番外編 第四王女マデリン
ムーンでの長編投稿の隙間に番外編を一つあげます〜(*´ω`*)
軽く(?)ざまあ回なのかもしれません。苦手な方はパスしてください。そして、本格的なざまあスキーには物足りないカモしれませんが……本編とは雰囲気が違うのでご注意ください。
私の同じ歳だと言う異母姉が、とにかく……とにかく目障りだった。
私よりも少し早く生まれたというだけで、姉などという私よりも上の位置にいる。
それ以外は私に勝てるものなど、何一つないのに私の姉だなんて。
私と同じ金の髪なのも気に食わない。もちろん私の方が生まれた時から美しいんだけど、アイツも……庶民のくせに美しいと評判になり王の妃に選ばれた母親に似て、それなりに美しい容姿をしていた。
特にあの薄紫色の瞳が腹立たしい。私のサファイアの様な瞳にはもちろん勝てないが、影で可愛いとか美しいと言われているのを知っている。
キュプラ王族は多ければ多い程良いとされていて、庶民の妃も何人かいる。子どもを産めば、後宮でそれなりの地位を貰えるのだ。
ただ庶民の妃はいても、その血を引いた庶民の子どもは異母姉だけだ。よく母も祖父母も、あの母子の文句を言っていたので嫌になっちゃう。
キュプラ国内は、比較的全ての民が豊かではあるが、私の母の実家程に財力も権力もある貴族は数少ない。
「まったく、あんな庶民と私達が同じ妃として並べられるなんて、嫌でたまらないわ!」
よく母はそう叫んでは怒り狂っていた。
そして後宮では新たにたくさんの妃が……本当に毎日の様に召し抱えられるのだ。そして、目新しい若い妃にすぐに入れあげ、そしてすぐに飽きる王様に妃達の不満は溜まる一方だった。
そんな後宮で溢れた悪意が、下の方に下の方に流れていくのは必然だった。
そしてそれは、姫を産んだがすでに王の寵愛は移ろいでいる庶民の妃。更に王からの寵愛が、ただ消えた他の妃は後宮から出ることも可能だが、姫がいるせいで後宮から出ることも逃げ出す事も叶わない妃。
貴族の出である妃達はこぞって、その母子をいたぶった。
もちろん、キュプラ王族の血を引きし姫がいるので、バレない様に──バレバレだが──嫌がらせを行い後宮における不満のはけ口にしていた。
私だって、あんな庶民に姉ヅラされるのは本当に腹立たしい。まぁ、正式に顔合わせるのなんてほとんどないのだが……五歳の儀式以降は、年に一度か二度は顔を合わせる事になった。
その時は私よりも早く生まれただけで、先に名前が呼ばれ席順も私達よりも上座に座るのだ。本当に腹立たしい!
それでも、あんな庶民でも役に立つ事があった。
バルバドスという野蛮で恐ろしいあの国からの婚姻要請があったのだ。
以前、お母様達が国境付近で魔獣が増えて、討伐隊への資金が〜人員が〜なんてお祖父様と話してるのは、確かに聞いていた。
最初は「ふ~んそうなんだ」くらいの話しだったはずなのに、年々深刻そうになっていった。
この国の後継者でもあり、第一王子でもあるお兄様が討伐に出ていて、そんなに問題ないはずじゃなかったの?
一度や二度ならば、第一王子率いるキュプラの兵でも大丈夫だったのだろうけど……戦い慣れていない我が軍が一年……いや、半年も戦い続けることは困難だった。お兄様に頼りきりだかららしい。
そのため帝国を始めとする友好国に、軍の派遣をお願いしてなんとかしのいできたが、数年に渡る魔物の襲撃に友好国の協力も難しくなってきたという。
なんで? だってキュプラを守って当然でしょ? 私達キュプラ王族が頼んでいるのに、その態度は何なのかしら?
ただ、事態は深刻らしくここに来てスタンピードっていう魔物が一斉に活動起こすような気配が見えるんですって。やだ! 大変じゃない!
