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花咲姫のしあわせ〜国から棄てられる?こっちが棄ててやるんだから!〜  作者: 木村 巴


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11 バルバドスの使者・後 アレックス




 次に訪れたのは世界でも一番豊かな国である、キュプラ国だった。女神に愛されたこの国はまごうことなき女神の愛に包まれていて、俺の劣等感を刺激する。


 俺は……我が国は、と比べずにはいられない。



 話を聞いただけでは、そんな豊かな国があるのか? 少し誇張されているのではないか? などと疑ってすらいたが……実際はどうだ。


 こんな豊かな国があっていいのだろうか?


 北の領土を出て一歩この国に入った途端、空気が違うとわかる。緑豊かで温暖な気候、国内の道を通って来ただけでも、物資にあふれて活気が見てとれた。


 ああ、ここが女神に愛された国なのだと、肌で解ってしまう。



 ここまでくると、羨ましくは思うが俺の劣等感なんて、すぐにいつもの諦めが勝ちえてしまう。

 いいな、この国の国民は幸せになんだろう。俺も我が国の民の為に最善を尽くそう。俺の力の及ぶ限りに尽くし、支援を貰う事が大切だと、気持ちが引き締まる思いがした。



 ただ、そんな気持ちは王宮に入ってすぐに打ち消される事となった。


 贅を凝らした宮殿に広い敷地、たくさんの離宮にたくさんの後宮。

 そして、俺達を虫けらでも見るように見下す目。使用人やメイドに至るまでもがこちらを嘲り笑う。地位のある者からは、もっと酷いものであろう事は予想に難くない。



 女神に愛された国か……


 愛されたこの国に、愛が溢れていると誰が言ったのか、いや言ってはいない。

 勝手に期待して、失望しただけだ。


 国からの正式な使者だというのにこの扱いか、と自嘲する。確かに食料支援を求めてはいるが……こちらも討伐を対価にその分、文字通り命をかけて働くというのに、この対応。良い成果は期待できそうにない。



 宰相である伯父も似たような事を思ったらしく、今後の交渉についてある程度の方針を二人で決めた。


 今回の対応次第では、すぐさま国に引きあげる。もしも今後、我が国の力が必要になり討伐要請がくる様であれば、本来よりも高値でしか討伐依頼を受けない予定とした。


 もうここまで決めたら、この国にいるのが嫌になってくる。思わず、ため息が出てしまう。


 俺がこの国の来ることは──まぁ、それはどの国にでも言えることだが──無いかもしれないので、とりあえず許されている範囲で宮殿をみて回る事にした。





 温暖な気候に合わせて、神殿の様に柱だけで扉も窓もない荘厳な建物があったり、扉や柱まで美しい装飾で飾られた建物があったり、様々な建物があり目に楽しい。

 バルバドスの様に、寒さ対策や魔獣の被害に備えて堅牢に作られた建物は一つもなく、その一つ一つの違いに驚かされる。


 これで、明らかにこちらを訝しんだり、蔑んだりする視線や話し声が聞こえなければ、なおいいと言うのに。



 そして、王宮の敷地内に到着してすぐの門あたりにたどり着いた。


 私はこの呪いのせいか、身体能力が極めて高い。そのため視力や聴力が常人よりも優れているので、メイド達のひそひそ話や蔑みの視線に敏感だし理解出来てしまう。

 それだけではなく、気配や殺気という意識的なものまでうっすら感知出来てしまう。



 この王宮の敷地内に到着してすぐの植栽から、人の気配がした。

 殺気はなかったので無害と判断し、放っておいたがどうしても気になっていたのだ。


 もちろん、ただの見物人の可能性もあるが、息づかいも荒く苦しそうなのに、必死に気配を消している。

 負の感情を持っていない人物が、なぜ植栽の中にいて、何をしているんだ? と気になってしょうがない。


 そして件の植栽の中に、まだその存在があるではないか。しかも苦しそうだ。

 俺は慌てて周囲に人がいない事を確認し、植栽の中に声をかけた。



「おい、どうした。大丈夫か?」


 返事がないので、回り込んで植栽の中を覗き込む。すると驚いた事に、見たこともない様な美しい少女が横向きに蹲っていた。

 柔らかく波打つ髪は金色に輝き、痩せすぎてはいるが肌は驚く程に白い。熱があるのか、頬や唇までが真っ赤になってしまっている。この娘の瞳は、どんな……と考えて頭を振る。そんな事を考えている場合ではない。明らかに体調が悪そうだ。


「大丈夫か? 嫌かもしれないがとりあえず触れるぞ」


 俺なんかに触れられ、助けられるのは嫌かもしれないが、悪意もないこの子の苦しむ様子を見ていられない。

 そっと、簡単な治療魔法をかけてやる。


 俺の基本魔法は攻撃特化だが、初歩の治療だけなら何とか使える。これもあり余る魔力と力のおかげだろう。こんな時はこの力に感謝した。


 しかし魔法をかけ終えてから、植栽に引っかかってフードが脱げかけているのに気がついた。慌てて被ろうとするが、引っ張ってもなかなか取れない。クソっ植栽を覗き込んだ時に、この子に気を取られてしまったせいだ。焦れば焦る程にフードは後ろに脱げ落ちてしまう。


