表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面の王女と精霊王国の最強魔法騎士団長は、不器用な恋をする〜政略結婚なのに、溺愛が始まりました〜  作者: 櫻井金貨
第4章(最終章)アルタイス精霊王国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

58/71

第58話 カラスカス帝国皇帝はたくらむ(1)

「ブルーベル!」


 緊張感をはらんだ声に、庭にいたブルーベルは、ぱっと反射的に立ち上がった。

 屋敷から、アルヴァロが急ぎ足でやってくるのが見えた。

 アルヴァロは騎士団のチュニックにマントを身に付け、腰にも剣を下げている。


 幅広のベルト、革と細かい鎖を組み合わせた防具を身に付けている。


 礼装用ではない、実戦を控えた装いだ。

 どくん、とブルーベルの心臓が嫌な音を立てた。


「アルヴァロ様!」


 ブルーベルも駆け出して、アルヴァロの前に立つ。


「ブルーベル、緊急事態が発生した。私は今からすぐに王城にある騎士団本部に戻る」


 ブルーベルは大きな目を見開いて、アルヴァロを見つめた。


「アルタイスを臨む大陸の港に、武装した兵団が現れた。詳細はまだ不明だ。場合によっては、私も国境線に向かうかもしれない」

「アルヴァロ様……!」


 アルヴァロはそっと、ブルーベルの肩を抱き寄せた。


「心配するな。アルタイスには何重にも魔法で結界がかけられている。幻惑魔法も施されているし、そう簡単に攻め入られることはない。しかし。何かが起こっていることは確かだ。ブルーベルは決して屋敷から出ないように。ビヨークは私と行動を共にする。この屋敷には騎士団から追加で騎士を送り、警備に当たらせる」


 アルヴァロはブルーベルに言い聞かせるように、ゆっくりと話す。


「屋敷のことは、ローリンに任せてある。ローリンの言うことに従うように。屋敷からは一歩も出るな。ミカから離れるな。あなたにはユニコーンもいる。いいね? 心配しないように」


「で、でも。では、アルヴァロ様は……?」

「私は緊急事態には慣れている。大丈夫だ」


 そう言うと、アルヴァロは婚約指輪のはめられたブルーベルの指先にキスし、ちょっと迷ったが、そっとブルーベルの顔に手を触れると、初めて、ブルーベルの唇にキスをした。


「アルヴァロ様」

「私が心配しているのは、あなたのことだけだ。くれぐれも、危険なことは、しないように。いいね」


 そう言うと、アルヴァロは、そのまま急ぎ足で屋敷の前で待つビヨークと合流した。

 すぐに、二頭の馬が駆ける音が、遠ざかっていった。


「ブルーベル様!」


 ミカの声がする。


 屋敷に戻らなければ。

 そう思いながらも、ブルーベルは動くことができなかった。


「ブルーベル様、アルヴァロ様の言葉を聞きましたね? 大丈夫です。アルヴァロ様の指示に沿って、お過ごしください。じきにお戻りになるでしょう」


 その時、庭師の老人が、そう言って、ブルーベルに向かってうなづいた。


「さ、屋敷の中にお入りください。庭は大丈夫です。あとは私がやっておきましょう」


 そう言うと、優しく、ブルーベルの背中を押した。

 ブルーベルは、ようやく魔法が解けたかのように、屋敷に向かって、ゆっくりと歩き始めた。


 * * *


 ブルーベルは屋敷に戻って、長い午後を過ごしていた。

 カチ、カチ、と時計の音が静かな邸内にやけに響く。


 アルヴァロが王城に行った後、ブルーベルは言われたように屋敷内に戻り、庭にも出ることはなかった。


 ミカが早めの昼食を用意してくれたが、あまり食べることができない。


「無理もありませんわ」


 ミカが同情を込めた視線を向けながら、残ったものを下げてくれた。

 ブルーベルのために、食後のお茶を入れてくれる。


「他国の軍が姿を現すなんてこと、滅多にないのです。でも、アルヴァロ様がおっしゃったように、この国の守りは万全です。この屋敷も、非常事態への備えはありますから……今は、なるべくいつも通りに過ごすように、してみましょうね」


「ええ、ミカ。頭ではわかっているの。でも、アルヴァロ様は、騎士団長だわ。何かあったら、アルヴァロ様が前線に立つのよね。わたし、今まで、そんなことも想像できないでいたの。それに、街の人達は大丈夫かしら。アネカさんや、ラースキン伯爵夫人はどうしているかしら。それに、精霊達はどうなるの? お義母様は大丈夫かしら?」


「何かあれば、必ず国王陛下が通達を出されます。それまでは、皆、家の中で待機する感じだと思いますよ。精霊達は大丈夫です。彼らはいつでも、自分の姿を人から隠すことができますから。大奥様は……、ブルーベル様、いつでも連絡を取れるではありませんか? 邸内にも水盤は置いてありますので。ひとつは、アルヴァロ様の書斎にありますわ。お使いになりますか?」


「そうね、そうするかも」


 ブルーベルは押し黙った。

 その様子を見て、ミカはそっと立ち上がった。


「少し、ローリンさんに様子を聞いて参りますね。ご用がありましたら、いつでもお呼びください」


 ブルーベルは微笑んだ。


「ありがとう、ミカ。気を使わせてごめんなさいね。少ししたら、落ち着くと思うわ」


 廊下からユニコーンが入ってきて、ブルーベルの肩に、頭をこすりつけた。

 ブルーベルは、ぎゅっと、ユニコーンの首を抱きしめた。


「大丈夫よ、みんな、ありがとう……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