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神鳥、放浪の果てにⅡ

「一言で言うと、わけがわからない」


 リーリーは背に乗せるアリアスにそう話した。


 アリアスがリーリーの行く先々で何の前触れもなく特異点と呼ばれた存在を呼び起こすからだ。


 彼らは確かにリーリーが仕留めたその世界を混沌とする象徴。しかし、それらは特異点としての特異能力を失っていた。


「【再生】の特異は生物そのものと事象そのものに関与できるけど、一度失われた特異能力は他者に渡る」


 そう言ったアリアスの言うことはリーリーでも理解できる。というか元々知っていたはずだ。


 特異能力の持ち主の暴走を止めることがリーリーの役割だった。


 散々、切り捨てて殺してきたはずだったものだ。


「アリアス、君の特異能力は何でも再生できるの?」


「何もないところからは再生できないけど」


 再生は、尽くリーリーが過去に倒した生物を呼び起こした。


 二例、三例と次々に再生していくアリアスを連れて自分が思い出せる限りの特異点だった者を再生させる。


 そうして過去を辿り、行き着いた先が赤髪の姉妹の住まう森だった。


 姉は元乗り手で清凛とした顔立ちを見せた、名前をリックという。


 妹はいつも何を考えているのか分からない顔をしていて、名前をエウリュアレという。


 過去から何十年経ったか、分からない。


 二人はリーリーの影響を受けて、年齢を重ねても老いる速度が極端に遅い。


 数十年ぶりの来訪に、二人は少し離れたところでリーリーとアリアスを見ていた。


「・・・・・・・」


 アリアスが少し沈黙して周囲を見渡していると、理解したようで「うん」と言葉を漏らした。


「特異点【破壊】の持ち主が、破壊したのね?マキナの指示で」


 そう言ったアリアスの言葉に、それを聞いたリーリーと二人が驚愕した顔をしている。


「数ある知恵者の中でも彼のことは危険と判断したみたい。名前はシック、過去の乗り手ね」


 再生を繰り返してきたアリアスが珍しく事象再生を行って過去を掘り起こしている。


 リーリーはアリアスが彼をすぐに呼び起こすものだと思っていた。


「彼を呼び起こしていいの?」


 アリアスが初めて再生を躊躇っている。


「出来れば起こしたい」


 リーリーの切実な願いとは違い、それを聞いていた姉のリックが遠くから叫ぶように言う。


「やめて!」


 双剣の一つを取り出してリックはアリアスとリーリーに近付いてくる。


 それとは対比するようにエウリュアレはその場から動かずに沈黙している。


「何の解決にもならないわよ」


 迫るリックに対してアリアスはリーリーに告げる。


 リーリーは目を閉じてその場から動かなかったが、ふと零れ落ちるように言葉を紡いだ。


「シックに会いたい」


 神鳥の見開いた目から大粒の涙が零れ落ちる。


 それを見たリックは立ち止まり、短剣を落とした。


「リーリー・・・・・」


 アリアスはリーリーと姉妹を見て、判断を決めかねている。


 幾度となく再生の特異で滅ぼされた生物を再生させてここまで辿ったがアリアスは“彼”に関して不明瞭な点を懸念する。


 特異【再生】でも“彼”を追いきれない、とそう思った矢先に再生の事象、その未来でアリアスは“彼”と目が合う。


「そんな・・・・・・」


 にこりと笑む蒼い髪の男がアリアスを一瞥して言う。


『俺を起こしてもいいが、その責任はどうする?』


 その未来の事象観測の先で蒼い髪の男がリックとエウリュアレを見る。


「あなたは・・・・一体・・・?」


『ルールはどの世界にも存在する。リーリーや君はそのルールを飛び越えることが出来るが、その力には大いなる責任が伴う』


 蒼い髪の男は泣きそうな顔をするリックを見て微笑んだ。


 振り返ったその瞬間に、蒼い髪の男がアリアスの未来の事象再生を断ち切り、更に特異【再生】たる能力をも掻き消した。


 リーリーの背にいたアリアスが弾き飛ばされ、落鳥し地面に転がる寸前でリーリーが服を咥えてアリアスの体勢を保ち、アリアスはその場に座り込んだ。


 それらの現象を見てリーリーもリックも、エウリュアレでさえも驚きを隠せない。


 アリアスはゆっくりと立ち上がってリーリー達に言う。


「再生を、断られました」


 目を丸くするリーリーと、二人の姉妹。


 一番困惑しているのは再生を失敗することなど一度もなかったアリアスだった。


 どういうことだ。


 リーリーの頭の中に尽きない疑問が生まれる。


 ハッと気付いた瞬間、リーリーがマキナの元へと空間を切り裂いて顔を覗かせると、そこには何も残っていなかった。


「どういうことだ、ボクがまだ知らない何かがあるのか・・・・?」


 何もない空間の中で虚空だけが、リーリーに現実を突き付けてくる。


 戻ったリーリーがアリアスとリック、エウリュアレに状況を説明すると益々分からなくなっていた。


「“彼”は何者なのでしょうか」


 アリアスのそう呟いた疑問に、その場にいた全員は答えることが出来なかった。


「それで?アリアスを連れ出してまでいきなり相談もなしにどういうこと?」


 落ち着いた矢先にリックは腕組みをしてリーリーに問う。


「私達はリーリーがいない間にちゃんと心の整理をしたのです」


 珍しくエウリュアレも感情を表に出してリーリーに言う。


 これはリーリーも弁明をしないといけないと、口を開くが言葉が出てこない。


「リーリーも心の何処かで“彼”に答えを求めてたのよ」


 アリアスがリックとエウリュアレにそう説明し、客として出された紅茶を楽しんで更に笑んで言う。


「私が発現した特異点としての能力は【再生】、【破壊】された“彼”を元通りに出来るのは私だけ。リックさんが“創造された彼”を呼び戻そうとしていたのに、再生を強く反対されるとはリーリーも考えてなかったみたい」