以前なら食料支援をちらつかせるだけで、バルバドスから討伐援助を受けられたらしいんだけど、向こうの第二王子とかいう王太子を馬鹿にして以来、援助を断られたり大幅に協力資金を上げられたりしたらしいのよね。
ああ、確かに数年前に見かけた気がするわ。あの魔物のような王族か……私も一度遠目に見たけど、本当に真っ黒な髪に赤い血のような瞳をしていて怖かったから、直視もせず逃げたわ。
あいつか。ああ、嫌だ気持ち悪い。
けれども魔物は待ってくれないから、ここは財力を惜しんでいる場合ではないとお父様から、資金の援助要請が我が家にもあったんだって。
そして、バルバドスに正式に討伐依頼を出しなんとかスタンピードを凌いだって聞いた。
そこまではいいんだけど、最初の討伐依頼よりも規模も大きく期間も費やしたためかなりの出費になるらしくて、お祖父様も他の有力貴族も戦々恐々としていたんだけど……額が多すぎるため、今まで一度も得られなかったキュプラ王族を妃として得たいと向こう側から希望があったそうだ。
そうすれば資金の支払いは無し、後は食料支援だけで構わないという。
本当に笑っちゃうわ!
あんな国民も飢えていて、資源にも乏しく貧しい国に行くなんてとてもじゃないけど、私達キュプラ王族が嫁ぐ訳ないじゃない!
けれども、かなり高額な要求だったはずの討伐費が一人の王族で賄えるならと父である王が喜んだのは言うまでもない。
バルバドスとは婚姻を結んだ事がないからか、細かい指定もしてきていない上にそこまで高額な結納金は滅多に無い。知らないのだろう、とお母様が笑っていた。
でも、結婚適齢期なのは四人だけだ。第一王女はキュプラに有用なギフトで国外に出す事はないと、国内の婚約者がいる。それに、第二王女は白夜の国に嫁ぐ事が正式に決まっている。
そのため、第三王女か第四王女に話がくるに決まっている。
絶対嫌よ! あんな魔物の様な王子も嫌だし、貧乏な寒い国も嫌!
だから、第三王女がいいと家族会議で推薦すれば、最上位のギフトだというところが引っかかっていた父王もあっけなく賛成し、アイツがバルバドスに嫁ぐ事になった。
もう笑いが止まらないわ。
最後まで嘲笑ってやろうと、婚姻の迎えにやってきたバルバドス王子を見に行ったが……あんまりにも怖すぎて途中から意識がない。アイツが泣いて嫌がる姿が見られなかったのが悔しいが、あんなのと結婚しなきゃいけないアイツを思えば笑いが込み上げてくる。
あ〜庶民の癖にこのキュプラの為になったんだから、感謝してもいいかもね。あはは。
あの王子の嫁だなんて……フフ、かわいそう。思い出しては楽しめそうよ。
しかし、それから聞こえてくるバルバドスの話題は、私を苛つかせるものばかりだった。
あの魔物みたいな王子はバルバドス神の加護を最大に受けている神の愛し子だとか。
バルバドス神からの寵愛だか国民の信仰だかが高まり、バルバドス自体の加護が強くなって食料問題や気候、更に魔獣被害まで減ったとか。
あの、花を咲かせる事しか出来ない無能の姉が国民やバルバドス王家から大切にされてるとか……
「ああ! イライラする!」
目の前にある薔薇の花すら目障りで、衝動的にガチャンと花瓶ごと手で払い落としてやった。
ああ、それでもまだイライラするわ!
あれから数年経ったが、私は婚姻どころか婚約すら決まらない。
なんなの! 私の美しさに戸惑うのは分かるけど、全然話すらもまとまらない。
帝国は先の討伐協力後から、自国の討伐にも影響があるという事で交流自体が少なくなってしまった。
かといって、他の小さな国に嫁ぐなんてまっぴらごめんだわ!
何人か他国の王族と会ってみたけれど、私を迎え入れるには物足りないんじゃなくって?
そうね、どうしてもというなら……ああ、そう。わきまえてるのは良いことだわね。
確かに私は、あなたにはもったいないわ。
私は今も、自国の後宮で全身に宝石を身に着けて過ごしている。
これは、私の中位のギフトが私の身につけている宝石にも影響があるからだ。例えばダイヤモンドでも、身に着けてさえいれば純度も混ざりものも色もグレードがあがるのだ。
なので、ここにいる間は全身に様々な宝石をつけられる。美しいけれど……重くて身動きがとれない程に宝石を着けるのはどうかと思うわ。
「お母様! もう! こんなに着けたら重くて歩けないわ!」
「お前が我儘を言って縁談をことごとく断るのが悪いんじゃない!」
「はぁ? 私は悪くないわ! 私に見合う相手を連れて来ないのが悪いんじゃない!」
「お前は見た目の美しさだけに拘って、勉強もせずにいるから、正妃になんて……ああ、もう! いまさらだわ!」
「美しいからいいって、お母様も言っていたでしょ! なんなの!」
「もう、いいわ! 少しは家の役に立つ様に宝石の価値でもあげておきなさい! わかったわね!」
お母様は私を、部屋に残したまま出て行った。
ああ、嫌になっちゃう!
