋ぐ。
機械を作動させ、コアに魔力を注ぐ。
「コア。お願い。目を覚まして。」
コアの手を握り、ただじっと待った。
場所は上空。
数分後。
ドラゴンの背後に周り、死角を攻める。
「サロス!お前さんをやつの背中に下ろせばいいんだよな。」
「ああ!頼んだ!」
ソーフィエはよし、と意気込みドラゴンの高度よりもさらに高く上昇する。
その時。
ドラゴンが吠えた。
「まさか…気付いたのか!?」
そのサロスの言葉にソーフィエはありえないと返すが、ドラゴンのコブから魔粒子が噴き出した。
「サロス。構えろ。」
魔粒子は徐々に形を成していく。
その姿は小さいドラゴン。
しかし、4本足ではなく人型で、背中に翼を生やしている。
「あれって…ガーゴイル!」
数十体のガーゴイルがサロス達に吠え、向かってくる。
「一旦逃げるぞ!」
ソーフィエはサロスに言い、ドラゴンから離れた。
ガーゴイルは構わず追ってくる。
「…あいつらを倒さないと近付けない。」
サロスはポツリと呟き、考えを巡らした。
そして、あっ!、とソーフィエを脅かした。
「どうした!」
「ソーフィエ!俺を反対に持つんだ!」
「反対に?」
「ああ!前後逆にするんだよ!」
「なるほど。そういうことか!」
ソーフィエはそう言うと、思いっきりサロスを上に投げた。
「え!?」
サロスの顔は驚きと風であられもなくぐちゃぐちゃである。
それを好機と思った一体のガーゴイルがサロスに襲いかかる。
「くそっ!こんな空の上で!」
ガーゴイルは自身の鋭い爪でサロスに切ろうと迫るが、サロスが素直に切られることはない。
背中に来る爪を体を捻り剣で抑え、足から風を噴射、サロスが上、ガーゴイルを下に。
重力を味方に爪を弾き、剣で相手を斬った。
落ちていくガーゴイルを避け、ソーフィエが飛んで来た。
ソーフィエの鉤爪でしっかりとサロスの肩を掴み、飛び上がる。
「いきなり何すんだよ!」
文句を言うサロスにソーフィエは、
「お前さんが言ったことだろ?」
飄々とした態度で答える。
「こんな方法でとは言ってないだろ!」
「はいはい。それであいつら、どうするんだ?」
「全く。…方法は簡単。一気に倒す。」
サロスは剣を構えた。
「ソーフィエ。ガーゴイルをできる限り多く引き付けてくれ。」
「了解。」
ソーフィエはガーゴイルの群れの周りを飛び、自分達の姿を見せた。
それに闘争心掻き立てられたガーゴイル達は吠え、翼を動かし、ソーフィエ達2人を狙った。
「そろそろいいんじゃないか?」
焦り気味なソーフィエを横目にサロスは剣に力を込める。
「まだだ。」
「もういいだろ?」
「まだ。」
ガーゴイルは少しずつであれど距離を縮めてくる。
「早く!」
「…。」
数十体のガーゴイルが今、直線上に並んだ。
「今だ!!」
サロスは剣を上段から振り下ろし、子分ドラゴンを倒した時と同じ、旋風の刃を放った。
ガーゴイルを次々に巻き込み、切り刻んでいく。
そして、ガーゴイルを一掃した。
「ソーフィエ!ドラゴンの背中に!」
「分かってる!」
紅のドラゴンもガーゴイルが倒されたことに気付き、魔粒子を再度噴出する。
ソーフィエは風の魔法で加速。
ガーゴイルが道を塞ぐ前にサロスをドラゴンのコブの上に下ろした。
ドラゴンは魔粒子を空ではなく、背中に噴射。
また魔物を生み出した。
「俺を止めるためか。」
数体のリザードを生成。
武器と鎧を身に纏い、サロスに迫った。
「…っ!」
剣を振り、応戦する。
ソーフィエは空中に噴射された魔粒子によって作られたガーゴイルと戦う。
翼を振り、風の刃を放つ。
空を飛ぶガーゴイルにとって少しの衝撃は命取り、姿勢を崩した瞬間に、ソーフィエは風を纏った突進により、ガーゴイルを倒す。
だが、数が減ったとは言え1人で相手にするには手間を取る。
ガーゴイルがソーフィエを囲んでいく。
「ソーフィエ!」
サロスはその姿を見て、呼びかける。
「心配するな!お前さんは自分のやるべきことをやれ!」
と、ソーフィエは力強くサロスの背中を押した。
加えて、ソーフィエ自身やられるつもりもない。
