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神鳥、放浪の果てに

「【再生】の特異点……」


 神鳥が目にした光景はかなり異質なものだった。


 特異点の発生の報せを受けて駆けつけた先で、このような異常事態を目の当たりにするとは想定しなかったのだ。


 特異の力を行使できる存在を特異点という、それらは生物にも物体にも宿る世界の法則を無視した超常存在である。


 この神鳥もまた【最強】の特異点と呼ばれ、外界から与えられた【移動】という力を行使できる。


 その力は甚大で、この飛べない鳥一匹で数多ある世界を余すところなく破壊し尽くせるほどだ。


 それらの力は別の次元、もしくは別の宇宙から特異点と定められた存在に貸し与えられた能力に過ぎず、原因も理由も原理も不明。


 言うなれば壁に向かって放たれたボールが壁の向こう側へと通り抜けるといった有り得ない現象のようなものだ。


 神鳥は現に特異点として好きな場所に【移動】できる。


 それこそ何処へでも、何時でもだ。


 さて、話を戻そうか。


 神鳥は各世界の管理者マキナの依頼によって特異点の調査と壊滅を手伝っている。


 そうして新たに発現した特異点の調査に赴いたわけだ。


 過去に世界樹の種を預けた世界がこの場所なのだが、どうにも異常で異質だ。


 特異点【再生】の力は行使された形跡がないが、世界樹が異常に育ちすぎている。


 最早、世界樹は宇宙にその枝を広げ、育ち続けているのだ。


「アリアス」


 神鳥に声を掛けられ、彼女は目を覚ました。


 アリアスという名だけはこの神鳥にも覚えがある。この世界樹が根を下ろした国の女王の名だ。


「リーリー」


 溢れた神鳥の記憶が止めどなくアリアスの特異【再生】によって再現されるそんな折に発されたアリアスの言葉は不可思議なものだった。


「どうしたの?リーリー」


 アリアスに問われ、神鳥は目を丸くして言う。


「そんな風に呼ばれてた世界もあったな」


 アリアスは世界樹の中心核から抜け出て、細い足でふらつきながら神鳥の側へと歩む。


「名前がないのなら私が名付けてあげる……今日から貴方はリーリーよ」


 アリアスがまるで何かを悟ったように神鳥の嘴を撫でてそう言った。


 リーリーと名付けられた神鳥は笑う。


 さて、どうしたものかと作者も首を傾げている。


 アリアスは明後日の方向を見て笑顔を振り撒いている。


 これはリーリーにもアリアスが何をしているのかは理解できない。


 が、見ている側は理解できる。


 見えている。


 何がとは言わないがアリアスは見えているのだ。


「アリアス、君はどうやら特異点らしい」


 リーリーがアリアスにそう告げると、アリアスは自分自身の身体を見回している。


「そうみたいね」


 そう呟いたアリアスは背伸びをしている。


「特異点に選ばれた者は滅ぼされるか、協力するか二つの選択肢しかない」


「協力するわ」


 アリアスは即答した。


「そう」


 リーリーはそう言って、次は何と説明したらいいのか考えている。


 アリアスはリーリーの嘴に付いた食べかすや、羽毛の汚れを見て溜め息を吐いて言った。


「私が貴方の乗り手になる」


「え!?」


『許可するわ』


 聞いていたマキナがそれを了承する。アリアスとリーリーにその声が聞こえ、アリアスはにこにこしているが、リーリーは驚いている。


「え、えっと」


「じゃあ、お風呂に入りましょうか、リーリー」


「えぇ……」


 リーリー自身では気付いていないようだが、かつて黄金の神鳥と言われた鳥の羽毛は今や薄汚れていてくすんでいるし、口元はべたべた、足は何故か先程まで戦闘してたかのように血みどろだ。


