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◎本当に。


「これからどうするつもりだ?」


ソーフィエがコアに話しかける。


「…分からない。」


その言葉にソーフィエは何だか呆れたような顔をしている。


「イミテト様!」


いきなりそう言う声がコア達に聞こえてきた。


声を辿ると、案の定そこにはイミテトがいた。


もちろん、偽りの信頼を得ている彼の周りにはサピエンス国民が集まっていた。


「あいつっ!」


コアは民衆を掻き分け、


「おい!」


「あー。君は…」


「お前、どういうつもりだ。」


「何のことかな。」


その場にいる信者達はざわざわと話し出す。


「しらばっくれるつもりかっ!」


コアは電気を纏った右手でイミテトに掴みかかる。


しかし、勇者を名乗るだけはあるのか、イミテトはコアの右手を避け押さえ込んだ。


イミテトはコアの耳元に顔を寄せ、呟く。


「何を言おうとしているのか分からんが、こいつらは俺を信じてる。それを忘れるな。」


コアの腕を離した。


「…っ!」


コアは納得できず、またイミテトを殴ろうと踏み込む。


「待て。」


ソーフィエがコアの肩を掴む。


ソーフィエの方をコアが振り向くと、彼女は首を横に振った。


コアはイミテトが民衆に向かって愛想を振り撒く声を背中に浴びた。


一方。


サロスは空き家の中で1人椅子に座り、アストラの剣を見ていた。


…「託された者くせに情けないな。」…


「全くだな。」


その言葉は寂しく建物内に響いた。


サロスは周りを何の気無しに見渡した。


「…アストラ。なんで、俺なんだ。」


その時、彼の目の端に本が映った。


あれは…コアが持ってた。


本に近付き、持ち上げる。


題名は無し。

表紙をめくり、目次を見てみる。


「誰かの旅記っぽいな。」


紙を次々とめくり、後半に差し掛かった時。


端が折られているページを見つけた。


そこには、一言。


「40年前。魔王と取引した勇者がいた。」


そう書かれていた。


魔王と取引…。


「…そんなこと出来る奴がいたのか?」


サロスは本を最初から見ることにした。


「何のつもりだよ!ソーフィエ!」


場所は変わり、コアがソーフィエに怒鳴った。


「あいつは戻ってきた。つまり、またドラゴンを呼び寄せるかもしれないってことなんだぞ!?」


「分かってる。」


「なら!」


「だが、この2人は?」


スミルノフとアンバーがコアからの視線を受ける。


「自分本位では仲間として連携は取れない。それに、イミテトはこの国で誰よりも信頼されている。そんな奴を攻撃すればどうなる…。」


「…。」


コアは自分の犯しそうであった過ちについて理解した。


「まず、仲間として行動する以上は情報共有が重要だ。私は忘れ物をしたからここを離れる。」


「え!」


「別に私は聞く必要のないことだからな。私が居ても意味がない。それじゃ。」


ソーフィエは周りを置いて行った。

その言葉の通りに。


「…じゃ、じゃあ、情報交換しよっか。」


コアが流れを正し、2人に呼びかけた。


「そう言えば、コアとアンバーの2人はこの国に来てどれくらいなんだ?」


スミルノフが問いかける。


「来て1日かちょっとだと思う。」


コアが答える。


「なら、サピエンス国の実情を伝えた方がいいかな。その後でイミテト様のことを聞かせて。」


2人は了承。


長時間になりそうなので長く喋れるような宿屋を取ることにした。


「やっと落ち着けたし、サピエンスのことから話すよ。」


スミルノフは2人に話し始めた。


「今、サピエンス国ではある病気が蔓延してる。病気とは魔鱗病のことで、魔粒子を多く取り込み過ぎることで発症し、肌に鱗のような結晶が出来るものだよ。」


「まさか、その病気の根源が…」


「そう。あのドラゴンだよ。」


コアはドラゴンが噴射した粒子により息苦しくなったことを思い出した。


「しかも、そのドラゴンはコアは知ってるかもしれないがこの国の周りを飛び回り、倒すことも困難。だから俺達は竜狩りの異名を持つイミテト様を勇者として尊敬してる。」


スミルノフはでも、とコアに視線を向ける。


「うん。あいつは勇者を自称してる詐欺師だ。」


コアはイミテトの悪行を紹介した。


「ドラゴンを呼び寄せることで国民を国から追い出し、その国にある高価な物を奪い、最後はドラゴンに国民を食わせる。それがやつの計画だった。」


