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◎勇者とは。


むかーしむかし。


この世界はある1人の男によって支配された。全ての植物、全ての動物は枯れ果て、病に侵され、絶望の奥深くに落ちた。

生きとし生けるものが希望を求めた時、ある者が立ち上がった。

人々は彼を"勇者"と称え、彼の旅出を祝い、彼に全てを託した。


彼は世界を周り、世界から期待された。

彼は何を背負ったのか、何を志したのか。


それは、魔王の討伐である。


世界を変えた1人の男、その本人である。


そして人々は待ち、待ち続け、3年の時が経った。


勇者は…。


敗けた。魔王に敗けたのだ。


人々はそれを知ったのか。いや、知らない。勇者が死んだところは誰も見ていない。しかし皆、時間と共に希望は薄れた。


その内、我こそはと第二の勇者が現れた。人は今度こそと信じた。しかし結果は同じ。また魔王に殺された。それから更に数年後第三の勇者が生まれた。もちろん、人は彼を信じる。しかし、魔王に敗ける。その度に人は期待を裏切られる。


何年経とうと何回も失敗する。勇者は魔王に勝てない。その流れは定着しつつあった。


この挑戦と失敗の歴史が100年を満たした頃、数多くの勇者を排出した人間の国と魔王がある協定を結んだ。


それは、"非促進勇者誕生条約"。


勇者を出さない代わりに魔王は世界の3分の1から手を引く、というものだった。


200年の後、人間は4冊の魔導書を元に技術を高め、発展させた。ビルに車に飛行機に、ましてや連絡が取れる電子板まで。


そして、この世界は平和になった。


「…ありがとうございます。〇〇さん。今回は今から約300年前についてご解説していただいたわけですが。こう聞くと、やはり、勇者は…。」


「そうですね。意見は様々でしょうが、勇者は裏切り者だとも言えるでしょう…。」


男は、つまみを回しラジオのチャンネルを変えた。


「…言われてるな。お前達。」


後ろに積まれた数多くの骨董品の方を向いてそう言った。


「…さてと。着いた。」


キキッーとブレーキをかけ車を止めた。


「我が家の"レリク"だ。」


見る限り古ぼけて、今にも崩れそうな建物がこの男の家である。

車から降り、ドアを開けると掛け看板が竹の風鈴のような音を立てる。


スイッチに指を合わせ、電気を送る。すると建物内の至る所に吊るされた電球が点滅し、光り輝いた。


暗かった部屋が照らされ、隠れていた物が現れる。


ボロボロの破れた服。

何かの牙や鱗。

長年手入れされていないであろう剣。


どうにも不思議な空間だった。


車から下ろした荷物を持ってどこかに運ぶ。


とはいえ、自分の家に名前を付けるのか。

そして、散らかっているように見えるが人の歩ける隙間が空いている。まるで陳列されているよう。


そう。勘の良い方はお気付きであろう。

ここは、ただの家ではない。

"勇者"の骨董品屋である。


[ガタガタ!]


