◎探していた
電気と炎の柱がドラゴンに当たった。
ドラゴンは痛みに悶え、空を飛び去って行った。
これを為したのは、コアだ。
まだ年だって12歳の子供だ。
それなのに、俺は、こいつの背中を見てる。
魔法を撃った後、仰向けに倒れかけたコアをサロスが受け止めた。
「コア…。」
サロスは静かに呼びかける。
すると、コアはゆっくり呼吸し始めた。
その時、空から彼女が飛んで来た。
片翼が竜に食われたのか、下半分が丸々欠けていた。
そのせいで体勢が整えられず、地面に転がり落ちた。
ソーフィエは立ち上がり、コアに言った。
「…やっぱり君はすごいな。」
そこにサロスが口を挟む。
「…お前。よくもコアを…。」
「…?よくも、だって?ドラゴンに攻撃する手段を持ちながら出来なかったお前さんが言えたことか?」
サロスは彼女の指摘に言葉が出なかった。
コアはそんなサロスに更に問い詰める。
「…サロス。なんであの時、剣を抜かなかったの。」
「……。」
「何か…答えてよ。…サロス、この国に来てからずっと様子がおかしいし、さっきのこともそうだし。教えてよ。」
コアがサロスの目を見て言った。
「…分かった。言うよ。…でもまずはアンバーを見つけよう。」
コアは頷き、体を起こす。
3人、サロス、コア、ソーフィエは避難所に向かった。
「あいつ…。竜を追い払った。」
「そうだな。もう、やめにしよう。ここにいてもあいつに目を付けられる。」
イミテトとフエクは物陰に隠れ、何とかやり過ごした。
そして、この状況を鑑みて、逃亡することに決定。
2人は目一杯の金品を持って、サピエンス国から逃げた。
そうして、3人が避難所に着いた頃にはイミテトとフエクは姿はなかった。
「あいつら、やっぱりもう逃げたのか。」
コアが少々怒りを露わにしながらそう言った。
すると、サロスが何かを見つけた。
「2人とも、これ、何だ?」
「多分、収容道具だな。」
ソーフィエが言った。
「収容道具?」
コアが聞く。
「ああ。引越しの時とかに重宝するな。そこの門みたいなところを弄れば、中身を出せるはず。」
ソーフィエがそう独り言のように呟きながら機械を弄り出した。
時間もさほど経たぬ内にゲートを開いた。
中から多くの人が外に出てきた。
「これ…何があったんだ。」
人々は荒れた街の風景を見るなり、そう言った。
「竜は…どうなったんだ。」
「イミテト様が倒してくれたのか?」
コアに数人が聞き寄ると、コアは頷いた。
「そうですよ。」
たった一言、答えた。
そうして門から出てくる人達を見送っていると、彼が出てきた。
「…!スミルノフ!!」
コアがそう言って駆け寄った。
「良かった!君も無事だったんだな!」
サロスとソーフィエもコアに付いて行った。
「この人達が君の仲間かい?」
スミルノフがコアに聞くと、コアは詰まりながらもそうだと答えた。
加えて、アンバーが彼の背中から現れた。
「アンバー!」
コアは嬉しい気持ちを全面に出した。
こうして、サロス、コア、アンバー、ソーフィエ、スミルノフの5人が集まった。
5人は近くの建物の中へ入った。
アンバーを椅子に座らせ、スミルノフとソーフィエがカウンターのような長机に、サロスとコアが対面で円机に座った。
「じゃあ、理由、教えてもらおうかな。サロス。」
コアが言った。
ソーフィエはサロスの方を向く事はなく、笑みを浮かべた。
「…分かった。」
サロスが少しの沈黙の後、口を開いた。
「今から話すのは、300年前の出来事についてだ。」
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「うわーん!!」
「大丈夫だから。ね?」
サロス(15)はこの時、迷子の男の子をあやしていた。
ここはポプルス国が建てた東側の遠征国。
遠征国とは最大領域のポプルスの領土を四方に分割し国の経営を潤滑にするためのものである。
また東側の遠征国はポプルスの持つ東西南北のどの遠征国よりも貧しい。
とは言っても、ポプルス国の名が冠されているため当時の中では上位に上がる裕福な国であった。
