ギャルの疎外
「それで、探し物はなんですか?」
「ブレスレット」
ブレスレットね。校則違反だった気もするが些細なことか。
「ブレスレットと言えばあのいろんな色のビーズがいくつも繋がっているやつか?」
「先輩、小学生じゃないんですよ」
「私のは金属のだよ。親友から誕生日にもらった大切なもの」
親友ね。お互いの領域に過干渉し合う。これは1つのミスで互いに弱みを握る敵になりかねない重しにしかならない関係性だ。
「まずは色々教えてください」
「私が最後に付けてたのは二時間目で、なくなったのに気がついたのは五時間目の途中かな」
「ブレスレットってどんな時に外すんですか?」
「んー普通はほとんど外すことないかな。学校だと体育とか没収してくる系の先生の授業とかかな」
「ひなちゃん先輩、今日は体育とかあったんですかー?」
「なかったよ。でも松崎の授業が四時間目にあったからそん時かもなー」
「その松崎先生の科目は何ですか?」
「現国だけど」
現代国語なら教室で自席で受けているよな。さすがに推測するにはヒントがなさすぎる。現状可能性が高いのが現国の時間だとしても失くすことにつながらない。
「ちなみにブレスレットは外してる間どこに置いていたんですか?」
「机の中だったと思う」
「授業後に付けなおした記憶はありますか?」
「ないなーその後すぐにお弁当を友達と食べるために教室を離れたし」
「先輩は今の所どーおもいます?」
「そうだな。可能性は三つ。一つは桃園先輩の記憶違い。二つ目は桃園先輩が席を離れているうちに先生に見つかった。三つ目は誰かが盗んだ。正直どれもとも言えないな。一旦桃園先輩の教室に行こう」
教室に向かうまでの間加茂は桃園に多くの質問をしていた。肌の手入れや髪の手入れ、化粧品は何を使っているかまで女子トークを繰り広げていた。
Aクラスの教室に入ると教室に残る全員が一瞬振り返ってすぐに手元の参考書に戻した。開かれている参考書は数Ⅲや古典とバラバラだ。その中の一人の男はちらちらと部外者である俺を迷惑そうに見ている。まあ勉強している最中に知らない顔が入ってきたら領域を侵されている気分なのだろう。これ以上目を付けられないうちに片付けよう。
「桃園先輩の机はどこですか?」
「あそこ」
廊下側の三列目。一番後ろ席か。少人数クラス特有の閑散とした空間だ。
机の横には何もかけられていない。机の中も空っぽだ。
もしかしたら入ってるなんてことはさすがにないか。
教室のスペースを見てもうっかり床に落ちているってこともないな。
ぱっと見の男女比は四対一くらいか。男子は多いが机をくっつけて勉強とか隣と談笑とかもなく、ぴりっとした空気が漂っている。
少なくとも桃園先輩のような煌びやかなタイプはいない。
心なしか桃園先輩もつまらなそうな顔をしている。
「何か得られそうなものはなさそうです。戻りましょう」
教室を出る時もさっきの男は嫌な顔をしていた。
「桃園先輩窓側の二列目に座っていた男の人の名前ってわかりますか?」
「奥村松雄」
「あーあの先輩を睨んでいた人ですか」
絶対加茂も含まれていただろ。なんで俺だけだと思ってんだ。
「奥村がどしたん?」
「睨まれてたので、気を付けておこうと思いまして」
「また脅迫文書かれるかもしてないですからねー」
「脅迫してくる後輩に言われると説得力があるな」
「2人は仲が良いんだね」
「そーですよ」「そんなことはない」