「緑し魔導よ、我の言伝を聞きたまえ。今構えし翼に集いたもう。」
自分の胸の前で翼を折りたたみ、交差させる。
「眼前せし敵を吹き飛ばせ。」
ソーフィエの翼に風が纏われる。
「アネモス。」
そう言った瞬間に翼を解放。
風が竜巻のように渦を巻き、ガーゴイルを渦の中へ引き込み、竜巻が破裂。
ガーゴイルを遠くの彼方へ吹き飛ばした。
「…マジか。」
そんな様子を見ていたサロスもこの一言。
ソーフィエはサロスに一瞥、自慢げに笑い残ったガーゴイルの相手をする。
「…負けちゃいられないな。」
サロスは剣を構え直した。
リザード達はわらわらと向かってくる。
その中の一匹がサロスに武器を振り上げた。
「はぁっ!」
その武器をサロスは自身の剣で切り上げ、弾いた。
動きを繋げ、剣を振り下ろし、リザードを斬った。
しかし休む暇を与えずリザードは向かってくる。
サロスはリザード達の攻撃を剣の上で滑らせ、躱わし、彼らの腹を切った。
最後に横一閃の風の刃を放ち、リザード達を倒した。
「よし。あとは、どうやって落とすか…。」
倒したが、奴らは先程と同様、ドラゴンの魔粒子により蘇った。
これでは埒が開かない。
「魔粒子の量は減らせないのか?」
「きっと無理だろうな。」
「え?ソーフィエ?」
遠い距離にいるソーフィエがサロスの独り言に反応したのだ。
「どうなってるんだ。これ。」
「お前さんが寝てたあの時に耳裏に仕込んでおいた無線機だ。」
「いつの間に…。」
「話を戻すぞ?…あのドラゴンにはきっと体内に魔粒子を貯める袋のような物があるはずだ。それを破けば魔粒子を防ぐことができるかもしれない。」
「でもどうやって体内に…。」
「そのコブのどれかが体内に通じてると私は踏んでる。試してみろ。」
「分かった。」
無線は切れ、サロスはコブを観察する。
「あ!あれだけ魔粒子が付いてない!」
と、他のコブとは違うものを発見。
サロスはわらわらと湧き出るリザードを捌き、そのコブに飛び込んだ。
中は案の定暗闇。
サロスは剣を鞘に収めようとするが、
「そうか。形が変わったから、刃と合わないのか。」
剣はガタガタと鞘の中で揺れてしまう。
「鞘、新しくしないとな。」
そう呟き、手元の携帯でライトを点ける。
見回すように携帯のライトを動かし、ソーフィエの言う魔粒子の袋を探す。
足元が柔らかく、体内にいることを実感させられる。
しばらく歩き、サロスは袋のようなものを見つけた。
ライトを当ててみる。
袋の表面は細かい血管が張り巡らされていて魔粒子の色か、黄色味がかった色をしている。
「これを破けば魔粒子を放出できなくなるはず。」
サロスは鞘から剣を抜き、袋の膜に剣先を突き立てた。
「…っ!」
力を入れ、剣を押し込む、寸前。
「させるかっ!」
サロスを押し倒し、押さえ込むように刀を胸に押し当てた。
「…痛っ。…お前は!?」
携帯のライトが照らした、サロスの目に映ったのは、
「あのガキの仲間か。」
「イミテト!お前なんでこんな所に!」
「そりゃ自分の所有物を破壊されそうになってんだから守ろうともするだろ。」
「所有物…って。お前、これがどんなに危険なものか知ってるのか!」
「もちろん。危険だから俺の商売道具足り得るんだろうが。」
「は?このドラゴンのせいでサピエンスに住む人達は病気に苦しんでるんだぞ?それでもいいって言うのか!?」
「ああ。構わない。どうせ死ぬ奴ら、遅いか早いかだけの違いだ。」
「…。全く、コアの言った通りだったな。お前は勇者の風上にも置けない奴だっ!」
サロスはイミテトの刀を足で蹴り飛ばし、剣を構えた。
イミテトも飛ばされた刀を取り戻し、サロスに構えた。
2人は地面に転がった携帯の明かりを介して睨み合った。
そして、眼光を閃かせ、2人は互いに刃を合わせた。
場所は変わり避難所内。
「コア。お願い。目を覚まして。」
アンバーがコアの手を握り締め、祈っていた。
「アンバー!こっちに来て手を貸してくれ!」
「う、うん!」
だが、人手不足の今、スミルノフに言われ、人命救助に向かった。
こうして、今、1人、コアは魔力を注入され眠っていた。
起きろ!起きろ!