そんなところで育ったサロスは日々忙しなく過ごしていた。
困っている人を見逃さず、見かければすぐに手を差し伸べる。
彼はそうした心優しい性格から町の人には”勇者くん”と愛込められた呼び名で呼ばれていた。
そして今日もサロスは迷子の男の子を助ける。
「君の名前は?」
「お母さーん!!」
いったん落ち着かせるのがいいか。
サロスはそう考えると、近くのおもちゃ屋に向かいもちろんおもちゃを買った。
「はいこれ。お兄さんからのプレゼントだよ。」
「こ、これって。」
男の子はサロスのプレゼントを受け取るなり首を傾げ、怪訝な顔をした。
「ま、まさか、気に入らなかったかな。」
サロスが恐る恐る聞いてみると、男の子がううんと首を横に振った。
「これ、僕がずっと欲しかったものなの!何で分かったの!?」
男の子は目を輝かせ、サロスに聞く。
「そ、そうだったの?たまたま手に取ったそれだったんだよ。」
男の子は心の底から喜び、おもちゃを抱きしめた。
サロスは男の子に手を差し伸べ、
「…それじゃあ、お兄さんと一緒に君のお母さん探そうか。」
「うん!」
男の子の機嫌が戻ったようだ。
サロスは男の子からお母さんの名前を教えて貰い手を握りながら探した。
「レナさーん!!」
「お母さーん!!」
数分間、2人で呼んでいると、お母さんが男の子に涙を出しながら走ってきた。
「ウミ!良かったー!どこにいたの!心配したのよ!」
「大丈夫だよ!このお兄さんが一緒にいてくれたから!」
男の子の言葉に反応し、お母さんは子供の頭を撫でながら、サロスに礼を言った。
「本当にありがとうございました!わざわざこんなおもちゃまで…。いくらでしたか?返しますので。」
「いえ、良いんですよ。その子にプレゼントしただけですから。」
サロスはそう返すと、男の子は精一杯の声でありがとう!と言った。
お母さんももう一度礼を言って、その親子は去って行った。
「おいー。サロスじゃないか!」
「え?あー!おじさん!」
サロスは八百屋を営むおじさんに話しかけられた。
「今、大丈夫か?また、手伝ってくれるかい?」
「もちろん。」
サロスはまた新たに人を助けるようだ。
所変わって、ポプルス東遠征国から数キロ離れた場所。ある丘の上。
「よし!野郎共!!俺達は魔王様からポプルス国征服の火蓋を切れとの命令を受けている!」
オークの軍隊長が部下を鼓舞している。
「お前らは新たな時代の勇者となるだろう!!さぁ!最後の国!ポプルスを攻め落とすぞ!!!」
「「「「「「うおー!!!」」」」」」
オークの何百、何千の戦士達が片腕を空に掲げ、喉を開いた。
同時にある者達もポプルスに集まってくる。
「やっと着いた!」
腰に挿した剣に左手を掛け、右手で日差しを作る。
「本当に"やっと"だよ。真っ直ぐ来てたらもっと早くに着けたのに。」
風に青い髪と赤い髪が靡いている。
「それは…。とにかく!ここで!見つけるよ!案内人さんを!」
2人はポプルス国の入り口。東遠征国に到着した。
仲間集めに最適な場所ということで2人はポプルスにある居酒屋を転々とし、案内人のオーディションを行った。
始めてから数時間が経つ頃。
「私はこの国で一番、いや、世界で一番の測量士でございます!ぜひ私をあなた方の仲間に入れてくださいまし!」
「世界で一番!おい!アストラ、こいつは使えるんじゃないか?…っておい!聞いてるのか。」
アストラ。
青い髪の長髪を指でくるくるといじりながら、水色と緑色のオッドアイを外に向けている女性である。
「うんうん。そうだねー。よろしくー。」
「アストラ。真面目にやれ。」
「分かってるけど…。ヴィル、あなたならわかるでしょ?」
ヴィル、またの名をヴィルトゥス。
長く伸びた赤い髪に整った顔立ち。手をそんな顔に当てて、こう言った。
「まあな。」
「仲間にしたくない…。」
そのように言われている後ろで自称世界一の測量士を名乗るこの男は周囲の人に自慢げに選ばれたとしきりに声に出した。
「それでも、案内人は少しの間しか一緒に旅をしないんだから。」
ヴィルトゥスはそうアストラを説得するが、