 それに、とアリアスは付け加えるように言う。


「あなた達は長生きだけれど、まだ“答え”は焦らない方がいいわ」


 アリアスが何を見ているのかはリーリー、リック、エウリュアレには理解しかねるがアリアスは常に何かを再生して情報を持っていることは確かだ。


「何か分かったの?」


 そうリーリーが問うと、アリアスは首を横に振って言う。


「私が【再生】の特異を持っていても解らないこと・・・・・」


 それを聞いたリーリーは首を傾げるが、リックは思い出したように言う。


「“特異点の能力は他の特異点に干渉できない”・・・・・」


 リーリーが教えたことだが、リックの方が覚えが良かったのだろう。


「でも、どうしてアリアスの【再生】が弾かれたのです?」


 エウリュアレが疑問を提示する。アリアスもリックもそれに対する答えを持ち合わせてはいない。


「特異点同士の能力は互いに打ち消し合うけど、今回の場合はそれとは異なる。明らかなる拒絶だ。だとすれば・・・・・・」


 リーリーがそう言ってその先の言葉を濁す。


「あり得ない。特異能力の上位互換ならあるいは、いや・・・・・・」


 自身で口にしていてリーリーも憶測では語れない、予想の域を越えないからだ。


「あり得るです」「あり得るわね」


 エウリュアレとリックが同時に頷く。


 アリアスは自身が分からないことを安易に口にすることはない、彼女でも分からないことはある。今回がその事例だ。


「今、目の前で起きたことにはびっくりしちゃったけど、答えを焦る必要はないわ」


 リックがそう言って腕組みをする。


 その様子を見てエウリュアレはリーリーとアリアスに言う。


「“理由”があるのなら【再生】させる必要はないです」


 リーリーの様子を伺うリックとエウリュアレ。


 よもやリーリーが蒼い髪の男を永い眠りから起こそうとするとは、姉妹は考えていなかったみたいだ。


 リーリーは鳥で、言語を話す魔獣に近い存在。


 何を考えているのか言葉に出さないこともあるが、アリアスがそれらを事象として再生させるのなら良き理解者なのだ。


「リーリー、行きましょうか」


 そう言ったアリアスがリーリーの手綱を引く。


 リーリーは何も言わずにアリアスを背に乗せ、早々にリックとエウリュアレの二人の姉妹と別れた。


 可能であればシックを呼び戻したいと思っていたリーリーだったが、思わぬ拒絶に深く考え込んでしまう。


「リーリー」


 別れた先でリーリーは立ち止まり、考えている。


 見かねて話しかけるアリアスだったが、リーリーは深く考え込んでアリアスの声が耳に届かない。


「腑に落ちないのね」


「うん」


 ようやく答えたリーリーが、ただ一言そう言って背中に乗るアリアスを見やる。


「先に特異点と呼ばれた者達を再生させましょう」


「そうしよう」


 ただそう答えたリーリーが黙々と自身で討ち滅ぼした特異点の場所へとアリアスを連れて行く。


 アリアスはそのリーリーの【移動】に応え、【再生】の力を行使する。


 再生され、呼び起こされた特異点だった存在は説明もなくただその場所に放置されるだけだ。


 【増幅】ルフィナとその母親の【創造】ルセナは、過去にルセナの暴走が混乱を招いたこともあったがマキナの失態もあり、許されている。


 ルフィナは王家直属の騎士団へ加入し現在は騎士団団長となっている。そのため親子は王都に移り住んでいたが、母親のルセナは逝去された。


 娘のルフィナの齢も今や九十を超えるが、騎士団の団長を務めているということは彼女を超える者が未だに現れないということだろう。


 【破壊】の赤鳥は老衰、家族に囲まれて亡くなった。


 【静寂】の鹿は元々精霊種族の大精霊に位する存在で、死の概念自体が存在しない。マキナに存在を許されていて協力的で物静かな鹿だったが、存在する世界にて神と呼ばれる上位存在が【静寂】という特異点を許さなかったのだという、そのために元々の大精霊としての責務を全うするカタチで自ら消え去った。


 【解放】の少女はとある世界で高校生をしていたが進学して大学生へ。順風満帆かと思われたが、突如として【解放】が暴走、リーリーがこの件に関わり特異点【解放】はリーリーの手によって跡形もなく一瞬で滅ぼされる。再生対象だ。


 【転移】の黒鳥は乗り手であるアルメスよりも早くに亡くなった。特異点【神魔】における大征伐の際にアルメスを庇って消滅の魔導を受け、その場で消滅。乗り手であるアルメスを別の世界へ転移させた。遅れて訪れたリーリーが【神魔】である男を討伐、この【神魔】と【転移】は再生対象だ。ただ乗り手であるアルメスは老衰で逝去している。