夢の中、いや、意識の中でコアも戦っていた。
スミルノフが、ソーフィエが、アンバーが、
サロスが戦ってるんだ!
なのに、僕は!ずっと寝てるなんて!
ダメだ!起きなくちゃ!
僕はサロスの後を継ぐんだ!
僕が勇者にならなくちゃ!
ならなくちゃ…。
サロスが…。
もっと、苦しい思いをするんだ。
だから、僕が…。
しかし、どんなに願っても、コアは自分の体を動かせない。力が入らない。
…。
サロス。
なんで僕達に嘘をついたんだよ。
なんで。
どうして。
僕じゃ勇者になれないのかな。
僕のことを信じられないから嘘をついたのかな。
…。
サロス。
本当のことを言ってよ。
その時、コアは目覚めた。
ゆっくりと目を開け、体を起こした。
「コア!起きたの!?」
アンバーが駆けつけた。
「サロスは?」
「空の上でドラゴンと戦ってる。」
「…僕も行かないと、」
コアは布団を退かし立ち上がろうとするも、態勢を崩し、その場に倒れた。
「ダメだよ。まだ魔力が戻った訳じゃないんだから。」
アンバーに肩を持たれ、諭された。
「でも、」
「コアは要なの。サロスがそう言ったんだよ?」
「僕が…要?」
「細かいことは私も知らない。でもコアが全力であっても悪いことじゃない。でしょ?」
「…。」
コアは治らない様子だったが、無理矢理行くことはなく、休むことにした。
「「はぁっ!!」」
暗闇で火花散る。
ドラゴンの体内。
サロスはドラゴンではなくそれを守るイミテトと交戦していた。
所々に開いた空気穴のような小さい穴から外の光が入ってくる。
その光を頼りに、相手の動きを読み剣撃を放っている。
「ふっ!」
イミテトの刀が水平に振られ、サロスは片手を刃に合わせ、両手でその攻撃を防ぐ。
サロスは刀を薙ぎイミテトから距離を取る。
イミテトは逃がさないとサロスに近づく。
微かな光がサロスの剣にイミテトの刀に跳ね返り輝く。
「ふ!そんなもんか14代目の剣の勇者の実力は!」
「…っ!?」
イミテトの挑発がサロスに刺さった。
その隙を逃さず、イミテトはサロスに斬りかかる。
サロスは斬られる手前で刀に合わせ、剣を構え、防いだ。
「どうして…お前がそんなことっ…!」
「有名だからに決まってるだろっ!」
イミテトは刀を更に押し込み、サロスを怯ませた。
下段から刀を振り上げ、サロスの胴を斬ろうとするも金属音が鳴り響くのみ。
「あんたは13代目の剣の勇者からその剣を引き継いだ。それから300年間色んな勇者の手助けをしてきた!」
イミテトの猛攻は止まらない。
「その手助けもほとんどが無駄になったみたいだがな!!」
「どこでっ…。」
「俺の死んでいった仲間からだよ!」
「なっ…。」
甲高い金属の弾き合う音が光を揺らした。
「俺の仲間は言ってた。剣の勇者が仲間になってくれれば魔王だって倒せるんだってな。」
イミテトは攻撃の手を止め、話を続けた。
「結局、あんたは俺達の前に現れることはなかった。」
「…。」
「…別にそれを恨んでるんじゃない。不思議なんだよ。それがムカつくんだよ。」
彼の声が低く震えていく。
「あんたは300年間死んだ勇者を見てきたんだろ?それでも尚、あんたはあんな化け物に立ち向かおうとしてる。」
「自分より強い仲間が死んでるところを見ても、自分を愛してくれた仲間が死ぬところを見ても、自分を信じてくれた仲間の目から輝きを失うところを見ても、あんたは勇者になろうとしてる。…なんでだ!!なんでそんな気持ちになれる!?」
「…それは、」
「聞きたくないな。理由なんて。…ただ聞きたいのはあんたが諦めると言う声だけだ!」
イミテトは刀を握りしめ、振りかぶった。
「…っ!」
サロスは剣を構え、彼の攻撃を受けた。