「水浴びならたまにしてるけど」


「だめよ」


 アリアスはそう言ってリーリーを強引にその場から連れていく。


 彼女自身も数百年間眠っていたようで、眠りについていた間に神殿が建てられていたとは思っていなかったようだ。


「ここは・・・・世界樹の中?」


「うん」


 アリアスは困ったような顔をしながらもリーリーを連れて歩く、神殿の外に行けばどうにか出来ると考えているようだ。


「アリアス、君がこの世界樹から離れれば」


 そう言ったリーリーに対してアリアスは言う。


「崩壊するでしょうね。でも、もういいの」


「どうして?」


 問うたリーリーにアリアスは笑顔を見せてこう言った。


「花はいずれ散るものよ」


 アリアスに連れられながら、リーリーは世界樹を眺める。


 あまりに大きく、極めて成長し尽くした自然の建造物。この世界の世界樹は他のそれと比べるとあまりにも大きく違う。


 アリアスの持つ特異点【再生】は危うい、それだけに判断を鈍らせてはならない。


 ここでアリアスを。


「リーリー」


 振り返ってそう言ったアリアスがリーリーの動きを止める。


「少し手荒になるんだけど」


 アリアスはそう言って特異【再生】の光をリーリーに奔らせる。


 リーリーはそれを受けて抵抗することも出来たが、無気力から抵抗はしなかった。


 薄汚れて血まみれ泥まみれのリーリーの身体を光が包み、再生する。


 黄金の羽根と、金の爪がその汚れの内側から現れた。


「よし」


 そう呟いたアリアスは気が済んだのか、リーリーを見て静かに頷いた。


「確かに、少し汚れてた気がする」


 リーリーはそう言って強がる素振りを見せる。


「リーリー、それじゃ連れていってくれる?」


 アリシアは笑顔を見せて目的地を告げる。


「“管理者”に言いたいことがあるのだけれど」


「マキナのところに?」


「挨拶もしなくちゃならないし、これから少しだけお世話になると思うの」


 リーリーはそれを聞いて静かに思索する。アリシアがどのような考えで管理者に接触するのかは未知数だ。


『私は構わないわよ、連れてきなさい。リーリー』


 リーリーとアリシアにマキナの声が聞こえ、リーリーはその姿勢を低くする。


 アリシアはそんなリーリーを見てはしゃぐようにリーリーの背に乗った。


 リーリーはアリシアがちゃんと乗れているかを確認し、爪先で空間を引き裂いて次元の裂け目を産み出した。


「それじゃ行くよ、アリシア」


「ええ、よろしくね。リーリー」


 リーリーはバリアを張ってマキナのいる部屋へと到達する。このバリアがなければ人も鳥も肉体を保てないからだ。


「初めまして、管理者さん」


 アリシアはリーリーの背に乗ったまま、そうマキナに挨拶をする。


「初めまして、アリシア。それにリーリーも久しぶりだね」


 マキナと呼ばれたそれはリーリーの目に映る世界樹の姿ではなく、椅子に座って眼鏡をかけている人間の女性に見えた。


「やあ、マキナ。今日は何か変だね」


 そうリーリーが言葉を交わすと、マキナは次にリーリーの背中に座るアリシアを眺めて静かに沈黙している。


 アリシアは何か悟ったように笑みを浮かべている。


 リーリーがそのアリシアの様子を見て違和感を覚えて何かしらの行動を起こす前にアリシアはリーリーとマキナに告白する。


「【再生】の特異能力は文字通りあらゆる事象を再生するの、例えば不都合な真実とか期待していた結果とか」


 マキナの姿形を造った女性の眉が潜む。


「リーリーには怒らないで聞いて欲しい」


 そう言って困り顔のアリシアに対してマキナも頷き、大きな溜め息を吐いて緊張を解くかのようにリーリーに言う。


「私からも・・・・いや、私が言える立場じゃないことは理解してる。だからリーリー、先に謝っておくよ」


 マキナはリーリーにも、アリシアにも深く頭を下げた。


 分からないリーリーに対してアリシアはリーリーから降り、嘴を撫でて語った。


「管理者マキナはただの玩具修理者なの、いま目の前に居る彼女が本物の彼女で、少しリーリーが暴れればすぐに消えてしまうような命なのよ」


「そ、それは・・・・」


 申し訳なさそうにするマキナがリーリーにとって分からないが、淡々とアリシアは言う。


「特異点と呼ばれる存在はただのゲームの異常、もしくはバグといったところかしら。消去するために今まで奔走していたリーリーもおそらく同じようなものね」


 リーリーには理解が追い付かないが、なるべく理解しようと必死に黙り込んでいる。


 その様子を見つつ、アリシアがリーリーに説明する。


「むしろリーリーは特殊なのかしら・・・・とにかくマキナはリーリーを使って環境の安定を図っていた。だけど、そこに私が現れたの。全ての事象を再生することの出来る待望の特異能力者」


 申し訳なさそうにするマキナを見てリーリーは分からないでいる。そんなリーリーにアリシアは言う。


「今までリーリーが特異点の排除を行っていたのはただ環境を維持するためのもので、実はマキナが抱えきれない仕事の尻拭いだったってこと」


 それを聞いてリーリーはマキナの顔を見る。


 マキナの顔は少し赤面していてそれを手で隠している。


「それじゃあボクは・・・・」


 リーリーの存在する周囲が歪み、何かが起きようとしているその前にアリシアは言う。


「仕方がなかったのよ、リーリー。マキナもただ働いているだけで責任者は別にいるんだから」


 それを聞いてリーリーは力を込めることをやめ、ただ押し黙る。


「それでもリーリー、あなたがいる世界やそれ以外の世界だってマキナは正常になるよう尽力し、管理してきた」


 アリシアはそう言ってリーリーを説く、聞く様子を見て微笑んだアリシアが更に提案するように言う。


「だけど、それももう終わりね。マキナは私という特異点を見つけた。私の特異能力は【再生】ありとあらゆる事象・生き物を再び動かすことが出来る。私は今からマキナの願いを聞いて、リーリーに連れて行って貰うようにお願いするわ」