「避難所からわざわざイミテト…が用意した袋に移動させたのもそのためだったのか。」


スミルノフも思い出す。


「…スミルノフ。」


信用していた人に裏切られた感覚を持つアンバーが優しく呼びかける。


「ありがとう。大丈夫だ。何にしてもやるべきことは見つかったわけだろ。」


「うん。ドラゴンを倒す。そうすればイミテト達の計画も潰せるし、サピエンスを病気から救える。」


コア、アンバー、スミルノフはドラゴンを倒す計画を練ることに。



その頃、ソーフィエが忘れ者を気にして戻ってきた。


「お前さん。まだいたのか。」


「…。」


サロスが本を開いたまま彼女を見る。


「その本、返してもらうぞ。」


サロスは本を閉じ、隣に滑らせた。


ソーフィエは本を取り、ペラペラと状態の確認かめくる。


「八つ当たりなんかは…してないみたいだな。」


「それがお目当てなんだろ。さっさと出て行けよ。」


「いやだ。」


「何だよ!お前の言う通りになって面白いか?俺を珍獣呼ばわりか?」


「いいや。」


ソーフィエは至って冷静。


「ただ、同じ託された者としてみっともないと思っただけだ。」


「…え。」


その言葉に思わず聞き返した。


「どういう…。」


「…仕方ない。お前さんには話しておいた方がいいだろし。」


ソーフィエは気乗りしないようだったが、彼女の腹の内を話し始めた。


「私は今から20年前にある人に弟子入りしたんだ。お前さんも知っての通り、」


「オリバーさんか。」


「そう。彼は私を歴史研究の助手として迎え入れた。」


オリバーは歴史の中でも特に勇者についての研究をしていた。


あらゆる土地に伝わる勇者の伝説をまとめていたのだ。


「待て。なら、あのコアの貰ったあの本は…。」


「ん?それは勇者の大全集みたいなやつか?」


サロスが頷くとソーフィエは得意げにこう言った。


「それは紛れもなくオリバーさんが書いた本だろうな。」


オリバーはこの勇者反対世界に勇者を伝えた偉人と言える。


ソーフィエは続けた。


もちろん、彼が本を出したのは魔王とポプルス国の契約、非促進勇者誕生条約が出された後のこと。


彼は様々な国で指名手配とされた。


檻に捕えられたこと数知れず、死刑宣告を何度も受けた。


世界中の人間が彼を罪人だと言った。


「それでも、そんな大犯罪者でも私は彼を慕っていた。なぜなら、彼には歴史を伝えるという信念があったからだ。」


そう言う彼女は嬉々としていて彼女が人間であることを認識させられる。


しかし、徐々にソーフィエの口は速度を落とし、トーンも落ち着いていく。


オリバーとソーフィエが女神の領域、つまり、侵略がされていない人間達の範囲を探索し切った時、オリバーは魔王の領域へ向かうことを決めたのだ。


魔王の領域はその名の通り魔王が支配する魔物、魔族が跋扈(ばっこ)する世にも恐ろしい地獄の沙汰のような場所である。


そんな場所に傭兵も雇わず行こうと言い出したのだ。


「その時、私はいささか理性的であったからな。オリバーさんを止めた。行っても生きて帰れないと。」


だが、ソーフィエが彼を信念のある人と評価したように命程度で止まる足を彼は持ち合わせていなかったのだ。


「そこで、私はオリバーさんと別れた。地元のサピエンスで今まで集めてきた資料を使い研究をした。」


長い年月が経った後。


「この頃、私はオリバーさんのことを諦めかけていた。勇者の件でも、ただの噂からでも魔王の領域が死に直結する場所であると分かっていた。きっともう…と思っていた。」


そんな予想を裏切りオリバーはソーフィエの前に姿を見せたのだ。


「久しぶりに見た彼は疲れ果てていたが、ただの疲労だけではなく、彼の目まで光を失っていた。」


ソーフィエはオリバーを自身の研究室に案内し、休ませた。


その時、気づいたのだ。


あの謎の伝記に。


「私が彼の手からその伝記を取ると、オリバーさんは息を吹き返したかのように俊敏に本を取り返した。」


その後、オリバーは急ながら脈絡なくソーフィエに語り出した。


「これは魔王の領域で見つけた伝記だ。これには禁忌の歴史が書かれている。これはこの世に解き放ってはいけない。伝えてはいけない歴史だ。」


そう言う彼の顔は恐怖に呑まれた、というより至って正気で理性を保っていた。


ソーフィエは不思議に思った。


彼女の知るオリバーは歴史に情熱を燃やしていたのに。