「だとしても、俺はお前に言わなきゃならない。同じ元勇者として。」
「黙れ。」
「お前が言うように俺は多くの仲間が死ぬところを見た。」
「黙れ。」
「それでも。俺は託されたんだ。」
「黙れ。」
「俺は勇者になることを。」
「黙れ!」
「お前だってそうなんだろ?大切な人から託されたんだろ?」
「黙れ!黙れ!黙れ!」
「それを思い出せよ!!」
イミテトはサロスに押され、膝をついた。
「…。」
「お前だって分かってるんだろ。」
「…黙れ。あんたこそ現実…見ろよ!!」
イミテトは刀を手に取り、サロスに斬りかかった。
「死ねっ!!」
「…っ!」
サロスは向かってくる彼を、
「ぐはっ!」
叩いた。
頭の上から刃のない方で叩かれ気を失った。
「…俺は決めたんだ。」
サロスは剣を袋に突き刺した。
感触は空気の入った紙袋をナイフで突き刺した、まんまの感覚。
「これで…。」
サロスは安心したのも束の間。
剣によって開けられた穴から魔粒子が噴出。
サロスはイミテトを抱え、穴から脱出した。
ドラゴンが大きくうめき、右に左、明らかに攻撃が効いている。
「ソーフィエ。こいつを頼む。」
「お前さん。本気なのか?」
「ああ。本気だとも。」
ソーフィエは大きなため息をつきながらイミテトを掴み、下に運んで行った。
「よし、後はドラゴンを地上に下ろす。」
サロスは剣を構え、ドラゴンの翼に飛び乗った。
翼の膜を次々と切っていく。
すると、ドラゴンはみるみる高度を落とし始めた。
サロスはドラゴンが地面に落ち切る前に離脱。
近くの建物の屋根に飛び移った。
雲の地面にドラゴンは横たわった。
「サロスー!」
アンバーが呼んだ。
アンバー、もといソーフィエの元へ。
「お前さん。ドラゴンをこんな場所に持ってきてどうするつもりだ。」
「安心しろ。策はある。アンバー。コアの調子は?」
「まだ、全回復してないよ。」
「なら、それまで時間を稼ぐしかないな。」
「おい。待て。まず私達にも策とやらを教えてくれ。」
ソーフィエがサロスを止め、言った。
「…あー。そうだな。」
サロスはそういえばと言うように計画を話し始めた。
そうして、全貌を聞いた2人の反応は…。
「お前さん。またそんな…。」
「サロスがやれるって言ったなら私も頑張るよ。」
と、中々である。
「とにかく、これはコアが鍵だ。コアが回復するまであのドラゴンの相手をする。」
「もちろん。私達も手伝うよ。ね?ソーフィエ。」
「断り辛い聞き方だな。だが手伝ってやると言ったのは私だからな。」
「…ありがとう。2人とも。」
サロスは剣を構え、立ち上がったドラゴンに向かった。
ドラゴンはサロス達を見るなり大きく咆哮し、怒りを露わにした。
「ここで終わりにする!」
サロスは風の魔法を巧みに使い、建物を登っていく。
ソーフィエはアンバーを掴み、空中からの弓矢で牽制。
ドラゴンが気を取られている間にサロスが剣で斬りつけていく。
順調に時間を稼いでいるかのように思われたその時。
「…!サロス!ドラゴンの翼を見て!」
「え?」
言われた通りに視線を変えると、
「嘘だろ…。」
サロスが切った翼の膜が再生していた。
「これって!」
「ああ。時間を掛ければ、お前さんが破った魔粒子の袋も再生するはずだ!」
ソーフィエが答えた。
「…くそっ!」
サロスはドラゴンに攻撃を加えていく。
「ソーフィエ、アンバー!こいつを上空に上げさせるな!」
「「了解!」」
治った翼を使い、ドラゴンは宙に浮かぶ。
矢で煩わしくも攻撃され苛立ったドラゴンはソーフィエ達を狙った。
「ソーフィエ!」
「ああ。分かってる。」
翼を動かし、ドラゴンからまたもや逃げる羽目に。
サロスは剣を構え、風の刃を当てた。
ドラゴンの体に直撃。
