父に似ている人。あ、やっぱり…
キースお気に入りの場所は最近新しいお客さんがくるようになった。
「ルドさん、今日はお仕事お休みですか?」
「あぁ、いつも邪魔して悪いな。」
「大丈夫ですよ。ゆっくりしていってください。」
ルドだと名乗ったキースの知人は、朝オープンしてからお昼前まで居着くようになった。
あの日以来二人で来ている様子はなく、キースは夜に来て、ルドは朝にやってくる。後で聞いた話だが、日番が決まっていて必然的にそうなるらしい。
「くるみーん、注文はいったよー。ふわふわパンケーキのチョコレートがけと、普通のパンケーキ一つずつね。」
「はーい!」
キース同様、本を読み始めたルドに背を向け自分の仕事へ戻る。
今日のニイナはクマ耳のフードをかぶっていて、店にある沢山のぬいぐるみと一緒に座っていてもバレないくらい可愛い。
初日に、私の下敷きとなった特大のクマのぬいぐるみは、今日は店の入り口で椅子に座って出迎えと言えば聞こえがいいが、ただ日光にあててダニ死滅中。
慣れた手つきで卵白を泡立て、メレンゲを作る。
ニイナの趣味で可愛くコーディネートされている店内は、日当たりが良く、調理する音やお客さまの声のみで、落ち着く雰囲気だ。
私が異世界人だと知っているのは、ニイナとキース、あとキースの上司だけ。
キースの上司が知っていれば大丈夫。とキースは言っていたが、本当だろうか。
『異世界人に世界を救ってくれ!!』とか、言う世界ではないのかと聞いたらキースがお腹を抱えて笑っていた。因みに、私以外にこちらの世界に来ている異世界人はいないとの事。
初めての事例なのに、不審者の私を連行して尋問するわけでもなく、この世界の人達はみな寛大なのかもしれない。
「これ、サービスです。」
ガラステーブルにフルーツの盛り合わせをそっと置く。
本に視線を落としていたルドはゆっくりとフルーツを確認し、お礼を口にした。
「ルドさんって、父さんみたいです。」
「……あ?」
眉間にできた皺。
綺麗な金色の瞳は鋭さを増し、私は慌ててトレーを持ったままの手を横に振った。
「あ、ごめんなさい。言い方を間違えました…。」
「いや、年齢よりも老けていることは自覚しているから問題ない。」
「いや、あの、そうゆー意味ではなくて、あの。」
「まぁ、落ち着け。ゆっくりでいいから話してみろ。」
穴があったら入りたい。
そりゃ突然、若いのに父親に似てるなんて言われたら機嫌も悪くなるよね。
キウイフルーツを長い指で摘んで食べる姿は色っぽい。
「すみません。全く似てなかったです…。」
「いや、似ているといっただろうが。」
「ただ、私が知っている父は若い時に亡くなってまして。消防士…あ、火事から人を守ったり火を消したりする仕事をしていたんですけど、ルドさんみたいに体格が大きかったんです。」
頷きながら次のフルーツを口にいれようとして
「でも、父はルドさんみたいに色っぽくないので、やっぱ似てないです。」
ごふっ!!とむせ込んだルドに申し訳ない気持ちになった。