(1)
「……どうして」
女性の顔がみるみる歪む。もう何度も同じような表情を見てきた。そして同じようにどうしてと言葉を漏らした。悲しいかな、慣れというもので心は良くも悪くも鈍くなった。ただ、いまだにどうしてという問いに答える事は出来なかった。
「ちゃんと、ちゃんとしてきたじゃない」
原因は必ずある。だがそれは当人達にしか分からない。
彼女は子供を身籠っていた。もう半年もすれば出産を迎えるはずだった。だがそうはならなかった。彼女の胎内で、生まれてくるはずだった命は事切れていた。
胎児死亡。それ事態はあり得る事だ。母体の調子等、様々な要因によって引き起こされる。人であるならば、生物であるならば、命が芽生えればいずれその灯は途絶える。それが何十年と続く事もあれば、数か月、数日、数時間で消える事もある。
理として何も間違った事は起きていない。ただ、不可思議なのだ。彼女のような例が今世の中で相次いでいる。ただの胎児死亡ではない。彼女の中でその命は、へその緒をちぎり、首にぐるぐるに巻きつけた状態で亡くなっていた。まるでそれは、首吊り自殺のようだった。
「……SB、ですね」
医師である私が告げる事が出来たのは、たった一言のみだった。
SB。スーサイドベイビーズ。自殺胎児。
ここ数年、生まれる前の赤子達が原因不明の自殺を始めていた。