標的がサロスに切り替わった。
巨体が周りの家々を壊しながら向かってくる。
「喰らえっ!」
剣を横に振り、風刃を放つ。
顔に当たったため、ドラゴンはサロスから距離を取る。
ソーフィエ達がドラゴンに攻撃を仕掛け、ヘイトを集める。
ドラゴンはソーフィエ達に。
しかし、先ほど追いかけた時と速さが違った。
「こいつ、翼を進化させたんだ!」
アンバーがソーフィエに言った。
「なんだって!?」
「ソーフィエ!下下下!!!」
ソーフィエがアンバーの声で高度を落とし、ドラゴンの口を避けることに成功。
「あいつ!ただ再生してるんじゃない!進化してる!」
無線を使ってサロスにも伝える。
「…冗談じゃない!」
サロスはドラゴンを追いかけた。
「…本当だ。あいつ速さが増してる。」
翼の空気を切る速度がまるで違った。
あのドラゴンはこの一瞬で再生、進化したのだ。
「…ならあの袋は。」
と思い、サロスはドラゴンの背中を確認する。
だが、魔粒子が出る様子はない。
貯められた魔粒子までは復元しないということか。
サロスは不安を胸にソーフィエ達の援護を行う。
さっきと同じく、剣を構え、風刃を放つ。
ドラゴンに風刃が当たった。
と思った。
「あいつ、反応してない!」
「サロス!」
アンバーからの無線である。
「こいつ、サロスの風の刃を弾いたよ!」
「は!?」
「多分だが、翼が進化したことで周りの風の力を操れるようになったんだろう。だからこんな速さを出せるように…。」
「ソーフィエ!右に避けて!」
2人は命からがらドラゴンの口を避けた。
「2人とも!」
「大丈夫だ。一旦はな。」
「良かった。」
しかしながら、安心してはいられない。
いよいよサロスの注意を引く方法が無くなったのだ。
このままではソーフィエ達がやられる。
「どうすれば…。」
「僕がやる。」
「コア…?」
無線を通じて、サロスに答えた。
「「コア!?」」
2人も遅れて反応する。
コアは携帯を片手に左手をドラゴンに向けた。
「はぁっ!!」
気を込め、放った魔法はドラゴンの目の前に現れ、火の風で行手を阻んだ。
「サロス。僕が要なんでしょ?何をすれば良いの。」
「ああ。コアは俺の足場を風で作ってくれ。アンバーはコアとソーフィエのサポート。ソーフィエはドラゴンの気を引いてくれ。」
「サロスは?」
「俺はあいつの首を斬る。」
サロスは深呼吸し、一言。
「よし!皆!行くぞ!」
「「「了解!」」」
こうして、サロス、コア、アンバー、ソーフィエが集まり、ドラゴン討伐に動いた。
「サロス!」
「ああ!」
コアの呼びかけに、サロスは風の足場に乗り、階段のように空を飛ぶドラゴンに近づいて行く。
ドラゴンはそのサロスを見逃すことはなく、口を開き、炎を溜める。
そこにソーフィエが現れ、炎の溜めをキャンセル。
ドラゴンの狙いを自分に移した。
その隙にサロスがドラゴンを攻撃する。
魔法を使わず、剣の刃のみで斬ることでダメージはしっかり入る。
ソーフィエがドラゴンに迫られ、逃げ場を無くすと、
「プシュケ!」
アンバーが火の矢をドラゴンに叩き込む。
ドラゴンはアンバーに狙いを定めるが、サロスがコアの足場を使い、やつの体を斬りつけていく。
それに意識を混乱させ、ドラゴンは目の前を飛ぶソーフィエに。
と、4人の連携によりあのドラゴンを翻弄した。
ダメージの蓄積はドラゴンを弱らせる。
翼の動きは鈍り、炎を口から放つほどの魔力も少なくなっていく。
「コア!決めるぞ!」
「どうやって?」
「風のパチンコを作るんだ。上から下に俺を飛ばせ。」
「風のパチンコ!?…そんなこと僕に。」
「いや、できる。俺はコアを信じてる。」
サロスが僕を信じてる…。
この言葉は嘘なのかな。
ううん。
な訳ない!
