国を滅ぼされた王女はニンジャに弟子入りをする
ある日、粗末ななりをした女が現れたで候。
「ニンジャマスターのジュウゾウ様ですね」
「……」
「お願いがあって参りました」
裸足の女。山奥に居を構え修行に勤しむ我の根城を見付けるまで、どれ程山を駆けずり回ったのだろうか。かなりの意志力を感じるで候。
「私の国は重臣の裏切りにより、敵国に全てを奪われました」
「……」
「国王である父も殺され、家族は散り散り。戦争にこそなりませんでしたが、国民が無事で居るかどうか、それすらも危うい状況」
「……我には関係の無いことで候」
「何かあればジュウゾウ様を尋ねよ。父の書き置きにはそうありました」
「……」
以前オフ会で意気投合に候。
「どうか私を弟子にして下さい!! 貴方様のニンジュツで敵国の大将を謀殺したいのです!!」
「止めておけ。貴様のような華奢で憎しみに囚われし者に、務まるものではないに候」
「いえ、弟子にして下さるまで私はここから動きませぬ……!!」
女、土下座をし微動だにせぬ構えで候。
かのようなボロ布を纏っただけでは夜は冷える。獣も出る。危なきに候。
「……あそこに瓶がある。あれが満たされるまで水を汲んで参れで候」
「……! は、はい!!」
「それと草鞋を履け。くれてやるに候」
女、桶を持ちて川へ向かいけりに候。
否、瓶の底には亀裂。決して満たされることは無い。
「あ、そうだ」
「何事だ、早う向かえに候」
「──お師匠様。これ、底にヒビが入ってますよ?」
女、瓶を覗き見事に気付くこと早しに候。
「直しときますね」
「……すまぬ」
女、今度こそ川に向かいけり。
「……熊と出くわさぬよう、見張っておくか」
女、その細腕で水いっぱいの桶を持ち、山を登りに候。
「──キャッ!」
──バシャン
「折角汲んだ水が……」
女、蹌踉けた拍子に水をこぼし自らも…………濡れ透けに候。
「も、もう一度……!」
「女」
「お、お師匠!? い、いつの間に……!!」
「風邪を引くと良くない。水は明日で良い」
仕方なく女を連れて根城へと赴くに候。
「山の中にこんな立派な住処をお作りになられたのですね。お師匠様お一人で作られたのですか?」
「ニンジャ故……」
「流石です!」
「これを着よ。忍び装束だ」
「ありがとうございます!」
「丈夫で暖かく、寝冷えもしない優れ物に候」
「……っしゅん!」
「いかん。先にしゃわーを浴びるで候。水圧はべりーすとろんぐ。安心に候」
「すみません、ありがとうございます」
世話のかかる女。実に珍妙な者を拾ってしまったに候。
「すみません、お先しゃわー頂きました」
「……女、腹は減っているか?」
「はい! 三日前に食べた青椒肉絲が最後です! 流石お師匠様、分かりますか!?」
「……ニンジャ故」
「あ、私ご飯作ります!」
「無用。昨日のかれーをちんする故」
「わぁ、良い匂い。これもお師匠様が?」
「……ニンジャ故」
女、一人で米を二合、ぺろりに候。
余程腹が減っていたと見える。
「女、べっどを使え」
「そ、そんな! お師匠様は!?」
「そふぁで寝るに候」
「そんなっ! せ、せめてお師匠様もべっどで……」
「ニンジャ故、それはならぬ」
女にべっどを使わせ、寝入ったところを見計らい外へ。山歩きで疲れたに候から、起きることはまず無かろう。
「……どれ、敵将を仕留めてやるか」
赤子の手を捻るよりも容易い仕事だったに候。
「──ふあっ! 何時!? お師匠様!? ここはどこ!? お師匠様のべっど! 私は誰!? 亡国の王女ミスティ!」
「朝から騒がしい女だ」
「ああっ! お師匠様! 天井からぶら下がって……修行ですね!?」
「……ニンジャ故」
「凄い……!! どうか私を弟子にしてください!!」
「その必要は無いに候」
「えっ?」
「敵将は死んだ」
「ええっ!?」
「昨夜、腹痛で全身から腸が飛び出て死んでおったそうだ」
「……お師匠様、まさか!?」
「……ニンジャ故」
「お師匠様……!!」
──ガバッ
女、我にしがみつきに候。
椋の実のような、良き香り。実に柔らかきその肌。やはりニンジャには向いておらぬで候。
「女、国へ帰れ」
「いえ。ニンジュツを一つ覚えとう御座います」
「ほう? ニンジュツに何を望むで候?」
「……お、お色気のジュツを少々」
「……」
修行が始まった。
「彼シャツの端を持って、脚はこう! そして柔らかく意地悪な感じで!」
「……雨、止まないね」
「そこから! 濡れた髪をかきあげる!」
「……こっち来て一緒に温まろう? ね?」
「べっどを優しくぽんぽんするのを忘れるなで候!!」
「すみません!!」
「手を後ろに組んで覗き込む!」
「あーあ、ふられちゃったね……」
「前を向いて手は頭の後ろ!」
「君をふるなんて、見る目無いんだね、あの子」
「止まって! 右手を取って渾身の笑顔!」
「ね、一緒に何処か行こっか! お姉さんが奢ってあげるぞ♪」
「おっけー!!」
「今日……親……居ないんだ」
「ちゃっと罪悪感を感じながら!」
「ねえ、君さえ嫌じゃなければ…………」
「じれったい感じで!」
「いいよ♡」
「手はそっと重ねる!!」
修行は熾烈を極めたで候。
しかし女は見事について参った。
「女、見事なり。もう教授することは何も御座らぬで候」
「お師匠様……! 私はお師匠様の傍にいとう御座います!」
「泣くな女。後は好きにせよ」
「お師匠様! 私をどうか!」
「……ニンジャ故、妻は娶らぬ」
「でしたら、最後にニンジュツを……!!」
女、忍び装束からばにーがーるへ。
……ばにーがーる?
「あなた♪ お疲れさま。お仕事大変だったでしょ?」
「……」
片耳の折れたうさ耳に候。
腰に手を当て、かふすが実にはえりけり。
れっぐかっとも鋭くなく、嫌らしさが無い。
「ご飯出来てますよ♪」
尻と丸い尻尾が分身のジュツのように揺れる。た〇り倶楽部で候。
「あ、もうっ! ご飯食べてから、ね?」
「……」
「…………あなた、きて♡」
俺、ニンジャ止める──!!
「うむ、今日も味噌汁のジュツが冴えているで候」
「ふふ、ありがとう。あ、そろそろ時間ですよ? お仕事行ってらっしゃい♪」
「行ってきますの接吻のジュツを所望するで候」
「あらあら、すっかり甘えん坊さんなんですから。ふふ、今日の夜は?」
「巫女さんで」
「もうっ! 何時に帰ってくるか聞いたのにぃ!」
「早く帰る為、ぷれぜんは三秒で始末する。じゃ、行ってくるで御座るで候」
「行ってらっしゃい♡ 気を付けてね」
「うむ」
サラリーマンも悪くない。
どれ、敵の課長さんの首を取ってくるで候。