二つ目の町 トルバ
ブロンディールの麦畑が全て麦でいっぱいになったのを確認してから、次の町に移動することになった。
また収穫に戻ってくるのに、街のみんなからは盛大に見送られての出発となった。なんだか恥ずかしいような、くすぐったい。
二つ目の町、トルバは南にある小さな集落でバルバドス国内では比較的暖かい地域だった。
ただ、国境沿いに他国の移動民族が出没することから、元々ここには魔術師を始めとする軍が配備されている。そのためこの地が今回の農耕地に選ばれたという事だった。
この一ヶ月の内に先発隊が土地を耕し、秘密保持の為の結界を完成させてくれてあった。先発隊の半分程はブロンディールにもいた人達で、顔見知りなので安心だ。
ただ、耕作地自体はブロンディール程の広さはとれなかった。元々ここの農作物があったり、結界を作れる場所にも限界があるせいだ。
でも、できる限りの事はしてくれてある。私からは皆の協力に感謝しかなかった。
こちらにきて数日が経つ。一から作りあげないといけなかったブロンディールと違い、こちらは畑も働き手も準備万端だ。
ただ、トルバの元々からある農業の邪魔になってはいけないと、働き手も王城から派遣された専門家チームが入ってくれている為、トルバの町の人達と関わる事はほとんどない。
彼らは農業の専門家らしく、とても素晴らしい働きだった。私がわからないところも補ってくれて、全てが順調にみえた。
「こんなに素晴らしいとうもろこし畑が一瞬で、本当にキュプラ王族のギフトとはすごいものですな」
専門家チームの学者の先生が畑を見て、感嘆の声をあげる。
「この地は日中の寒暖差があるので、とうもろこしに甘みが入りやすく、今後も良い生産地となるでしょう。いやいや、それにしても、すごいですなぁ。少し私も畑の中を見学してきても?」
「はい! 今後のためにも、よろしくお願いします」
そう言うと先生は、嬉しそうに畑に向かった。
少し遠くでアレックス様とトラビス様も、とうもろこしの受粉作業を手伝っているのが見えた。
とうもろこしは、麦とは違い自家受粉ではなく、一番上に咲いた雄花の花粉を集めて実の上にあるひげに受粉させないといけない。
なので、ブロンディールよりも育成作業に手がかかるのだ。
数が少なく結界も張ってくれている魔術師さん達に頼む訳にもいかず、農業の専門家さん達とアレックス様達が受粉作業を担ってくれていた。
今日の分はもうとうもろこしを咲かせてしまったので、私も受粉を手伝おうとした。すると、皆から明日のために休んで欲しいと言われてしまったので、少し登った丘の上でのんびりと皆の作業を眺めていた。
そこをふわっと暖かい風が吹いて、とうもろこしを揺らす。
皆が風に揺らされたとうもろこしと、笑顔で格闘している。そんな姿が微笑ましい。トルバは暖かく、過ごしやすい。
いいところだなぁ。
こんなに穏やかな時間が流れていて、安心していたせいか少し眠くなってきた。ギフトを使うとどうしても眠くなる。特別に今日そんなに力使い過ぎた感じはしなかったが、ここ二ヶ月は毎日使っていたから疲れが溜まってきているのかもしれない。
ここでのんびりさせて貰えて良かった。
そよそよと吹く気持ちのよい風を頬に受けながら、みんなの作業を眺めているとトルバの町民であろう、少しふくよかな女性に声をかけられた。
「姫様、申し訳ありません。向こうに姫様の咲かせたものなのか、不思議な花が咲いているのですが……見て頂いてもいいですか?」
「不思議な花? 何かしら……とりあえず、後で殿下達と確認しておきますね。教えてくれてありがとう」
「あの……気になるので、少しだけ見て貰ってもいいですか?」
「う〜ん。ごめんなさいね。私、一人では行動出来ないの」
「あ! いえ、すみませんでした……では、失礼します」
不思議な花は気になるけれど、さすが近いとはいえ私一人では行けない。みんなに迷惑をかけてしまうからね。
女性に手を振って、また前を向こうとした時「ああ」と声がした。振り返ると、先程の女性が倒れこんでいる。
蹲って動けないのか、なかなか立ち上がらないので、心配になり近くに駆け寄った。
「大丈夫ですか? どこかぶつけたり……」
「足が…………」
そう言って、私の腕をグッと掴んで顔をあげた女性はニヤリと笑った。
「あはは、つかまえたぁ~」




