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私の力





「アレックスとフローラの国内へのお披露目は、三か月後。そして他国も招いての結婚式はフローラが成人を迎える一年後の春とする予定だ」


 今後の予定の確認は、概ね手紙で聞いていた通りだった。なんだか本当に婚約と結婚するんだと実感して嬉しくなる。



「あ、それなんですけど……」


 話そうとすると、バッとみんなが一斉に私の方を振り向いた。え? 何?



「…………フローラ」


 振り向くアレックス様は絶望感ある死にそうな顔をしている。ちょっと!? アレックス様は顔色が悪すぎない? え、本当になに? なにー?



「フローラ、やっぱり嫌に……」

 やっぱり、どこか顔色の悪いオリビア様が悲壮感たっぷりに側に寄ってくる。……嫌に?



「……? 嫌? いや、そういうのじゃなくて、三か月後の国内お披露目に合わせて、私の力を試せたらなと思うので、農業の専門家さん達を紹介して貰えたらなと……?」




「……そ、そうか……」




 ?? みんな一様にホッとしている。何か前例でもあるのか、心変わりが心配なようだ。こんなイケメンで優しいアレックス様を私が嫌いになる訳ないのに。



「あ、でも私のギフトの事はどこまで……」

「ああ、それなら先んじて連絡は入れてあるから、いまこの場にいる家族はみんな理解している」


 そんな所まで、アレックス様はさすがだ。


「たったの三、四日で実がなる植物の話を聞いて我らも俄に信じ難い。いや、信じておらん訳ではないのだが……どうもな」



 確かにそこだけ切り抜いて聞くと、そんな夢のような話されたら、私なら詐欺を疑うかも。


「いえ、私も話だけ聞くと不安に思うので少しこちらで……ちょうど温室ですし試してもいいですか?」


「それは姫が良ければ、こちらは構わんが……決して疑っておる訳では無いから、そんな事をせずとも……」

「いえ、わかりやすいと思うので、説明がてらお願いします」


 そう言ってアレックス様を見ると頷いてくれる。



「まずは、ここにある植物の花を咲かせます」


 温室中の植物を見てからそっとギフトを使う。するといっせいにすべての花が咲き乱れる。


「その場にある植物であれば使用する力も少なく、いくらでも咲かせられます。そして咲かせた植物は、花が落ちれば元の周期に戻ります。例えばこの秋薔薇は、秋になれば今の事は全くなかった様に咲きます。今咲いているのは自然や、肥料や天候に全く関係なく女神の力で咲いているようです」


 そして、今度は手のひらの上にスイトピーの花を咲かせる。アレックス様とオリビア様以外は「おお~」と歓声をあげている。



「こうやって、何もないところから、花だけ咲かせる事も出来ますが、先程よりは力を使います。でもそんなに大した量ではありません」



「次に……この木を頂いても?」

「ああ……よい」



 許可を得てから小さな緑葉樹の若木にそっと触れ、林檎の花を咲かす。



「こうやって、違う木に違う花を咲かせる事が出来ます。これはかなり力を消費します。そしておそらくですが、数年同じ様にギフトを贈り続けると、咲かせた花の木に変化するようです。まだ試した事がないので感覚的におそらくとしか言えませんが……」


「それは……」



 ゴクリと誰かが大きく喉を鳴らした。


「後は……アレックス様あそこの一画を耕してくださいますか? ほんの少しでいいので」


 もちろんだと言うアレックス様に手を取られ、一緒に温室の端に行く。後ろから皆さんがついてきて見守っていてくれる。


 ちょうど、プランター四つくらいのサイズで耕してくれたので、そこに手を置き力を込める。


 二度目の為か、小さい為か……さして力も使わずにオクラの花を咲かせることが出来た。みんなは先程よりも驚いた様子だった。



「こうして、花が咲いた状態まで持って行くことも出来ます。ただこれはかなり力が要りますので、力を使い果たすと倒れて眠ります。ただ眠るだけです」


「それは、身体に負担はないのだな?」

「はい。以前試しに何度かギフトを使った時に倒れましたが、ただただ眠るだけで、負担も弊害も何も無いようです」

「それならば良いのだが……」


「他のギフト持ちで、力を使用するタイプのギフト持ちの人も同様でしたので間違いないかと……魔力とは違って、とりあえずわかりやすく神力と呼びますが、神力は使い過ぎても魔力切れの様な命の危険はありません。ただ、電池切れの様に……いえ、油切れの様にオイルランプが消える感じで眠ります。オイルランプに問題は無いので、オイルを足せばまた火がつく感じです」

「そうか。わかりやすいな」

 王様はフムフムと顎髭を触りながら頷く。危なく電池とか言ってしまったけど、この世界に電池はない。オイルランプで誤魔化せてよかった。



 ホッとしていると、横でアレックス様が私を見ながら心配そうに言う。


「突然倒れる様に寝てしまうのは心配だから、当分の間は俺がいる時にだけギフトを使ってほしい」

「はい。そうします」


 確かにまだ力の消費感覚が不明だから、当分はアレックス様と一緒にいさせて貰おう。



「それでは、信頼のおける専門家とその関係の者を選別しておこう。姫は……まずはゆっくり休んで、我々やこの城、そしてこの国に慣れてくれれば良い」



 そうして、少しギフトで咲かせた花について話したり、オクラについて話したりしてから部屋に戻った。





 知らない部屋で目覚めたと思った時には気がつかなかったが、私の為に用意されたこのお部屋はとても可愛いらしい。

 淡い淡いピンクの壁紙に、白く塗られた家具たち。クリーム色や淡いグリーンなどもとり入れられたこのお部屋は、このお城の中で異質だ。

 廊下や他の部屋も少し案内されただけでもわかる、全てにおいて質実剛健な建物内において、可愛いらしさと明るさをふんだんに取り揃えられたこのお部屋からもここのみんなに温かく迎えられているとわかる。


 寒いはずのこの国で、本当に温かく迎えられている。



 私はこの国に必ず役立たねばと、部屋に戻ってすぐに計画書を作成し始めたのだった。












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