趣味はパンケーキを焼くこと。
今日は母が夜勤明けで家にいる。
家事全般はこんな家庭環境だから一通りできる。
母の部屋を覗くとベッドにうつ伏せで寝ている姿を確認し、静かにドアを閉めた。
疲れただろうと、母が好きな甘いものを作ったのがきっかけでパンケーキにハマった。
母はふわふわパンケーキより、昔ながらのパンケーキが好きだ。
卵、牛乳、砂糖と油をホイッパーで混ぜ、ベーキングパウダーを合わせた薄力粉をふるいにかけて一緒に混ぜ合わせる。
慣れた手つきでフライパンで焼き、母用のお皿に3枚盛り付けて終わり。
出来上がりを食べてもらえないのは残念だけど、しょうがない。
起きてすぐ食べれるよう、母の好きなメイプルシロップをお皿の横に置いといて自分の仕事は終わり。
自分の分はあっちで作って食べようと、甘い香りが充満するキッチンを出て部屋へ向かう。
「前髪、オッケー。あ、クマがある。昨日、小説読みすぎた。今日は早く寝よう。歯もお昼に磨いたからオッケー。洋服…は、いつも通り。よし、行こう!」
小学生の時にあったら便利だと母が買ってくれた全身鏡で身だしなみをチェックし、足取り軽く向かう先はベッド。
ゆっくりとしゃがみ込み、足から先にベッド下へと潜っていく。
平行だった感覚があるところを堺に斜め下に落ちる。
そのまま身を任せ、下へ落ちる感覚に「せっかくセットした前髪が」なんて無粋なことを考えていた。
真っ暗な空洞を滑る感覚は、何度も経験すれば慣れるものだ。
ただ、最初の一回目はよくなかった。と懐かしく思った。
「くーるみん、いらっしゃーい。」
滑り台が終わり、浮遊感を少しだけ感じてからボフンっと音と共に落ちた先は、蛍光ピンクでレースが付いた巨大なハートクッション。
クッションに埋もれたままの私は、可愛らしい声の主にただいまと言いつつ、クッションから抜け出す。
「もー、くるみん、来るの遅いー!暇があれば顔出すって約束したのに全く来なかったー!」
「ごめんっ、ごめん!学校があったんだよー。」
クッションへの落下で乱れた髪や洋服を直す私の周りを、小さな友人が忙しなく動く。
パタパタと動くたびに、フワフワのうさぎ耳が動きと一緒に揺れる。
みなさんが期待しているようなうさぎの獣人とかではなく、ロリータが好んで着るようなうさぎ耳がついたモコモコのフードをかぶっているれっきとした23歳の大人だ。
150cmと小柄な私より一回り小さな彼女は、ピンク色のフワフワした髪の毛、赤色の瞳をしていてウサギのフードをかぶっているとウサギと間違えられてしまいそうなくらい可愛いらしい。
「早く、早くー。みんな待ってるよー。お店開店しよーよー。」
「ちょっと待って!まだ着いたばっかで私お腹すいて…。」
「お待たせしましたぁ!ぴょんカフェオープンですぅ!!」
静止虚しく、目の前のドアが全く人の話を聞かない彼女によって開かれる。
順番待ちをしていた先頭のお客様と目が合い、苦笑い。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」
そして今日も、ワガママで自分勝手な彼女と一緒に沢山の人達を笑顔にする。日本ではなくベッド下から迷い込んだ(いつでも帰れます)異世界で、趣味のパンケーキを焼いています。