「痛っ!」


…そこを経営するのは奥で箱を積み上げ、大きな物音を立てているこの男。


「サロス!!帰ってきたんだね!」


サロスである。


「…?おー!!お前達か!また暴れに来たのか?」


「そーだよ!」

「うんうん!」

「2人とも商品を壊しちゃだめだよ。」


そして、ドアを勢いよく開け放ち、大声で叫ぶ彼等は近くの村の子供達である。


サロスはやんちゃ坊主の2人を注意した子供に寄りこう言った。


「コアは偉いなー。よく見習えよお前達。」


「はーい。」

「うんうん…。」


コアと呼ばれた天然パーマでボサボサな黒髪の少年は恥ずかしそうに笑った。


「…で、今日は何の用だ?」


「今日もあれやろ!あれ!」


「また?またあれやるのか?」


サロスは眉をひそめ、あきらかに嫌そうにする。

しかし純粋無垢な子供達にその表情を読み取ることは難しい。


「もちろん!今回も!サロスがボスね!」


「あー。分かったよ。」


店の外に出て、緑色の原っぱに立つ。

息を吸い、覚悟を決める。


「わはは!この俺こそが世界を征服する王である!皆、俺の前に平伏せ!」


少し顔を赤らめながらいつものセリフを言う。


「待て!この僕たちが今日こそお前を倒す!」


リーダーの1人がサロスを指差しそう言った。

彼に続いて数人の勇者が叫びながら、襲いかかってくる。


「ぐは!わぁ!つ、強い!ぐは!や、やられたー!」


サロスは地面に倒れ込んだ。子供達はやった!倒したぞ!と喜んでいる。


彼は子供達を笑わせ、自分も笑わせられ、笑顔溢れる時間は過ぎた。


3時間が経ち、太陽が徐々に沈んでいく。


「…?あの煙、なんだ。」


…窓の外にある大きな煙に気付いた。

モクモクと縦に伸び、夕陽に照らされることでその煙の色が分かる。

灰色だった。


「まずいっ…」


サロスは、バタバタと何かの準備をし始める。

逃げるのか、街の人に知らせるのか、いや違う。タンスに入っている剣を取り出した。


大きな白い鞘に収められている長剣。鍔は鈍い金色に緑色の宝石が埋め込まれているシンプルなものだ。


その剣を腰に帯刀し顔を隠すためマフラーを巻いた。


バン型の車に乗り込み、ボタンを押しながら電気を流す。

すると、車が震え、エンジンがかかった。


「…待ってろよ。みんな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


火の粉が舞い、火の手が村の周りを囲む。


「逃げろー!!」

「魔物の襲撃だー!!」


村人はどこに行くことも出来ないが、家にいる人に呼びかけ、どうにか外に逃げようと四苦八苦していた。


「…コア!コア起きなさい!」


そして、黒髪天パの少年が母に起こされた。


「…う、うん。お母さん。」


「ほら!早く家から出るよ!」


母はコアの手を引っ張り、外に出た。

中も外も変わらぬ熱さがコア達を苦しめる。


「…お母さん。お父さんは…。」


コアは無意識に父がいないことに気づき、母の手を握り返した。


「…大丈夫。あとで合流するから。」


母の目はコアの方を向かない。

コアの心は一層不安になった。


「おい!お前ら!誰1人取り逃がすなよ!全員殺せ!」


不安な心が助長され、そんな怒号のする方を向いてしまった。


でこぼこの緑色の肌。血がびっしり付いた爪に牙。


「…?」


飛び出した黄色い目でこちらをギラリと見られた。


「ボス!いました!」


「やっちまえ!!」


ゴブリンだ。


コアは母の手を引っ張り、逃げようとする。

が、母は動こうとしない。それどころか、肩を持ち、こう言った。


「あなたは早く逃げなさい!早く!」


コアの手を振り解き、彼を押した。


「…っ!」


コアは理解し、逃げた。


「…女だな。これは、高く売れるぞ。」

「ボス〜。売る前にちょっとだけ楽しみましょうよ〜。」


だが、足を止めた。


踵を返し、ゴブリンの元に駆け寄る。


「お母さんに触るな!!」


コアは右手を後ろに引いて、拳を作る。


「はぁっ!!」


ゴブリンの腹に当てつけた。


「なにやっ…ぐわっ!!」


緑色の悪魔はコアの放った雷に包まれ、黒焦げになりその場に倒れた。


「…ぼ、僕、今。」


「ふんっ!」


自分のしたことに気を取られ、ゴブリンの持つ巨大な棍棒で殴り飛ばされ、気絶した。


「ったく。邪魔なガキが。よし!お前ら!集めたコイツらを連れてくぞ!」


巨大な棍棒が小さく見えるほどの巨体を持つゴブリンは子分達に命令した。


[ププッー!]


「…?今度はなんだ!?」


ボスゴブリンは変な音に反応し、周りを見渡すと、紫色のバンが走ってきていた。


車は一直線にボスの元に進んで来る。


「おいおい!突っ込んでくるのか!?」


そして、大きな音を立てて、車のバンパーを凹ませて、ボスゴブリンを焼け落ちた家に飛ばした。


白い煙をふかした車から、剣を持った1人の男が降りてきた。


ボスゴブリンは燃えた家から抜け出して、子分達に命令した。


「アイツを殺せっ!!」


子分達は棍棒を振りかざしサロスの方へ走った。


サロスは左腰に下げた剣に手を掛ける。


そして、剣を…抜かず、鞘ごと構えた。


「っ!」


彼は襲ってくる子ゴブリンを次々と倒していく。


首の後ろ、顎の下、腹の溝、それらを素早い動きを持って狙い、打ち、ゴブリンがバタバタと倒れていく。


「死ねっー!」


最後の子ゴブリンが棍棒を横に振る。

サロスは跳び避け、鞘が付いたままの剣を縦に回転し後頭部を勢いよく打った。


ゴブリンは白目を剥き、地面にうつ伏せに倒れた。


「…う、うん…。あれってサロス?」


ハッと正気を取り戻したコアは立ち尽くしている彼を見た。


そして、そんな姿をボスゴブリンも見ていた。


「…ア、アイツ、まさか。300年前死んだはずの…」


サロスはゴブリンの方に剣先を向ける。


「…お、お前!"剣の勇者"なのか!?」


「…だったら、どうする。」


サロスは顔色変えずゴブリンを威圧する。


「お、お前ら!一旦引くぞ!」


彼の圧にたじろぎボスゴブリンは意識のないものも意識のあるものも従え、村から出て行った。


最後のゴブリンも村から出ると、雨が降り始めた。

火は収まり、代わりに黒い煙が上がる。

だが…。


「サロス。お前って、勇者だったのか。」

「嘘だよな。」

「バカ言うなよ。あのサロスだぞ?そんなわけないだろ。」


村人の心にも暗雲が立ち込める。


「…だったら、どうする。」


サロスは、村人を一瞥もせず車に乗り去って行った。


「…サロス。」


コアはそんな後ろ姿を見ていた。


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― 新着の感想 ―
勇者が人から嫌われているという設定に驚き、惹きつけられました。頑張ってください。毎日投稿…お待ちしています。
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