「これを燃やせ。」


重要な歴史的価値のある資料を燃やせと言っているのだ。


オリバーはソーフィエに本を渡すと国を出てしまった。


「…私は託された本を燃やそうとはしなかった。彼がいない間に調べた勇者の歴史が、この世界の歴史が、その真実がこの本に残っていると言うのだから、燃やさなかった。」


「…なら、お前は、」


「ああ。オリバーさんを裏切った。」


サロスは自信満々に言う彼女を理解できなかった。


「私は決めた。彼から託されたこの本から歴史を解明してみせると。」


だが、固い意志を纏う彼女の言葉に呆気に取られていた。


「託されたなら、それをどうするのか自分で決めろ。お前さんみたいにいつまでもどっちつかずなのが託した者にとって1番むかつくんだろさ。」


ソーフィエは自分を嘲るようにこう続けた。


「私みたいに託されたものを捨てるのか、それとも受け継ぐのか。」


…。


「…受け継ぐと決めたのなら、その剣を抜いてみせろ。」


本を傍にソーフィエはサロスから去った。


「…。」


サロスはアストラの残した剣を見た。



夜が更け、サピエンス国の路地。


「まさか、あいつが生きてたとはな。」


イミテトがフエクと話していた。


「あのドラゴンを追い払ったんだ。もうここから手を引く方がいい。」


フエクが怯えながら言う側でイミテトが奇想天外なことを言い出した。


「いや。せっかくの狩場だ。ここまで崇められた国は無かっただろ。」


「…それはそうだが。」


「あのガキのせいで奪われるのは癪に触る。せめてあいつだけでも殺さなきゃ虫の居所が悪いってもんだ。」


「だが、どうする。同じ方法は通用しないぞ。」


「…質で超えられたなら、量で攻めればいい。」



翌日。


「逃げろ!!」

「また来るぞ!!」

「ドラゴンが!!!」


「…え?」


コアが外の騒ぎに起こされ、窓を開けた。


すると、外には。


「ドラゴンだ!!」


「早く逃げろー!!」


空にはハーピーが、地上には人間が逃げ惑い、混乱の最中であった。


「アンバー!スミルノフ!起きて!」


コアが呼び、2人も飛び起きた。


簡単に身支度を済ませ、宿から外に出ると、その混乱は度を越していた。


「こんな騒ぎよう、今まで見たことないぞ!」


スミルノフがそう言うように、人という人が街で、国で、叫び、泣き、行き交っていた。


「もしかしたら、イミテトがすでに動き出してるのかもしれない!」


スミルノフはそう言うと、コアとアンバーにイミテトの捜索を頼み、空を飛び、人々を先導し始めた。


その声に連なるようにスミルノフを助けようと他の人も先導を始めた。


コアとアンバーは建物を登り、上から探すことに。


イミテトを探すが、人の量が尋常ではないために見つけられない。


フードが何かを被ってしまえば見つけることは不可能だ。


「コア!あっち!」


と、アンバーがコアを呼び、空を指差した。


「嘘…。」


コアの視線の先には、前回追い払ったドラゴンだけでなく、数体のドラゴンも引き連れていた。


「一体でもキツかったのに…。」


「大丈夫。計画通りに進めればどうにかなるよ。」


アンバーは自分にも言い聞かせるようにコアを宥めた。


一方のコアは手に握られた翠緑の石に願った。



サロスも無論この騒ぎに起こされていた。


しかし、行動できていなかった。


剣を握るも、アストラ、ヴィルトゥス、クルックスの最期を思い出し、吐きそうになる。


床に膝をつき、過呼吸になる。


「やっぱり、俺には…。」



その後、数分と経たずにドラゴンは国に到着。

家々を破壊し、火をそこら中に撒き散らす。


スミルノフ達による避難も間に合わず、数多くの人がドラゴンの強襲に巻き込まれ、サピエンス国は荒らされた。


それでも、コア、アンバーはドラゴンと戦っていた。


「喰らえっー!!」


コアは電気や炎をドラゴンに放ち、軌道を変えさせるよう仕向けている。


しかし、ドラゴンの鱗は魔法を弾き、効果は薄い。


コアは逃げ遅れた人達を抱え、手から炎を噴き出し、推進力を得て、ドラゴンからの攻撃を避けた。


急な姿勢制御も出来ず、地面に滑るように転んだ。


「早く!逃げて!」


助けられた人はコアに構わず避難所へ。


「…くっ。」


炎と電気の併用を試すが上手くいかないために一つの魔法を高火力で出すしかない。


その決断がコアの両手に激しい痛みを生んでいる。


