常連さんは騎士様。
「くるみは、こっちに来てからどれぐらい経つんだ?」
猫足タイプの椅子に長い足を組んで座るキースが紅茶を一口飲む。
お店の奥にある、ガラス張りの小さな空間には、小さなテーブルとキースが座っている椅子しかなく、死角になるこの場所は彼のお気に入りだ。
「もう半年になりますね。」
「あれから半年がたったのか、こっちには慣れたか?」
「はいっ!こちらの方達は優しくて、とても居心地がいいです。」
「それはよかった。」
キースは頷き、再び紅茶を口に含むと手に持っていた本を読み始めた。
「くるみーん、2番テーブルにふわふわパンケーキ、キャラメルがけでー。」
「はーいっ!」
うさ耳を揺らしながらパタパタと動くニイナを含め、日本ではあり得ない髪や瞳の色をした人達を見るとここが異世界なんだと実感する。
黒や、茶色、金色しか見たことがない私は、最初の頃は緑やら赤やら白、紫と沢山の色に溢れているこの環境が異質で、恐怖よりも目がチカチカと痛かった思い出がある。
ただでさえ、ニイナの趣味であるロリータ系のフリフリやら自分では買わないピンク系統のもの、沢山の人形達に目の疲れはピークを超えたこともある。
そんなニイナと常連であるキースとの出会いは、半年前に遡る。
「どこいったー?消しゴムは…。」
考え無しにベッド下に突っ込んだ上半身、手を伸ばして消しゴムを手探りで探す。時間帯が夜で、電気をつけてるとは言えベッドの下は薄暗い。ただでさえ邪魔な前髪が暗さとタッグを組んで前なんか見えやしない。
内心舌打ちをしながら、手探りはやめない。
潜る前に消しゴムの場所だけ確認しとけばよかったと後悔しても遅い。戻って確認してまた潜るなんて横着な私は絶対にしない。無いからと諦めてコンビニに新しい消しゴムを買いに行く。なんて、引きこもりの私は絶対にしない。
絶対、見つけてやる。と意地との戦いになった時、指先を掠った何か。
「あった!でも、と、ど、か、ないー。」
狭い空間、恥ずかしながらお尻がベッドに突っかかっていてそれ以上進めない。小さい時は地震がくればベッド下に隠れてたんだけどな。と大きくなったお尻をグリグリ前進させてみたり、ベッドをお尻で持ち上げたりしてみる。
「大きな地震が来たらベッド下じゃなくて、机の下に隠れよう。」
なんて、考えていた瞬間、指先で触れていた消しゴムがベッドでつっかえていたお尻がスポンっと取れた勢いで更に奥に弾いてしまった。その勢いのまま、自分自身も体が前へ進む。
「……ん?なんだか、体が…な、な、斜めになってるぅぅ!!」
原因は全くわからないが、突然、頭のてっぺんから胸下まで下に向かって傾き、慌てた私は坂を戻ろうと後ろに下がるが、またお尻が邪魔をする。角度はなかなか激しいもので、冷や汗が手のひらを濡らしつるんつるんっと力を入れても滑ってしまう。
覚悟を決めたのは、腰が坂にずれ落ちた時だ。
「あーあ、最後にパンケーキ食べたかったな。」
その言葉を合図に、頭を下にした状態で坂を滑りだした。
1分程長い空洞を坂に身を任せ滑り落ちた私は、光と共に目に飛び込んできた黒と白のタイル。
あ、死んだ…。と死を覚悟した瞬間、柔らかい弾力と共にオデコへの衝撃と、膝を強打。
「………いっ、つっ。」
「ふぇっ、な、にぃ?」
「ん、なんだ?どこから出てきた?」
私が初めて異世界へ迷い込んだ日、ロリータファッションが似合うニイナと、ファンタジーでお馴染みの騎士の制服を着て腰に帯剣したキースと出会った。
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