 どのようなカタチであれ、老いで自然に亡くなったのであれば再生の対象ではない。


 リーリーの行動による関連する死は、アリアスにとっての再生対象だ。


 ふと、リーリーは【解放】の少女のことを思い出す。


 彼女は【解放】の特異能力を制御し切れなかった被害者だ、それを殺しておいて今更になって復活させるのはリーリーでも気が引ける。


 アリアスはそんなリーリーの躊躇いを見て言う。


「再生させてから考えればいいのよ」


 アリアスはそんなことを言う、リーリーとしてはもやもやする問題ではある。


「だって、あの時はリーリーがああするしかなかったんだもの」


 アリアスの言葉にリーリーは耳を傾ける。


「大丈夫」


 そう言われたリーリーはアリアスを乗せて【解放】の少女を痛みもなく一瞬で粉微塵にした宇宙空間へと辿り着く。


 宇宙空間に叩き込んで即死と消滅を同時に行う、という策を選んだのはリーリーである。


 アリアスの再生は少女の復活まで、復活後にリーリーが可及的速やかに少女を元いた世界に戻さなければならない。


「リーリー、始めるわ」


「うん」


 アリアスが宇宙空間に分子レベルで飛散した少女の情報を【再生】させる。


 リーリーが消滅させた少女が完全に消滅する前の姿に戻ると、リーリーはバリアで肉体を保護し、そのまま時空を裂いて少女が居た世界へと少女と共に降り立った。


 はた、と少女は周囲を見渡して察したように言う。


「なんとなくこうなると思ってた」


 リーリーは何も言わずにただ少女を眺めていた。


「リーリー、ここどこ?」


「たぶん君のセカイ」


 少女は自身が消滅する前に持っていた端末を眺めているが、通信は出来そうにない。


「あれからどのくらい経ったの?」


 リーリーは問われて少しの沈黙の後、首を傾げながら自信が無さそうに言う。


「300、400年……?」


「どうして私を起こしたのよ、家族も友達もみんないなくなってるじゃない!」


 リーリーは少女にそう言われて自らの羽先で自分を指し示した。


 飽きれ顔の少女が頭を抱えて深くため息を吐き、そうして言う。


「連れて行って」


「えぇ」


 リーリーのその反応を見て少女は地面に掌を叩きつけ、そして必死にリーリーを説得する。


「300年以上の未来を生きるのも、リーリーの世界で生きるのも苦労はさほど変わらない」


「だって面倒くさいし」


 見かねてアリアスが言葉を挟む。


「リーリーなら女の子の一人や二人くらい養えるわよね」


「うーん」


 少女は頭を抱えながら呟くように言う。


「私はまだ大学生でお金もないし、300年後の未来なんてどう生きて行けばいいのか分からないし、戸籍や身分を証明しようもない、頼る親も友達もいない、特異の力も使えなくなってる。住む場所も、食べて行けるだけのお金もない」


 その言葉を聞いてリーリーはふと、シックならどうするのかと思考を巡らせる。


 まあ“責任はとるか”とそう頷いて、そうして少女に言う。


「わかった」


 リーリーのその言葉を聞いて少女は立ち上がり、澄まし顔で言う。


「櫛奈飾利よ、これからはカザリって呼んで」