腕の中が燃えるように熱く、指も動かせないほどに痺れる。


「でも、僕がやらないとっ!」


コアは空を飛び、ドラゴンに掴みかかる。


電気を纏い、ドラゴンの鱗に流し込むが、効いてる様子はない。


それどころか、ドラゴンに気づかれ、急降下急上昇を繰り返し、振り解かれた。


地面にぶつかる直前、なんと、ソーフィエが駆けつけ、コアを掴み上げた。


「ソーフィエ?」


「お前さんに渡すものがある。」



アンバーは道端に蹲る子供を抱き抱えたり手を握り、避難所へ届けていた。


「スミルノフ!ここには騎士とかはいないの!?」


「彼らは避難の誘導を指示している。ドラゴンには普通の武器じゃ効かないからな。」


「でも、このドラゴンの量じゃコアにも限界が!」


「それはそうだが…。」


そこに一匹のドラゴンが飛んできた。


「まずい!」


アンバーはスミルノフの言葉に反応し、弓を構え、魔術を唱える。


「紅き魔導よ、我の言伝を聞け!今構えし3本の矢に集え!」


弦を離し、矢を放つ。


「プシュケ!!」


赤く燃えた矢はドラゴンに直撃、するも、固い鱗により傷も付かない。


避難所に逃げ込んだ人を殺したと、悔やむスミルノフとアンバーの前に、新たな力を持って現れた。


「吹けっ!」


風の刃が電気を纏いドラゴンを仕留めた。


「「コア!!」」


「ごめん!遅れた!」


コアは地面に降り立った。


「…くっ!」


だが、右手を押さえ、地面に片膝をついた。


「コア、大丈夫?」


アンバーが駆け寄る。


「う、うん。」


「まさか。大丈夫なわけない。」


ソーフィエも地面に降りた。


「そのままじゃ、いずれ腕がダメになる。」


「でも、僕がやらないと。」


アンバーがそう言うコアを止める。


「ダメだよ!」


「だが、コアが魔法を使わなきゃサピエンスは終わる。」


ソーフィエがアンバーを諭す。


「でも…。」


コアはアンバーの心配を横目に、空へ飛んだ。


残り4体のドラゴンの注目を集めるため、電気を四方八方に飛ばした。


ドラゴンはコアを狙い、翼を動かし雲を切る。


後ろについたドラゴンの突撃を避け、コアは石を力一杯に握る。


「頼む!行けっ!」


炎と電気を一挙に溜める、も、放てない。


「…ぐっ!」


腕の痛みが少しずつ増してくる。


体勢を立て直し、両手から火を出す。


ドラゴンから逃げ、攻撃を避け、隙を見つける。


「今度こそ!!」


風と炎の攻撃を放った。


口を裂き、ドラゴンを一刀両断。


「…ぐっ!!!」


しかし痛みは増す一方。


最後のあのドラゴンを倒すまでコアの苦しみは終わらない。


ドラゴンの残りは3体。


コアは気を張り続け、空を駆け、ドラゴンと対峙した。


建物を縫ってドラゴンを一匹ずつに分散させようと奮闘するが、中々離れない。


「私が引き付ける!」


そこにソーフィエが飛んで現れた。


「分かった!」


コアは残ったドラゴン、一匹を請け負った。


ドラゴンの飛ぶ速さは全生物の中でトップに躍り出る。


直線で勝負すれば立ち所に負けてしまう。


コアはそれを肌で感じていた。


「なら、逆に利用すれば…。」


コアはそう呟くと、両手の炎を止めた。


ドラゴンは口を開き、コアを噛み殺そうとする。


アンバーやスミルノフはそんな姿を見て、安心できるはずもなく。


「コア!!まさか、手の痛みで…!」


アンバーは弓を構え、呪文を言い、コアを助けようとする。


しかし、矢がドラゴンに届かず、コアはドラゴンに食われた。


「うそ…。」


絶望しかけたその時、


ドラゴンは中から稲妻状の風の刃を受け、切り刻まれた。


その中にはコアがいた。


「これなら…。…っ!」


もはやただの魔法を使うだけでも腕を痛めるほどになった。


それでも、コアはソーフィエの元に向かった。


ソーフィエは風の魔法により、速度を上げドラゴンから逃げていた。


だが、直線になれば話は変わる。


ドラゴンの追い上げにより、ソーフィエは追い詰められた。


「まずい…。」


「はぁっ!!」


と寸前でコアが間に合い、電気をドラゴンに放った。


ドラゴンは目標をコアに変え、追いかけた。


コアは建物の間を通り、ドラゴンから逃げるも、


「っぐ!!!」


腕の痛みが襲いかかった。


炎を出せなくなり、地面に落下していく。


突然のことでソーフィエも間に合わない。


