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異世界人調査報告書。ルドside


 「こことは違う世界から来た女の子がいるんだけどさぁ、知ってる?」


 「ーーあ?違う世界だと?」


 「そう、違う世界。小さくて細くて、白くて、猫みたいな子。」


 「それ、ガセネタ掴まされてるんじゃないのか?隣国のスパイだろ。」


 執務室でのソファで、肘掛けを枕にし横になる部下兼乳母兄弟のキースは体を起こす。


 「いや、あの人見知りと対人恐怖症は演技じゃない。猫みたいに毛を逆立ててコチラの様子を窺ってる。」


 「本人が違う世界から来たと言っているのか?」


 「いんや、落ちてきた。」


 「あ?落ちてきた?」


 「そう、何もない天井から、クマのぬいぐるみに。」


 キースはほくそ笑み、指を上から下へ動かす。

 それに対して真っ赤な髪をした体格の良い男は、執務室の一番立派な椅子に座り書類にサインをする手を緩めない。


 「そんな怪しいやつ、拘束して事情を聞き出せ。」


 「いやいや、アキルド。お前そんなんだから令嬢達に怖がられるんだよ。」


 「お前は逆に色んな女に軽薄すぎる。伯爵家の三男としてのプライドはないのか。」


 「三男だからねー。長男は嫡子として兄妹から命を狙われることなく健在だし、次男はアカデミーの助教授として自立してる。まぁ、三男はお気楽なもんだよ。しっかり働いていれば誰にも文句は言われない。あっ、鬼上司の一人を除いてだけど。」


 「わかってんなら、仕事しろ。」


 持っているペンに力がこもり、ミシッと音が鳴る。


 「へいへーい。あっ、その書類の中にその子の情報を纏めた報告書を入れといたから確認しといて。」


 ソファから立ち上がり、緑の髪を整えたキースは気だるげに「バイバーイ」と手を振りながら執務室を後にする。


 何枚か書類を捌き、今しがたキースが話をしていた書類が見つかる。


 『異世界人調査報告書』


 ーー年、秋の9の月24。

 中央広場にある"ぴょんカフェ"にて、店内の天井から人間が落下。その人物は見たことのない黒髪に黒目、青白い肌をしている。

 ぴょんカフェの店長曰く、店員とのことだが嘘だろう。

 その人物が作った"ふわふわパンケーキ"と言う甘い食べ物は口の中でとろけ、とても美味だ。美味だが自分には甘すぎる。

 見た目は怪しいが、着ている服も清潔で手や体に傷もなく、剣を握れそうにない。まぁ、悪い人間ではないだろう。

 

 ーー年、冬の12の月10

 異世界人(くるみ)は、週終わりにやってくるようだ。

 くるみが来る日にはカフェの外まで並ぶ令嬢が後を絶たない。その中にも子爵家から伯爵家の令嬢や、持ち帰りを頼む従者、侍女の姿も見かける。

 数ヶ月が経ち、無表情で青白かった顔に血色が戻り、表情も豊かになったようだ。

 今日は、パンケーキの期間限定冬野菜セットを注文した。期待通りの美味しさだ。ほうれん草のクリームスープがパンケーキとよく合う。

 甘さを控えたパンケーキも美味だが、野菜が多い方が体にも良くて好ましい。


  ーー年冬の1の月7。

  雪がちらつく中、異世界見学へくるみを連れ出す。

 市場では常連なのか、店の店員がくるみに声をかけてきては品物を無償でカゴに入れて行く。笑いながらぺこぺこと頭を下げるくるみはまだまだ幼く、孫を見ているようでかまいたくなると皆が口を揃えた。

 魅了の魔石でも使ったのだろうか。

 帰りがけに頂いたバタークッキーがとてもおいしい。

 チョコチップクッキーも美味だが、自分には甘すぎるので執務室のお茶菓子に混ぜてみよう。

 お、アキルドがうまそうに食っている。甘党だからな。

さて、くるみの方は魅了の魔石を持っている様子もないから、白だな。


 ーー年春の3の月23。

 学校の春休みに入ったと笑顔を向けるくるみは、この半年で見違えるように変わった。

 顔色、表情は勿論のこと、細身だった体は女性本来の丸みを帯び、もっさりしていた髪型も纏めるようになり可愛らしい少女へと変わった。将来が楽しみだ。

 さて、今日はいつものメニューを頂く。常連となった今では「いつもので」と伝えれば出てくるメニュー。自分好みに合わせたメニューは、自分以外にもカフェを利用する客一人一人に合わせているようで大変満足していると聞く。

 そっと、テーブルに置かれた袋に入ったクッキーは、鬼上司へのお土産としよう。

 今日の新鮮なサラダにパンケーキなど全て美味で、くるみを疑う必要はもうないだろう。

 半年調査した結果、スパイではない、普通の少女、くるみの身は潔白である。


                     以上。


 二枚以上に渡る報告書を両手でぐしゃりと丸め、火付け魔石で書類の端に火をつけ暖炉に放り投げる。

 火の付いていない暖炉の隅で真っ赤に燃えた書類を忌々しげに眺め、深く背もたれに体を預け天井に向かい「ーーくそやろう。」と毒を吐く。


 チョコチップクッキー…。そうか、あれは異世界人が作ったものだったのか。

 人生でバタークッキーしか食べたことがなかった俺は、チョコが入っていることに驚き、一口食べるとバターとチョコの甘さに更に驚かされたことをよく覚えている。 

 バタークッキーしか世に出ていなく、町に出てチョコチップクッキーを探したが見つからなかった理由を理解した。


 あのやろう…。

 俺が甘党なのを知りながら、半年も秘密に調査するとは。


 通信魔石を取り出し、呼び出すのは報告書を作成したキース本人だ。

 満面な笑みで執務室に入ってきたキースに、舌打ちで出迎え、今後の異世界人に対しての対応策を伝える。


 「あの報告書では、わかりにくい部分が多数あった。お前の感情が書かれすぎだ。よって、異世界人がコチラにくる日にでも俺が直接調査に向かうことにする。」


 「ぶわっはっはっ、はっ、はっ!!わかりやすっ!」


 腹を抱えて笑い出すキースを睨みつける。


 緑の髪を刈り落としてやろうか。

 まぁ、そのふわふわパンケーキとやらを味見してからでも遅くはないだろう。もし、嘘の報告書ならその長くて邪魔な緑の髪を刈り上げてやろう。


 

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