会議
アレックス様に渡した計画書は、文官さんによって人数分が複製されていた。呼ばれた人は選定されていて、優秀で秘密を守れる信頼出来る人だけが選ばれていると言っていた。
その人達にも昨日の内に計画書は渡されているとの話だった。
会議室に入るなり、みんな一様に私を見る目が……なんかこわい。
半分以上がトラビス様の様に行き過ぎてる視線で、残りが疑う様な視線だ。
後半の視線は覚悟していたのだけれど、前半の視線が多いのは予想外だ。
いや、あそこにキラキラした顔のトラビス様がいるからな……何かみんなに言っているんだろうなぁ……ふふふ、困った人。
「みんな揃ったな。では会議を始めよう。まずは……姫から説明して貰ってもよいか?」
「はい」
もちろんそのつもりでいたので、準備は万端だ。アレックス様と目を合わせて一つ頷いてくれたので、説明を始める。
アレックス様とトラビス様がデモンストレーション用の鉢を持ってきてくれる。テーブルの上にシートを敷いて、その鉢をのせてくれた。
鉢が乗ったのを確認してから、話し始める。
「それでは資料一枚目の麦から説明させて頂きます。こちらにあるのは、王城の城壕付近のバルバドスで一般的な土です。そこに、また一般的なバルバドスの麦を蒔きます。こうした方がたくさんの麦を発芽させられる為です。ここから、ギフトの力で花まで咲かせます」
そう言ってから鉢植えに触れ、土の中の種麦を感じてから花まで咲かせる。
ニョキニョキと伸びた先に、麦の花が咲く。この穂先のこまかく白いヤツが花だ。
「この先端が麦の花です。この状態から勝手に自家受粉して、およそ四十から四十五日程度で収獲出来る様になります」
ここまでの説明で、先程まで疑わしい目線を向けていた人達も目を見開いてこちらを見ている。
「更にこの麦は、寒冷に強い麦に代えてありますので、この麦を収穫して種麦にする事で来年度以降は寒冷に強い麦を作る事が出来ます。今年一年で行う訳ではなく数年後や数十年後を見据えて、だんだんギフトを頼らずに自作していけるように目指します」
もうこの辺りで、誰も音を発せないのでこのまま突き進もう。
「そして麦が育つまでの時間に、とうもろこしを咲かせます。こちらも国内でのお披露目の時に配りたいと思います。とうもろこしは、開花してから二十日から二十五日程で収獲出来るので、この三か月にどちらも実行できると思います」
とうもろこしの種が入った鉢にギフトを使いとうもろこしの花を咲かせる。
「とうもろこしはこちらの上にある花が雄花ですので、実側にある穂先のひげに受粉させる必要があります。なので、こちらの方は風の魔法使いの皆さんの協力がいります」
すると、待ってましたとばかりにトラビス様が手をあげて前に進みでる。
「では私がお手本をみせますね。天使……いえ、フローラ様。林檎の時と同じ様にすればよろしいですか?」
もうトラビス様のこの盲信的な感じにも慣れてしまいそうになる。とにかくその通りなのでお願いする。
風魔法で上の雄花を揺らし、花粉だけを集めてしたのヒゲ部分に受粉させる。
「こうする事でより多くのとうもろこしが採れます。とうもろこしは、そのまま食べてもいいし、乾燥させて蓄えにも出来て、油もとれて、粉にも出来て……かなり使い勝手がいいと思うので、こちらも今後増やしていきたいと思っています」
私は、とうもろこしにはかなり期待している。毎日の小麦は必須だけど、小麦に代わる主食はとうもろこしがいいと思っている。働き手として参加してくれる人達も、じゃがいもは土の中だから見えないのは不安要素の一つかなと思ったのだ。私の力をわかって貰ってから、じゃがいもにも着手したい。
「今回の事はお試しで施行するにしても……今後、種から育てて貰う場合の事や育てやすい地方の選定……例えば麦なら、麦畑になりそうな土地。とうもろこしなら、糖度をだすための寒暖差のある土地などです。それから働き手の確保等を一緒に考えて頂けたらと思っています」
説明が終わっても、誰も声を発しない。
ただトラビス様とアレックス様だけが、ものすごいドヤ顔で頷いていて、オリビア様は満面の笑みで椅子にふんぞり返って座っている。なぜ。
そう思って見ていると、満面の笑みのオリビア様は立ち上がって私のところまでくると頬ずりを始めた。だから、なぜ。
「ああ〜フローラってば本当に天使! 今後のことまで考えられた計画なんて素晴らしいわ! 寒さに強い麦が取れるようになれば、今後の食糧危機が減らせるわ! もちろん私達も努力していくつもりだけれど、なんてすごいの!」
一番奥に座った若い人達が、おもむろに立ちあがって声をあげる。
「そうです!! これで飢餓に苦しむ国民が減らせます!」
「なんて、すごいギフトなんだ!」
「花粉の管理は我が魔法師団にお任せください」
「土地の候補は、我々農地管理部がいくつか候補をあげてありますので、その中からお選びください。その後の管理についても我が部門に!」
「いえ、管理はこちらが……」
皆さんがやる気を出して白熱した会議となる中、オリビア様だけは私を抱え込んだまま撫で続けるという通常運転(いつも通り)だ。
会議の方も決めなくてはいけない事項は、あらかた決まりつつある。
なので一度、休憩を兼ねて昼食をとる事になった。
「フローラ、疲れたろう? 大丈夫か?」
「はい。全然大丈夫です。むしろ、なんとか計画通りにいけそうで嬉しいです!」
午後からは担当部署が決まったので、地域担当者から、もう既に土地候補がいくつかあげられていた。
「こちらは、ここ数年おきにヘルハウンドが出没するために該当地域も町も結界師が在中し管理している地域です」
「ああ、確かアレックスが最初の大規模討伐をしてから、なぜか数年おきにヘルハウンドが群れて北上してくるという地域か……」
王様は、顎髭を撫でながら顔を顰める。
「はい。まさにその地域です。どうしてか数年おきにヘルハウンドが増えるせいで、毎年討伐を行う様にしましたところ、大規模発生は抑えられています……ただ、ヘルハウンドが畑や町を燃やして暴れるので、昨年から結界師を常駐させる様にしました。ですので、この地域はもとより結界で囲っておりますので秘密保持にとても良いと思われます」
「そうだな。姫の秘密が漏洩するのを防ぐのにも丁度いいかもしれないな」
王様は満足そうに頷きながら話を聞いている。
「さらに、畑が燃やされ尽くし民も仕事がなく困っていたので、働き手も有り余る程におります。ですから、その点も問題ないかと……麦栽培の候補地にいかがでしょうか」
「良いだろう、許可する。後はとうもろこし栽培地だな……やはりどこか結界で囲ってある場所か、軍が配備されている所がよかろう」
「それでは、こちらなど……」
などと、どんどん決まっていく。この場に集められた人達は本当に皆さん優秀な方達ばかりだと感じた。
昨日一日で資料を読み込み、ある程度候補を絞り込んでくるのだから。
私はなんとかなりそうな予感に胸を高鳴らせるのだった。