 アリシアから【再生】の光が溢れ出ている。リーリーの目から見ればそれは異常だ。


 マキナがそのアリシアの様子を見て軽く咳ばらいをすると、アリシアの周囲を囲む光が治まって閉じるように光を失っていく。


「リーリー、君に最後の依頼を託そうと思う」


 その言葉をマキナから聞いたリーリーが首を傾げる。


「アリシアの【再生】の力を借りて全ての世界の歪みを閉じ、特異点と呼ばれた存在を起こして欲しい」


「起こす・・・・・?」


 頷いたマキナがリーリーに説明する。


「リーリーの武装である爪には特異点を停止させる効果を付与してある。その爪に触れられれば特異点は活動を停止し、その世界の環境を乱すことが出来なくなる。それによって環境は保持され、異常のない世界が出来てしまう」


 それを聞いて更に首を傾げるリーリー。


「特異点は本来、どの世界においても必要なものなんだ。異常が無ければ変化は生まれず、変化がなければ成長は訪れない。あらゆる世界の根幹を成すスフィアは本来、停滞を望んでいないんだ」


「・・・・・・・」


 リーリーはそれを聞いて押し黙ってしまった。


「特異点とは、あらゆる世界を変質させる事象そのものに過ぎない。それ故に、全てを無に還すこともあれば新しい何かを生み出すこともある。私達管理者が停滞を望んでいたのはその膨大で肥沃なエラーが管理できる領域を超えてしまうからだ」


 ふむ、とリーリーはマキナの説明を静かに聞く。少し憤りもあったようだが落ち着いたようだ。


「リーリー、君は【最強】の名を冠する特異点だが、元々の特異はまったくの別の名称があるだろう?」


「【移動】?」


 リーリーにはあらゆる時空を超える足が後天的に特異能力として開花している。


 それは時として乗り手を運び、時として鋭い爪を対象に運ぶ。


 何時如何なる時間と場所を超えて、他の【特異点】を寄せ付けず、干渉した全ての事象を動かしてしまう。


「その特異能力は一言で言い表してしまえば異常だ。【特異点】として特異能力を宿した本体の能力ごとどこか別の次元へと移動させてしまう。【特異点】と呼ばれた特異能力がまるでそよ風のように凪いでしまうこともこちらは観測している」


 アリアスはそれを聞いても何も動じずにリーリーを見つめて微笑んでいる。


 【再生】の特異能力なのだろう、常に事象に干渉して過去・現在・未来を再生し続けているのかもしれない。


「リーリー、君の旅はアリアスと共に終わる」


「終わる?」


 そっとアリアスの手がリーリーを撫でる。


「元々は一介の騎乗種である鳥が知性を得て心を持ち、出会いと別れ、破壊と殺戮を繰り返し、よくここまで私達に尽くしてくれた。だけど、もうそれも終わりだ」


「終わる?」


 リーリーが分からないままでいると、マキナは溜息を吐いて言う。


「いずれ分かる、終わりが近いというだけで。終わらせるのはアリアスの【再生】だ」


 リーリーはよく分からないままマキナの説明を聞いていた。


「過ぎ去った時間は戻らないが、少なくともアリアスは失った命を魂ごと【再生】させる。君は世界の安寧のために殺し過ぎたんだ。そのせいで身も心も疲弊しきっているんだ」


 ぴし、とリーリーの足元からこの空間にヒビが入る。


「終わる?」


「アリアスが居れば、みんな生き返るさ」


 そう呟くように言ったマキナの顔を見つめて、リーリーは足元に力を込めることをやめる。


「リーリー、これからは自分の意志で行動するんだ。さあ、もう行くといい。私はこの後残務を片づけないといけない」


「残業?」


 マキナはそう聞き返すリーリーに対して微笑み、小さく頷いた。


 いつの間にかひび割れた空間が元通りになっており、それがアリアスの【再生】だと気づいたリーリーが静かに首を下げる。


「行こう、アリアス」


「うん」


 アリアスを背に乗せ、リーリーは去り際にマキナに対して言う。


「また来るよ」


 背を見せたリーリーとアリアスをマキナが見送る。


 空間を引き裂いたリーリーがそのままアリアスと共に去って行った。


「また・・・・・・」



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