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無、無、無、やっぱり焦ります。


 西門を抜け、草原に咲いたタンポポモドキを堪能し湖のある林へ向かう。

 べったりと左腕に絡まっているニイナは鼻歌を口ずさみ、それを聴きながら小さな歩幅に合わせて歩く。


 「あ、リスだぁ!」


 林に入ると暑さで肌を焼く日差しはなくなり、澄んだ空気が出迎える。

 絡まった腕は解かれ、リスがいる木に向かいニイナは走り出す。

 

 もう、落ち着きないなぁ。

 なんて呆れつつも、そんな行動一つ一つが可愛くて可愛くて顔がにやけてしまう。


 こんだけ喜んでくれるならもっと早くに来てあげればよかった。


 木々は湖を囲むように広がっており、南門の森とは違い奥に進むに連れ鬱蒼としていない。

 木々の隙間から太陽の光が漏れ、幻想的な風景だ。

 

 「ここにシートを敷けばいいか?」


 「うわぁっ!!」


 水の澄んだ湖に、青々した木々。綺麗に咲いた色とりどりの花。リスやウサギが人間を怖がる事なく伸び伸び動き回っている姿に目を奪われていた私はーーはい、忘れてました。

 

 心臓を両手で押さえ、失礼にならない程度に笑顔を貼り付けて後ろを振り返る。

 表情が引き攣っているのがバレませんように。


 「レジャーシートはここでいいか?それとも湖に近づけた方がいいか?」


 「いえ、こちらこそ、すみません。見た事ない風景に目を奪われてすっかり、忘れ…、あ、私が敷きますっ!」


 あ、ぶないっ!!

 忘れてた。なんて失礼なこと言いそうになった…。


 真っ赤な髪に木漏れ日があたり、光効果でルドは更にカッコいい。何でも包み込んでくれそうな大人の雰囲気に危うく口が滑るところだった。


 ルドが持つピクニックセットを奪い、地面へ中身を撒き散らかす。その中からレジャーシートを見つけ出し、その場に敷く。


 無になるべし。

 後頭部に感じる視線は無視したまま、無になるべし。


 風に飛ばされないように杭を角に刺していく。


 ハンマー、ハンマー。


 無になろうとすると余計に動揺し過ぎて、焦ってしまう。

 早く終わらせてこの羞恥プレイを終わらせたい。

 ばら撒いてしまったピクニックセットの小山の中から手探りでハンマーを探す。

 

 「ーーあっ、たぁぁ…。」

 「……」


 金属やらプラスチック、紙などの感触とは違い生温かい感触。

 目の前にあるのは綺麗な金色の瞳。

 ゆっくりと視線を下げ、ハンマーの上で触れ合っている指先から血が一気に身体中を駆け巡りボンッと頬に熱が溜まる。


 「あうっ、す、すみません…。」


 叫ばなかったのを褒めてほしい。

 心臓がバクバクと速く動いている。

 今、顔を上げたら綺麗な瞳と目が合ってしまいそうで俯いたままこの状況下から抜け出せる方法を考える。


 頭が沸いてるせいで、いいアイデアなんて出ないけど…。


 先に動いたのはルドの方だった。


 「ハンマーは俺がやるから、散らばった荷物を片付けてくれ。」


 ルドはハンマーを握り、杭を地面に打ち付ける。

 

 カンカンっと響く中、黙々とばら撒いてしまった荷物を袋の中へ乱雑に投げ入れる。

 その心は荒れまくっている。


 やばい、やばい、やばいよぉ。

 バレたかな。焦ったのバレたかな…。


 ーー袋の中でガラスが割れた音がした。


 いや、いや、大丈夫。きっと、大丈夫。

 いつも通りにできたはず。


 ーー鉄製のフォークが袋を突き破る。


 カッコ良すぎる。

 指、長くて爪ツヤツヤしてた。


 あぁぁぁっー!!顔を左右に振る。

 だめ、顔に出しちゃだめっ。


 「……私だけ焦って、あっちは平常心かぁ。なんか悔しいや。」


 ーー最後のプラカップを投げ入れた。

 

 湖に足を入れて遊ぶニイナ。

 その可憐な容姿に、この世界の人は美しいなと。半年で肩下まで伸びた真っ黒な髪を弄る。


 モヤモヤが残るけれど、芽生えた小さな感情を隠すように両頬を叩いた。



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