 フードと格闘しているうちに治療魔法が多少効いたのか、まつ毛が震え少女が目を開けた。

 助けたのに、恐怖に怯えられるのは正直応えるが……命には代えられない。



「……あっ…………きれい……」


 薄紫色の淡い瞳は真っ直ぐに俺を見つめ、安心した様に微笑むと、きれいと言って、再び目を閉じた。





 それは俺の人生で最大の衝撃だった。



 目が合って、安心した様に微笑まれたのは、生まれて初めてだった。


 それに、俺を見てきれいと言ったか?

 この黒髪に紅い眼の、魔獣の様なこの姿を見たのに…………そんな事、あるか?


 熱で意識が朦朧としていたからなのか?


 でも、はっきりと目が合った。



 確かめたい。




 ……怖いが、確かめたいんだ。


 春の始まりに、伯父が言っていたように。

 もしかしたら、俺を受け入れてくれる人がいる可能性を……。


 俺はそのまま植栽の中に腕を伸ばし、両腕で小枝を払ってから、そっと少女を抱き上げる。驚く程に軽くて、熱い。

 しっかりと抱きかかえてから、マントを深く被り直し、来た道を人の気配に注意しながら急いで戻った。


 俺にあてがわれた客室に少女を寝かせ、部屋に防御結界を張ってから伯父と治療師を呼ぶ。



 侍従が戻るより先に伯父も、治療師も部屋に「何があった?」と駆け込んできた。


 まずは治療師に少女の診察をさせる。毒に侵されているせいで高熱が出ているらしい。

 なんという事だろう。そのまま治療魔法と解毒魔法を施してから、一度治療師は下がらせる。



「それで……なんだ、この少女はなぜこんな事になっているのだ?」


 それは俺も知りたいが、なんと答えていいのかわからない。

 そして、理由を答えるのが……ひどく怖かった。


「それに、この王宮で毒だと? 金の髪でここにいる少女という事はここの王族だろうに……」

「……そう、なのか?」

「ああ、アレックスは知らなかったか。キュプラ王族は金髪が多い。まあ、この国全体でも金髪が多いがな。ただ、子供が王宮にいるならば、王族だろうな」


 王族の血か……ではなぜ、あんな所に身を隠し、毒を盛られているのだ。俺は、少女を見つけた経緯を順を追って話した。



「────で、回復魔法で少し意識が戻った時に…………目が合って、それで……」



 伯父は、言葉にするのも緊張して、たどたどしくなる俺の話を黙って聞いてくれていた。


「……その時、この子、俺を見て安心したみたいに、笑ったんだよ」



 そこからは二人ともずっと沈黙だった。下手な言葉はどちらからも出せなかった。

 俺は、ただ静かにベッドの脇の椅子に座り少女を見つめていた。

 伯父は扉近くに立ったまま、俺と少女を見つめていた。



 それでも、一時間程だろうか……身体の時間感覚が働かなくて、どのくらいの時間かわからないが……少女が「ぅん」と小さく唸る。


 無意識にそっと頭を撫でていた。少女が目を開けて、ハッと慌てて手を引っ込めた。



「……ここは……?」



 一気に緊張が走る。呼吸すらままならない。




「??…………あっ!」


 ガバリと音がしそうな程の勢いで少女は起き上がり、俺を見る。ビシリッと俺の全身に力が入った。



「あの! お兄さんがさっき助けてくれた人ですよね! えっと、あの! ありがとうございます!!」




 俺も伯父も……二人ともなんの反応も返せずにいると、少女はおずおずと話し続けた。



「あの、完全に怪しいとは、思うんですけど、いや、怪しい者じゃないんです。ただ、バルバドス国の人達に会いたくて……あ、お兄さんバルバドスの人だったりします?」


 少女は、何も気にせずにそのまま話し続ける、こんな奇跡があるのか? それとも、目が見えてない? いや、目が合うな。それよりもうちの国か?


「ああ、そうだ」

「そうなんですね! あ〜良かった〜」



 笑ってる……良かっただと?


「その、君は、俺が怖くないのか?」

「?」


 ピンときてません。という様な素直な表情に、じわじわと喜びが滲んでくる。


「お兄さんが怖い? 傷があるから? おっきいから? 怖くないですよ?」




「……そうか」



 少女は首をかしげて不思議そうな顔をしている。この子は、俺をどれだけ喜ばせてくれているのか、全くわかっていない。





 この子だけが…………。







今日もありがとうございます(*´ω`*)

おかしいな〜何故かアレックスからヤンデレ臭がするな。おやぁ?と謎です。


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