「それでもだよ。私は楽しい旅がしたいの。彼みたいな…」
アストラは視線を測量士に移す。
「ほれ!見たことか!これで私の人生勝ち組だ!!」
「やだよ。」
ヴィルトゥスはため息をついて、測量士に断りを入れに歩いて行った。
「ごめんー!」
アストラの心のうちで全力を尽くして測量士に謝った。
前で両手を合わせ「ご、め、ん」と口を動かして。
「サロス!すまねーな!毎回毎回!」
アストラはそう言うおじさんの声を聴き気になったのか、耳をすませる。
「いえいえ。僕がしたいだけなので。」
「…いい子いるじゃん。」
アストラは窓の外にいる男の子に興味が湧いた。
日は落ち、建物に灯りが灯り始める。
サロスもそろそろ最後の手伝いを終える。
「本当にありがとうね。いつもいつも、こんな大変なこと。」
パン屋のお姉さんが礼を言う。
「大丈夫ですよ。僕がやりたいからやってるんです。」
「前から気になってたんだけど、どうして人助けを続けてるんだい?」
サロスはお姉さんから目を逸らし、恥ずかしそうに頬を赤くして答えた。
「僕、小さい頃から勇者に憧れてたんです。どんな人でも見捨てない。必ず全員を救う勇者に。」
「…まさか剣の勇者のことかい?」
お姉さんは少し揶揄いながら聞いた。
「そ、そうです。」
「だろうと思った!…確かにあの勇者様は逸話が多いからね。今だって眠る前に弟に話してるよ。」
サロスの顔から恥ずかしさが段々と薄れていくと、真剣な表情に変わった。
「…剣の勇者様は絶対、この世界を変えてくれるって僕、信じてます。」
「そうだね。今回こそ、魔王を倒してくれるだろうさ。」
サロスが彼女の答えに微笑むと、
低いうめき声のような角笛の音が辺り一面に響いた。
「この街は!今日より!魔王様の領域とする!!刃向かうものは俺達オークが皆殺しにしてやる!!」
「遂にこの国も…。サロス君。」
お姉さんが呼ぶも反応がない。
「サロス君?…サロス君!?」
周囲を見渡してみるが、サロスの姿は無かった。
「一体どこに…。」
「音の方向は…。確かこっちから。」
サロスは探していた。
「きっと、もう、あのオーク達は被害者を出してる!」
何をか。
「僕が助ける!」
足を速め、聞き耳を立てる。
「誰かー!助けてくれ!!」
サロスは一目散にその声を辿り走った。
「どうしました!?」
「サロス君か!ごめん。…天井が崩れて足が挟まったんだ。助けてくれ。」
「分かりました。」
サロスは辺りを探し、瓦礫を退けられるような物を見つけた。
「このパイプで瓦礫を浮かします!その隙に出て下さい!」
パイプを瓦礫と地面の間に突き差し、力を入れて上から押し込む。
ガラガラと音を立てながらも下敷きにされた人は微かにできた隙間のおかげで出ることができた。
「ありがとう!本当にありがとう!」
「ええ。…それよりも立てますか?」
「ああ。なんとかな。君も早く逃げろ!」
「僕はまだやることがありますから。」
サロスは更に駆け、国中を周った。
目に付いた困っている、助けを求める人は全て助けた。
「誰一人見捨てない!」
そう意気込んでいると、
「お母さんに近づくな!!」
この声…ウミくん!?
「これはこれは、大層、意気の良い人間だな。」
オークの隊長が人間をそう見下した。
「どっか行け!!」
「ウミ…逃げなさい。ユキを連れて…。」
「嫌だ!お母さんを置いていけないもん!!」
「親子の感動的な別れの場面、邪魔するが、まとめて殺す。」
ウミは妹のユキと怪我をしている母を庇い前に出た。
「させないっ…。」
隊長はそんなウミの言葉を無視し、腰から抜き放った大太刀を振りかぶる。
そして、牙を光らせ、太刀を振るった。
「…っ!」
その時、風が吹き荒れたことで土煙が舞い隊長の太刀を止めた。
「誰だ!」
隊長オークは土煙を払い、怒号を飛ばす。
そこにいたのは…サロス。
左手に風を纏い、隊長オークを睨んでいた。
「ウミくん!今のうちに逃げるんだ!僕が時間を稼ぐ!!」
足は震え、声も所々掠れている。
僕がやらなきゃ、誰が助けられる!
しっかりしないと!
ウミくん達が!
