婚約式
朝の柔らかい光が注ぐ大聖堂には、バルバドス王家の親族のみが座っている。そしてその周りを囲うように、武装した大勢の神官達が立っていた。
私達も親族や神官達と一列になって神殿の中に入っていき、私とアレックス様だけが真ん中にある祭殿にまで進んでから座った。
神殿内は水を打ったように静かで、物音一つしない。
ここで静かに、まずはバルバドス神に祈りを捧げるとの事だった。
祈りの時間や文言は決まっておらず、その時がきたらわかるとだけ言われている。
私はキュプラの女神から加護を得ているので、この場でバルバドス神に祈りをしてもしなくても、どちらでも良いと大神官に言われていた。
でも、これからこの国で暮らすのだから挨拶と祈りを捧げるべきだろうと思い、はじめましての挨拶と祈りを捧げる。
こんなにたくさんの人がいるのに、呼吸音すら聞こえない。
キーンと耳鳴りがする程の静寂に包まれるなか、この場にいる全員が真剣に祈りを捧げていた。
神殿の奥に祀られているバルバドスの神様は、男神だった。
この世界の神々は、自分の愛する国と民を護る。
各地の神様のやり方はそれぞれで、どの神様も国を大切に思っているのは間違いないようなのだ。
前世とは違い、本当に神様を身近に感じる世界だと思う。
けれどキュプラのように「自身の血を受け継ぐ王族だから」とかなり手厚い加護をくれる女神様だったり、または加護という護りはあるらしいがほとんど恩恵がわからなかったりする国もある。
前世の世界は後者だったのだろう。もちろん、転生している時点で前の世界にも神様がいたんだなと思えるようになった。
でも、バルバドスの男神像を見てわかった。
だって、顔や雰囲気がアレックス様やお祖父様に似ているもの。
この国の王はバルバドス神に愛されているのね。
そうか、と一人納得して……そして嬉しくなる。
すると突然、トントンと音がなる。
その場にいた全員がサッと顔を上げ、一糸乱れぬ様で立ち上がり、聞こえてきた音に反応して足を打ち鳴らした。
周囲の武装した神官達も足を打ち鳴らし、手にした聖槍で床を打つ。
ドンドン、ドン──ドンドン、ドン。
誰も彼も、同じリズムで次第に音がどんどんと大きくなっていく。
すごい。
地を打つこの音が、私の身体に……心臓にドンドンと直接響く様に感じる。
ものすごい高揚感が全身を支配する頃、唐突に聖堂の中が──世界が大きくドンと跳ねる様に感じた。
一瞬の静寂の後、目が開けていられない程の光が辺りを包んだ。
──何が起こったの? 呆然としていると、次の瞬間にはお祖父様が立ち上がり、大きな声をあげた。
「いま、バルバドスの神がこの新たな夫婦にいまだかつてない大いなる祝福を与えた!」
この場にいる全ての人達がウォーと大きな声をあげ、それに呼応して大聖堂の外からも大きな歓声が聞こえる。
聞いていたよりも、神秘的で力強い婚約式にただただ感動した。
そして横を見てみると横に座るアレックス様も、頬を赤く染め唇を強く噛み締めながらも感動している様子だった。
こうして、無事に婚約式が終わった。
…………と思っていたのは私だけで、いまだかつてこれ程に祝福の光が大聖堂に溢れた事もなかった為に、神官も王族も内心ものすごく動揺していたらしい。
さらには、バルバドス神の祝福の声が直接聞こえた者が国中に多くいた事も、今まで無かった為に国中が一斉に沸いていたと後から知った。