ドラゴンは相変わらず大口を開けてこちらに飛んでくる。


「僕が…やらないと…。」


コアは決死の思いで炎と電気を同時に放った。


放たれたそれは見事ドラゴンを撃ち抜き、倒すことができた。


地面に打ち付けられたコアは歯を食いしばり、立ち上がろうとするが、どうにも体が動かない。


ソーフィエが遅れてコアの近くに降りた。


「おい。立てるか。」


「…力が入らない。」


掠れた声で言うコアは汚れや怪我で見るからに疲れ切っている。


その瞬間。


ドラゴンの咆哮が静寂の中に響いた。


「やばい…。最後の一匹、倒すの忘れてた。」


狡猾にも仲間を売り、人々を襲うために影に隠れていたのだ。


コアは腕を杖にして立とうとするが、腕の中をうごめく痛みが邪魔をする。


ドラゴンは避難所に向かった。


おそらく餌場とでも思っているのだろう。


コアは瞳孔を開き、より一層力を込めてドラゴンを止めようとするが、体の限界がそうさせない。


ドラゴンは一直線に飛んでいく。


「…っ!ア、アンバー!スミルノフ!」


コアは地面にうつ伏せになりながら避難所を見た。


「動けよ!!お願いだから!!」


ソーフィエも囮になるために翼を羽ばたかせるがさっきの高速飛行で翼が思うように動かせない。

そのために速度が出せない。 

風の魔法で加速しようにも元々魔力量が低いために使えない。


「こっちに来てる!」


アンバーが叫ぶも、もう狙われた以上避難民を動かすほどの時間もない。


スミルノフはただ空を見つめ、苦渋を漏らす。


「くそっ!」


ドラゴンの鼻息が伝わるほど避難所に迫った。


その時だった。


誰もが諦めたその時。


彼が現れた。


「サロス!!」


コアが叫んだ。



ドラゴンの右目を斬り、避難所にいる全ての人を守った。


「やるじゃないか…。」


ソーフィエが呟いた。


ドラゴンはサロスから距離を取り、空へと飛んで行った。


「サロス…なの。」


アンバーが話しかけるも、反応はない。


ただ彼の横顔が見える。


険しい顔でドラゴンを見据える、その顔が。


…「託されたなら、それをどうするのか自分で決めろ。」…


俺には…アストラみたいに誰かを守る勇気なんてない。


俺には…コアみたいに敵を倒せるような力もない。


きっと、間違ってる。


俺が勇者になることは。


…。


それでも、アストラから託されたこの剣を次の勇者に引き継ぐ。


今までの勇者がそうしたように、

意志を伝えていく。


それまで俺が勇者をやるんだ。


それが俺の使命だ。


「…もう迷わない。」


アストラ。俺は決めたよ。


これで合ってるのかな。


分からないけど、信じるよ。


俺が決めたこれを。


「俺は勇者になる。」


そうサロスが決意すると、呼応するように剣の錆が剥がれ、光出した。


形が変わり、鍔は西洋風な長いものから薄い円形のものに。柄は茶色いベルトから白い帯びに、刃は両刃から片刃に変化した。


「認めてくれたのか。」


サロスは剣を握り締め、噛み締めた。


ドラゴンはまた咆哮し、改めて避難所を狙った。


「…っ!」


剣を両手で握り、ドラゴンの方へ走った。


翠緑の石が無くても魔法は使える。

今までの感覚を元に同じ技も使えるはずだ。


刃の根本に空いた円い穴に風が抜けていく。


「はぁっ!!」


サロスは体を回転させ、空を飛んだ。


出来た!


剣を構え直し、肩に担ぐように構えた。


「喰らえっ!」


そう叫び、剣を振った。


すると、旋風を巻き起こし、ドラゴンを縦に切り裂いた。


最後の子分ドラゴンを倒した。


その姿は正に勇者。


アンバーが目を輝かせた。


弱きを助け、強きをくじく。


そうだよ。


たとえ、この世界に悪い勇者がいても、今、私の目の前にいる彼は、彼だけは絶対に本当の勇者だもん。


地面に風を放ち、威力を殺し、降りた。


「サロス!」


アンバーが駆け寄る。


「アンバー。悪かった。今までずっと…。」


「ううん。良いんだよ。こうやってまた戻ってきてくれたから。」


アンバーはサロスに抱きついた。


「お二人さん。お熱い所悪いが、まだドラゴンは残ってる。」


紅い巨大の上にフジツボのようなコブを持つ、サピエンス国に災禍をもたらした元凶。


あのドラゴンがサピエンスにやってきていた。


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