「早く!!」
サロスの声で目が覚めたのか、ウミとユキはお母さんを連れてその場から離れた。
「ふっふふ。なかなか骨があるじゃないか。」
隊長オークは親子を見逃し、サロスに構った。
「あの親子は俺の部下がどうにかするさ。だがお前だけは俺が殺す!」
口から伸びた牙がより一層に光る。
「…相手になるさ!」
ウミくん達、逃げてくれ!
隊長オークは太刀をサロスに向かって振った。
サロスは両手を前に構え、太刀を風で止めようとした。
しかし、風の力が足りない。
風を切り、太刀はサロスの頭を…。
「…はっ!!」
越え、遠くに飛び、地面に深く刺さった。
サロスは瞑った目を開け、太刀を弾いた"剣"を見た。
金色の鍔に緑色の宝石が埋め込まれたシンプルな剣。
その刃は鍔とは対照的に夜空を映すほどに美しい銀色に染まっている。
「あれは…グラディウス…。なら…この人が…。」
「なんだなんだ、今日は豊作だな。お前、現代の剣の勇者だな?」
隊長オークがその青い髪の女性に聞いた。
「…その通り。」
アストラは剣を肩に担ぎ腰に手を当て、自信たっぷりとオークに言い放った。
「…なら、俺はこの国を制圧し、剣の勇者も殺せる訳か!三頭龍に入るのも夢じゃないな。」
「…それはどうだろ。私がいるからね。難しいんじゃないかな。」
「そうか?やってみれば分かることだ。」
そう言うと、オークはもう一本の大太刀を腰から抜き、アストラに切りかかった。
「ヴィル!」
アストラがそう叫ぶと、屋根の上から、赤髪のヴィルトゥスが現れた。
「全く、人使いの粗いお嬢様だ!」
右手に炎の玉を現し、オークの足先に飛ばした。
炎の玉は地面に当たると爆発、火の壁がアストラ達とオークを隔てた。
ヴィルトゥスが屋根から降り立つと、アストラが剣をしまい、彼に指を指してこう言った。
「私をお嬢様だなんて言わないでって言ったよね!」
「悪かった。もう言わないよ。」
ヴィルトゥスはまたか、と呆れた顔をして両手を挙げ降参した。
「分かってるなら良い。それよりもあの子、ここから連れ出して。」
「了解。」
ヴィルトゥスはそう言うとサロスに近づき、ほら、おいでと優しく呼びかけた。
しかし、サロスはヴィルトゥスを押し除け、アストラに駆け寄った。
「あ、あなたは!剣の勇者様なんですか!?」
「…ん?」
アストラは振り返るなり、すぐに気付いた。
「その声!!君は昼の時の!あの子だね!!」
「え?」
「ほら!あのおじさんを助けてたでしょ!?」
サロスは緊張と意外な答えに動揺して答えられなかった。
「絶対そうだ!!」
「アストラ。あんまり困らせるもんじゃ…。」
「いーや!この子だよ。私が探してたのは!」
「その子が!?」
ヴィルトゥスが目を丸くして驚いていると、オークが太刀を振り払い、火を消した。
「もう!うんざりだ!さっさとお前らを殺してやる!」
度重なる加勢で苛ついているオークは太刀を右手に持ち替え、アストラに襲いかかった。
「ヴィル!その子を頼んだよ!!」
アストラはそう言い、鞘から剣を抜き、オークの太刀を弾いた。
だがオークは太刀を離さず、アストラに振る。
すかさず彼女も対応し、太刀を受け止める。
「勇者様!」
ヴィルトゥスはサロスを抱え、屋根まで飛んだ。
「助けないと!」
「いや、良いんだ。」
「でも!!」
「よく見ろ!」
ヴィルトゥスはサロスの顔を持って、アストラの動きを見させた。
アストラ自身の何倍もある体長を軽々飛び越え、攻撃を躱し、次々と相手を追い詰めていく。
その動きはまるで流れる水のよう。
動きの軌跡をなぞる青い髪が月光を吸収し輝いている。
太刀が上から、下から、右左と振ってくるのにも関わらず、アストラは美しい動きと共にオークを攻撃を加える。
そして、アストラの剣撃はオークの太刀を砕いた。
「こいつっ!」
「どうした?さっきまでの勢いは!」
オークは折れた太刀を捨て、後退りする。
「逃さないよ。」
アストラは腰を落とし、両手で剣を構えた。
剣に埋め込まれた宝石が光だした。
「この国を襲った報いは受けてもらう。」
アストラはそう言うと、体を回転させ、剣を振り払い旋風を巻き起こした。
