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仮面の王女と精霊王国の最強魔法騎士団長は、不器用な恋をする〜政略結婚なのに、溺愛が始まりました〜  作者: 櫻井金貨
第2章 アルタイス精霊王国

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第47話 森の中の舞踏会(2)

 そして今、アルヴァロは屋敷の離れから主屋へ戻る途中だった。


『舞踏会を開くのはいいけど、ブルーベル姫は大丈夫なの? そんな知らない人がいっぱいのところに連れ出して、顔のことを気にしたりとか、大丈夫なの?』


 テオドールの言葉を思い出す。

 

(くっ……! 認めたくはないが、さすが、兄上。女性の気持ちをそこまで察するとは……! かつて婚約者がいたのも、伊達ではなかった)


 アルヴァロは、悔しそうに顔を赤らめた。


(この国で、ブルーベルの顔を笑うような人間がいるとは思わないが、本人の気持ちはまた別だ。まだ人前に出たくないと思うのなら、尊重しなければなるまい)


 アルヴァロはそう思い、直接、ブルーベルに尋ねてみたのだが。

 その答えは、果たして。


「アルヴァロ様……大変、申し訳ないのですが」


 離れで一緒にお茶を飲みながら、アルヴァロが舞踏会の話をすると、ブルーベルは心から済まなそうな顔で、言ったのだった。


「まだ、着飾って、大勢の方の前に出る勇気が……」


 しゅん、とうつむいて、ごめんなさい、と謝るブルーベルに、アルヴァロは慌てて、自分こそ申し訳ない、と謝ったのだった。


 そんな二人の肩越しで、そっとミカとビヨークが視線を交わしている。


「アルヴァロ様、ブルーベル様、実は、私とミカにいいアイデアがありまして。お任せいただけないでしょうか?」


「は?」


 突然の一言に、アルヴァロも驚いて顔を上げる。

 一方、『私とミカ』と言われたミカは、なぜか頬を赤らめて、照れている。

 ミカの茶色い髪が、ふわふわとどこか嬉しそうに揺れ動いていた。


 ビヨークが、重々しくうなづく。

 その顔は「任せろ」とアルヴァロを半ば脅迫していた。


「わ、わかった」


 アルヴァロがその迫力に押されて了承すると、ビヨークは一転して、にこっとブルーベルに笑いかけた。


「ブルーベル様も?」

「は、はいっ、よろしくお願いいたします?」


 そして、何かが決まったらしかった。


 主屋に戻る途中で、ビヨークがくるっと振り返ると、アルヴァロに言った。


「アルヴァロ様、ブルーベル様にプロポーズなさるおつもりでは?」


 ビヨークが単刀直入に言うと、アルヴァロは仕方なく、うなづいた。


「よかった。では、お任せくださいね。ちゃんと、プロポーズできる舞台を、整えます」


 * * *


「アルヴァロ様のお誕生日……?」


 ミカはお茶のテーブルを片付けながら、重々しくうなづいた。


「さようでございます。おそらく、ビヨークさんは、アルヴァロ様に内緒で、()()()()()()()を計画されているのかと。ブルーベル様は、()()()()()()()に参加されたことはございますか?」


 ブルーベルはドキドキしながら、首を振る。


「な、ないわ」


 ミカはうなづく。


「これは、アルタイスでは大変、大変、重要なイベントでございます。ラースキン伯爵夫人を呼んで相談しなければいけませんし、デザイナーのアネカさんにも来てもらわなければ」

「そうなの??」


「ブルーベル様。秘密のお誕生会といえば、秘密のバースデープレゼントです。アルヴァロ様に内緒で、素敵な贈り物を用意しなければいけません」

「! 確かに」


 ミカは、ブルーベルが理解したのを確認して、切り出す。


「たとえば、ブルーベル様お手製の刺繍をしたお品など、ですね。ですから、ラースキン伯爵夫人と相談して、贈り物を決めましょう。それから」

「それから?」

「ダンスです」

「ダンス……?」

「はい。秘密のお誕生会、最後はアルヴァロ様とのダンスが締めですわ。素敵なドレスをアネカさんに作ってもらいましょうね」

「!?」


 ブルーベルはここで、一瞬、本当かな……? という気持ちがしたのだが、そもそもブルーベルはこうしたことをよく知らないのだ。

 ミカが言うならそうなのだろう、と素直にうなづいたのだった。


 * * *


 夜七時。

 まもなく日没を迎える。

 闇が少しずつ濃くなり始める、美しい時間だ。


 ビヨークの先導で、夜会用のジャケットを着込んだアルヴァロが幻獣の森にやってきた。


 普段のチュニック姿から一転。

 こうしていると、ちゃんと貴族令息に見える。


 鮮やかな青い髪に合わせて、深い青のジャケットを着ている。シンプルなデザインだが、中に着ている白のドレスシャツのフリルが覗いていて、華やかだ。

 さく、さく、と芝生を踏みしめる靴は、よく磨き込まれた黒の革靴。


 少し緊張気味の表情だったが、生来の美貌がよく映え、とても見栄えがした。


 トコトコ、とアルヴァロの前を歩くビヨークは、白のオオカミ姿である。


 森に入ると、木々の向こうから、松明の明かりが透けて見えた。

 まるで広場のように、木々の間に開けた野原。

 その前に立っているのは————。


「ブルーベル!」


 アルヴァロが嬉しそうに声をかけた。


 暗がりの中で、そこだけ明るい光が射しているように見える。

 森の中に立つ、まるで精霊のような少女は、真珠色のドレスを着たブルーベルだった。


 淡いバラ色のアンダードレスの襟元の開きは控えめ。

 しかし、胸元からは大きなリボン飾りが付けられ、ウエスト下まで体のラインに沿って、可愛らしく結んであった。


 真珠色のオーバードレスは、その上品な色合いが、ブルーベルの銀色の髪や青とも紫ともつかない瞳の色によく似合っている。


 ダンスをすることを考慮し、ドレスは大きく、ふわりと膨らみ、とても華やかだった。


「ブルーベル、とてもきれいだ。よく似合っている」


 アルヴァロがそう言うと、ブルーベルは恥ずかしそうに笑った。

 その時、ブルーベルの首から掛けられている、乳白色の石が付いたペンダントに、アルヴァロは気づいた。


「これは?」


 アルヴァロの問いに、ブルーベルは柔らかく微笑む。


「母から譲り受けた唯一のものですの。真珠のネックレスは……失くしてしまったので。これは、ムーンストーンというそうですわ」


 ブルーベルはそう言って、涙型のペンダントヘッドをアルヴァロに見せた。

 青みがかった、乳白色の石は、真珠色のドレスによく似合っていた。


「きれいだ」

「ありがとうございます」


 ブルーベルはそう言って微笑むと、アルヴァロの腕を取った。


「ようこそいらっしゃいました」


 ブルーベルは本日の主役を、森の舞踏会会場へと案内した。


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