ただいるだけで
あれからアレックス様は、看病が気に入ったらしく甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。嬉しいけど! 追加でもう一日休めば、かなり元気になっていた。
もうお世話は不要と言われたアレックス様は、なんだかしょんぼりしていたけど、これ以上は私が恥ずかしいからやめてほしい。
「それで……これは?」
「あ、計画書です!」
やることが減ったせいで、机の上に積んであった私の書類を整理しようとしてくれていたアレックス様。もちろん見られて困るものも無いので、むしろこの機会にと計画書を見て貰おうと思ったのだが……今に至る。
計画書を持って、アレックス様が笑顔で私に詰め寄る。
せっかくなので、内容を説明しようかと意気揚々と返事をしたのだが……アレックス様の笑顔が怖い。なんか怒ってるっぽい。
理由がわからず困っていると、はぁ〜とため息を一つついてからベッドに腰掛けてきた。
「なぜ……って顔してる」
全くその通りなので頷く。
「フローラは他国から、この国に来たばかりなんだよ。住む場所や環境、例えば部屋とかだけじゃなくて、この寒さや食事なんかも、更には習慣も全く違う場所に来たんだ。自分が感じているよりも、ずっとずっと疲れていてもおかしくないんだ」
言われてみると、そうかも。馴れない新しい環境に、気候の違いに気づかいも……いくらみんなが優しくしてくれても、ソレはある。確かに、疲れが溜まっていたのかも。
今までは頑張らなきゃと、アドレナリンが出ていたんだと思う。少し落ち着いてきたからこそ、無理が利かなくなって風邪ひいたのね。
「身体が先に悲鳴をあげたんだ。フローラ、この国や俺達を思っての行動だとわかっているが、フローラは自分自身の事を大切にして欲しい」
「私……自身」
「そう。俺には……フローラはがんばり過ぎているように感じるんだよ」
「…………そう……ですか?」
「これはわかっていなさそうだな」
そう言うアレックス様は、ため息を吐きながら苦笑いをして私の頭をポンポンと撫でた。
「フローラがいてくれるだけで、俺は嬉しいんだと……それだけ覚えておいて」
アタマ、ポンポンだと……? イケメン(かつ婚約者かつ好きな人)から頭ポンポン? ナデナデ? される日が来ようとは……すごい破壊力。
頭ポンポンの衝撃が強すぎて、あんまり他の事が思い出せない。他に思い出せるのは、困った様に笑うアレックス様の笑顔とか? いや、そういうのじゃないわ。
んーなんか混乱してきた。
「私……がんばりすぎ……てる?」
その日も一日部屋で休んでいたのだが、アレックス様の言葉とナデナデを交互に反芻しては悶え、悩んだ。
「お嬢様。昼間のお話ですか?」
「あ、ポーラ。うん……やっぱりわからなくて……」
「だから言ったではありませんか。お嬢様、イェールで私が言った事を覚えておいでですか?」
ポーラはにっこり笑って言う。イェールで? 確か…………。
「私が、いるだけでいい……?」
「そうですよ。お嬢様が元気に過ごしているだけで私は嬉しいんです。アレクサンダー殿下も、きっと」
「でも……」
言いかけて、ポーラが私の両手を握る。
「いいえ。いいんです。無理に今、受け入れなくてもいいんです。殿下もおられますし……いつかわかりますよ」
ポーラの優しい微笑みに安心して「うん」と一つ頷いてからゆっくりと瞼を閉じた。
微睡みの中で、優しいポーラが「こんな風に考えるのもクソ王のせいだわね」と言っていた様な気がするのは、夢かな?
結局、一週間近くと寝込んでしまった。けれど元気いっぱいになったら、気持ちはかなり上向いて今はやる事を……ううん。やれる事をめいっぱいやろう!
この前アレックス様にも目を通して貰った、計画書と資料を仕上げて渡してある。今はその返答待ちなのだ。
なんだか緊張する。
でもそんな緊張はあっという間に驚きとともに、別の緊張に変わった。
計画書を見てくれた王様によって、すぐさま明日に会議を開くとなったのだった。
…………今日、眠れるかな。(色んな意味で)
フローラ「そういえば、前世で隣の家のお兄ちゃんに頭ポンポンされた時はキモッって思ったのに、イケメンの婚約者にされると嬉しいんだなぁ……イケメンって正義」
いや、そこは好意だよ?フローラ