サロスが信じると言ったんだから、僕だって。
僕もサロスを信じる!
「分かった!」
「よし!ソーフィエ、アンバー!ドラゴンを一箇所に留めておいてくれ!」
「「了解!」」
サロスが風の階段を登り、ドラゴンの飛行高度より更に高い場所に着いた。
「コア。頼んだ。」
「…うん。」
コアはサロスを包むように両手を動かし、風を凝縮させた。
「コア、サロス!こっちは準備できたぞ!」
ソーフィエからの無線に2人は反応した。
「コア!放て!」
「はぁっっ!!!」
コアは右手を離し、左手を押し出すように動かし、風のパチンコを放った。
サロスはその勢いに剣を乗せ、ドラゴンの首に迫った。
「はぁっ!!終わりだっ!!」
剣を振り下ろした。
風の刃を放ち、ドラゴンの首を広範囲に斬り、剣の刃がトドメを打った。
ドラゴンの首を斬り落とした。
「うわぁぁ!!」
しかし、サロスは雲の地面を凹ませながら勢いよく落ちた。
「「「サロス!」」」
「あはは!全く初仕事くらいカッコよく決められないかな!」
この声…。
「アストラの言う通りだ。」
この声も。
「でも私は、サロス、かっこよかったと思うよ!」
みんな。見ててくれたのか。
「「「もちろん!」」」
「サロス。これからが本番だぞ。きっと大変だ。心しとけよ。…でも、よく頑張ったな。」
…アストラ。ありがとう。
「…こ、ここは。」
「私の研究室だ。」
「ソーフィエ?」
「なんだ?私じゃ不満か?」
「いや、そういうわけじゃ…。っ!てかサピエンスのみんなは!?」
「大丈夫だよ。怪我した人は沢山いたけど…、亡くなった人は誰もいないって。」
アンバーが扉を開けて答えた。
「アンバーか。」
「なに?その私でがっかりみたいな反応。」
「そういうわけじゃなくて、コアはどこ?」
「あー。そのことなんだけど…。」
アンバーが口を開いたが、サロスはソファから起き、コアを探した。
「コアー!おーい!コアー!」
研究所にはいない。
なら図書館か?
「コアー!」
「しー!静かに。」
「あ。ご、ごめんなさい。」
サロスは棚と棚の間も隈なく探した。
が、見つからない。
図書館を後にして、サロスは通りがかった人に聞いてみることに。
「すみません。コアっていう男の子を見ませんでした…か。って。」
「サロス様だ!!みんな!サロス様だぞ!」
「え?ちょ、ちょっと待って下さい!」
サロスは人に埋もれ、足元から匍匐前進で抜け出した。
「サロス。大丈夫かい?」
「ん?君は…スミルノフ!」
「ほらこっちに。」
人集りから離れ、スミルノフが聞いた。
「にしても何やってたのさ。」
「コアを探してたんだ。知らないか?」
「まさか、聞いてないのか。」
「え?」
スミルノフは改まって、息を整えた。
「コアは…。もうここを出たよ。」
「え。…出た?」
彼はただただ頷いている。
「そんな。嘘だ。あいつが黙って行くわけ…。」
サロスはスミルノフに何も言うこともせずその場から走り出した。
「コア。嘘だと言ってくれ。何も言わずに出て行くなんて…。」
「コア。」
コア。
謝れてもいないんだ。
なんでだ。
なんで。
…。
「いや、諦めない。あいつにしっかり謝るんだ。例え、あいつが会いたがってなくても。言わないきゃいけない。」
サロスは静かに誓った。
「コアを見つける。そして、謝るんだ。精一杯。」