 その言葉を聞いてアリアスが自身の胸に手を当てて言う。


「アリエス・リア・シングラーヴァ、リーリーの妻です。アリアスと呼んでください」


「妻!?」


 カザリがそれを聞いて驚いている。


 それ以上にリーリーはアリアスがアリエスという名前だったことに驚いている。


「アリエス?アリアス?」


 カザリがそうして疑念を抱いてアリアスに問うと、アリアスは微笑んで言う。


「リーリーが私をそう呼んでくれたから、そう名乗ることにしたの」


 リーリーは人語を理解し、話す魔獣に分類される鳥類ではあるが完璧に発語できるわけではない。


 アリエスが、いつの間にかアリアスという発音になっていたようだ。


「私もたくさんの歳月を眠っていて他に知り合いもいなかったから、ちょうどいい機会だと思って名前をリーリーが呼んでくれたアリアスにしようって思ったの」


 そう説明するアリアスの顔を見てリーリーは自身の翼で顔を覆い恥ずかしがっている。


 まさか名前を間違えるなんてリーリー自身も考えない。


 少しだけ短い時間を漂っていたからなのか、記憶が鈍ってしまったのだろう。


「リーリーもたまにはドジを踏むことがあるのね」


 カザリはそう言って恥ずかしがっているリーリーを見てアリアスの顔も見合わせ手を差し出した。


「よろしくね」


 アリアスが手を差し出して握手をし、リーリーがそれに続いて翼を差し出す。


「一度帰りましょうか、リーリー」


 アリアスとカザリがリーリーの背に乗る。二人用の鞍ではないが女性二人が座る場所はある。


 リーリーは時空を爪先で引き裂いて、アリアスとカザリをエウリュアレとリックが住まう家に転移した。


 二人に事情を説明してカザリを預かって貰う。


 一般人であるカザリだが、ある程度の家事や事務計算の手伝いは出来ること。


 特異点としての特異能力【解放】は今のカザリにないこと。


 その話を二人に説明する。


 ただし、消失以前の【解放】の特異による経験値は人ならざる域に達していて、カザリ自身の能力値はどの世界に於いても他者を寄せ付けない単純な強さがある。


 驚異ではあるが、本人に悪意や害意などはない。


「暴れたりしなければ大丈夫」


 エウリュアレがそう言って親指を立てている。


 カザリが暴れることはないだろう、とリーリーは頷いた。


 リックとエウリュアレ、そしてカザリという異なる世界の元特異点の大学生を一緒に置いておいて不安がないとは言い切れない。


 リックは何もかも諦めたような顔をしていて大人びた女性のようで何か考えているだろうし。


 エウリュアレはとにかく悟りが早い、覚りとも云うのかもしれない。特にシックと行動することの多かったシックの弟子だ、何をするのかはリーリーにも想像できない。


 心配そうに見つめるリーリーに対してアリアスは三人を見て微笑んでいる。


 アリアスのことだ、特異【再生】でこの先の未来を見たのかもしれない。


 リーリーはそのアリアスの様子を見て再度、出立する。


 リーリーとアリアスのやるべきことは過去の清算と、謎の追求だ。

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