その風は真っ直ぐオーク隊長に向かい、
「くそっ。」
体を二つに切り裂いた。
「一人で…あの怪物を…。」
「ああ。あれが星剣の勇者、アストラだ。」
オーク隊長の部下はそのような姿を見て恐れ、遠征国から離れて行った。
「ヴィル!あの子連れてきて!」
「分かった。ほら、行く…ぞ。って…いない!!」
またもや、サロスは姿を消した。
「ウミくん達は逃げれたのかな。」
サロスが彼らが逃げた方向を追いかけている。
「あ!お兄さん!!」
「ウミくん!」
ウミはサロスに走って行った。
そして、抱きついた。
「良かった…。無事だったのか。」
「おかげさまで。」
ウミの母、レナがサロスにそう礼を言った。
「あ、あなたは!」
「本当にありがとうございました。ウミもユキも私まで助けていただいて。」
「そ、そんな。」
サロスが両手を赤らめた顔の前に持っていき、隠した。
しかし、
「君のおかげだよ。」
アストラにはバレているようだ。
「あ!勇者様!」
「君に話がある。来てくれるかい?」
「はい!」
サロスは最後にウミ達に礼をして離れた。
「…それで、話って。」
「単純。私達のガイドになってよ。」
「ガイド…ですか?」
「そう。この近くを案内してほしい。魔王のいるところまで。」
「ぼ、僕にですか!?」
「そう!君ならできる!」
「そ、そんな、僕にはできないです!」
「そんなわけ…。」
「いや!ある!!」
「え?」
アストラは声の方向を向く。
そこには、あの自称測量士がいた。
「無理だ!そんなガキには飛んだ重荷だ!!」
「ヴィル。あいつ、断ったんじゃないの?」
アストラが小声で伝える。
「…そのはずだがな。」
「私は世界一の測量士だぞ!そのガキにこの知識量が負けるはずがない!!」
そう次々と自分をPRする自称測量士は続けた。
「剣の勇者の仲間になることはこの先の未来が約束されることと同義、そんなチャンスを逃すつもりは毛頭ない!!ましてそんなガキに奪われるなど!!」
「もう…我慢ならないっ!ガツンと言ってやらないとっ!」
アストラがそう言い、前に出るもヴィルトゥスが止めた。
「ダメだ。まがいなりにも俺達にも責任がある。強くは言えない。」
アストラは過去の自分にこれほど後悔したことはない。
思うことが言えない二人の姿をサロスは見ていた。
「…ぼ、僕!決めました!!」
アストラ達も測量士もサロスの方を向いた。
「僕!ガイドになります!」
「はぁ!?」
測量士が口を大きく開け、意味が分からないと言うようだ。
その反対にアストラは顔一杯に喜んでいた。
「お前みたいなガキに何ができる!!ふざけるな!身の程を弁えろ!」
サロスは再び、その怒号にたじろぎ言い返せない。
「いや、それは君の方じゃないかな。」
アストラがフォローを入れた。
「な、なにを…。」
「私はね、勇者に必要なのは魔王を倒せる力でも莫大な知識でもないと思っている。…必要なのは人を助けたいという思い、それが大切だと思っている。」
「何言って…。」
「この子はそれを持っている。君にはない大切なものだ。」
「勇者、あなたまでそんなことを言うのか!」
「君なら、私の力を借りずとも成功できるはずだ。自分を省みればね。」
測量士は黙ってしまった。
「…分かった。すまなかった。こんな子供のようなことをしてしまって。」
そして、謝罪すると、その場から離れた。
「アストラ、じゃあ、ガイドは…。」
「もちろん、君だよ!」
手で指した先にはサロスがいる。
「ほ、本当に僕で良いんですか。」
アストラは笑って近付いた。
「何言ってるの。…君がいい。」
「でも!あの人が言ってたみたいに知識も何も…。」
アストラはサロスの頭の上に軽く手を置いた。
「人を助けたいという思い。それを持つ君がいい。君にお願いしたい。」
サロスが恐る恐るアストラの顔を間近で見る。
左目が緑、右目は水色、その左右違う目でこちらを見つめている。
「君が好きだから!」
歯を見せ、にっこりと笑ったその顔が僕の目の前に一面に広がった。
「あ、でもそのですます調はやめてね。そこは嫌い。」
「は、はい!…あ。」
アストラが声高らかに笑った。