本当になんだって言うのよ! 私の美しさにつり合う相手なんだから、帝国のあの王弟殿下とか宝石国の正妃でも許してあげようかと思ってたのに!
なんなの! 国内で相手を見つけてしまったとか、政略結婚の必要がありまして、とかなんとか!
はぁ? 私がわざわざこのレベルで許してやろうと思ったのに、なんで断られなきゃいけないのよ!
ああ、腹立たしい! イライラが止まらないわ。
そんな中、アイツの結婚式に形式的に呼ばれたらしい。お父様はもちろん行かないけれど、最近発展しいてるらしいバルバドスの視察も兼ねて、第一王子と第一王女が行くと聞いた。
ふん。アイツの事なんてどうでもいいわ。
でも帰国して帰って来た二人は、バルバドス国の話とは思えない話ばかりを繰り返す。
やれ、食料問題も解決しつつあり豊かな国になって来ているとか……
気候も安定して来て、国民も活気があるとか……
あちらこちらに第三王女の咲かせた見知らぬ花が咲いているとか……
更には追い打ちをかけるように、お兄様から衝撃的な話しをされた。
「どうやら元第三王女の周りは美のギフトの様に、自動ギフトが働いていたらしく……本人もわかっていなかった様ですが……『ぶんめいかいかの花が咲く』とかなんとか……ん?音がするか? まぁとにかく、物事が発展していきやすいらしいのです。そう言っていました」
「クソ。それで最上位だったのか……確かに、自動ギフトは本人が自覚出来ないから、発見が遅れたな……」
「それよりも単純に、バルバドス神の加護がとても強くなったらしいのです。キュプラ女神程では無いにしても、かなり国内の加護を感じました」
「それも第三王女に関係あるのか?」
「いえ、これは原因不明ですが……時期を見る限り、関係ないとは言えません……」
「…………クソッそんな有用なギフトを持っていたのか……こんな事なら、役立たずの第四王女を送れば良かった。やはり最上位は最上位なのだな。今後最上位は出国禁止にせねば」
なんですって!! お父様まで私の事を役立たずですって? 体が悔しさでワナワナと震える。
「お言葉ですが……」
「ええい! 口を挟むな、この役立たずめ! お前は見た目だけで中身が無いから正妃にもなれず、愛嬌もないから妾としてでもどの国からも求められ無い! とんだ役立たずだ!」
「……そっ……そんなっ!」
「そもそもお前が第三王女を勧めたのであったなっ! まったく忌々しい。ええい、第四王女はしばらく謹慎させよ!」
それから本当に謹慎させられ、自分の後宮から出ることは禁止された。
今日も明日も明後日も……
私は宝石を、ずっしりと動けない程に体に巻きつけられて……
部屋で一人過ごしている。
暑さも寒さもあまり感じないこの部屋では、かろうじて朝昼晩はよくわかる。
動かなくても美のギフトのおかげで太ることもない。食べる事しか楽しみを見いだせず、たくさん食べてもそれでも美しいまま……
年をとっても、年齢を重ねたまま美しい姿で……
それでも、こんなに美しい私なのに……
ただ部屋で身動きもとれず、宝石の価値をあげるだけの日々。
「私は、家柄もよくて……美しい……私は、アイツより…………」
彼女のつぶやきは、夜の帳が落ちた部屋の中で……
大量の宝石だけが聞いていた…………
マデリン四十◯歳……なんだか最近イライラする!
って言いながら、まだ部屋にいるかもしれません。いや、国内の適当な家に嫁に……いけるかなぁ……無理かなぁ。
今回、一次通過した喜びでついつい幾つか書きたくなっちゃいまして(*´ω`*)
また一度締めておきますが、まだ書いて無いフローラの能力とかも合わせて、いつかちゃんと続き書きたいと思っています。




