安心したいので、提案があります。
「いらっしゃいませー。お好きな席へ…、あっ、キースさん。」
「やぁ、くるみ。体調は回復したかい?」
常連のキースとルドが全く店へ来なくなり、魔獣に襲われてから一ヶ月が経ったある日、緑色の髪を靡かせ、キースが爽やかな笑顔で来店した。
毎週会っていた二人が突然パタリと来なくなったことに寂しさを感じていた私は、キースの変わらぬ笑顔にホッと胸を撫で下ろす。
実は、魔獣から助けて頂いたことが迷惑でもう関わりたくないとか、アイツ面倒だと思われて来なくなったのかとハラハラドキドキしていたのだ。
「あの日は、ありがとうございました…。」
深々と頭を下げる。
キースがルドに頼み込んでくれなければ、私は確実にこの世界で命を落としていた。
「まぁ、何事もなく…あ、命に関わらなくてよかったよ。」
「ルドさんにも沢山ご迷惑をおかけしまって…。」
「あー、いいの、いいの。結局、怪我させてるし、あんなのに恩を感じなくていいよ。騎士ならもってこう、余裕を持ってスマートに悪者をやっつけて女の子を助けなきゃ。だから気にしないでー。」
私の頭をぽんぽん撫で、いつもの席へ向かうキースにこの一ヶ月間悩んでいた気持ちが少し軽くなった。
席についたのを確認し、レモンとミントが浮かんだレモン水をテーブルに置く。
「じゃぁ、いつものちょうだいな。」
彼は片手に持っていた本を開く。
お貴族様は本を読むのが普通なのだろうか。まぁ、日本でもカフェで本を読んだり、勉強したりが当たり前だった。
私はしたことないけど…。
ふふっ、と自分がインドアでカフェに行く友達もいないと自嘲的な笑みを浮かべる。
キースはふわふわパンケーキより、普通のパンケーキを好む。
二段のパンケーキに目玉焼き、ウインナー、グリーンリーフとトマト。今は夜だが朝食メニューを好まれる。
目玉焼きは固焼き、ウインナーはハーブとブラックペッパー。好みは人それぞれなので出来る限り覚えて対応している。
「ねぇ、くるみん。明日、お店お休みにして一緒にピクニック行きたいなぁ、なんて。思っちゃったりしちゃったんだけど…。だめかなぁ?」
私の隣でニイナがダージリンの葉をティーポットに入れて蒸す間、盛り付けをする私に上目遣いでおねだりをする。
あ、あ、あっ、ぶなぁーい。
可愛すぎて、動揺してウインナーが箸から滑ってしまった。
なんとかお皿の端に着地したウインナーは、捨てられることなく命拾いをした。
「どうしたの急に?」
「だってぇ、くるみん真面目さんだからこっちに来ても買い出しに外でるけど、殆どお店にいるだけじゃん。ニイナはすっごーく、助かってるけど…。くるみんと色々楽しみたいなぁ、ニイナ、くるみんと手を繋いでピクニックいきたい。」
あぁ、泣きそう。
顔を伏せて涙を堪える。
生まれて17年、誰にも誘われたことがない。父が亡くなってから実の母と一緒に買い物を行ったことも、ご飯を食べに行ったこともない。
「えっ、えっ、えっ、あ、くるみん…。えっ、嫌だった…?」
頭をぶんぶん振る。
「勿論いくよっ!お弁当は私が作るからねっ、ニイナの大好きなイチゴクリームサンドウィッチ作るね!」
顔を伏せたことで不安になってしまったのだろう。慌てて顔を上げて不安そうな表情をしたニイナに笑いかける。
私の返答に飛び跳ねて喜びを露わにした彼女に胸がホッコリする。
舞い上がる気持ちを深呼吸で落ち着かせ、ニイナの入れた紅茶と一緒にキースへ運ぶ。足がふわついているのは気のせいじゃない。
うわぁ、嬉しすぎて鼻歌を口ずさみそうだよー。
やばい、やばい、スキップしそうぅ。
そのままの勢いでキースのテーブルへ向かうとそこにはガラステーブルに肘をついてニヤついている彼と目が合う。
「ねぇ、くるみ。可愛い二人で出かけるの危ないからさ、ボディーガードいらない?」
「ーー必要ないです。」
私たちの声が聞こえていたのか、キースはあり得ない提案をしてくる。
それを即拒否した私に、キースは腹を抱えて爆笑する。
よくわからない。
舞い上がっていた気持ちが、一瞬で収まった。




