ムッツリ
「……」
おはようございます。……いや誰に挨拶してるんだ俺は。まぁそれもこれも、睡眠から目覚め異変に気付き、瞼を閉じたまま寝てるふりをしているせいだろうな。
「……スゥ」
嘘の寝息をたてて演出する。
「スゥ……」
今の俺は右手に全神経を集中させている。それは何故か、答えを思い出してみよう。
「……」
あの後、初めて自身が経験した戦闘で思っていた以上に緊張していたのか、ログハウスに戻ると一気に緊張の糸が切れた。気づけばアーマーも解除されていて、椅子に座りガブリエラが用意した水を飲んだ。
「スゥ」
疲れのあまり、ナッシュが言っていた再調整うんたらは聞き取れないでいた。もうどうしようもない俺の状態を鑑みたガブリエラ。寝室のベッドへと魔術で浮かされ運んでもらった。
「……すぅ」
あまりの眠たさに記憶が曖昧だったが、そこは男のサガ、見聞きを逃さない。
「私も一緒に寝る」
と、言ってガブリエラが脱ぎ始めたのだ。当然ナッシュとひと悶着あったようだが、俺は聞き逃さない。
「裸じゃないと寝れないの」
と、ガブリエラの発言。それを最後に俺の意識が途絶えた。ここまでくるともうわかる。今、そうまさに今、俺の手には柔らかなものが確かにある!
「すぅぅ」
もう前の事だがナッシュに言われた。擁護しがたいむっつりスケベだと……。当時意味がハッキリ理解できず、むっつりスケベの意味を調べ、自責の念に苛まれた。
「……」
だがここは異世界トゥインクル。見た目も言動もはじけてるナッシュがいるんだ。俺も少しははじけたい……! だがそれでいいのか? やってしまった俺は後悔するんじゃないのか?
だがっ! だがっ!
「ッッ~~」
人間体のナッシュが俺に言ってくる、擁護しがたむっつりスケベと! だがしかし、同時に当時の先輩のお言葉が俺に響く。
――男ってのは下半身で生きてるんだよ。
「!」
――揉む時は優しく揉むんだ。
「!!」
お言葉、ありがとうございます先輩! 例え先輩がPSYで視姦しお縄になった経緯があったとしても、俺はあなたに感謝します!
マリオン! 行きます!
「ッ……ッ……」
ぉお、ぉおお!
「ッ……ッ……」
優しく揉んだ時のこの感触! 指が包み込まれるようなこの感覚! 柔らかくもあるが張りもある! 揉む効果音が聞こえてきそうだ! 凄まじい……。圧巻。サイズももちろんだが、この柔らかさ! ん~タマラン!
「ッ……!!」
なな何をしているんだ俺は……! 事故とはいえ寝相で掴んだ胸を揉むなんて……! 最低だ俺はッッ! こんなにも変態だったのか俺はッッ! 存分に楽しんでしまった……。
「……」
起きて謝ろう起きていたら謝ろう。真摯に、正直に謝罪すればガブリエラも許してくれるだろう。
……まぁガブリエラの性格上、悦ぶ可能性は捨てきれないが。それでも謝罪だ、俺を汲んでくれ。
「その、ガブリエラ」
目を開けガブリエラの顔を探し謝罪__
「……」
「……へた。演技がヘタッピだ」
「…」
「乳を揉んでる気でいたんだろ?」
「」
「ザマァああああああああ!」
うん、泣いた。
◇
「私と出会った経緯を知りたいの?」
机に胸を乗せているガブリエラが言った。
「そうだ。正確に言えば、ワープしてきた僕たちをどうやって発見したかだ」
話の流れで今の質問になったが、ナッシュの質問には俺も同意見だ。安全な場所が目的地なのに、何らかの作用でワープ先がここ、トゥインクルに落ち着いた。
ワープ先の変化作用とガブリエラとの因果関係は今は置いておくが、どうやって俺たちを見つけたか聞いてみよう。
「ふーん。わからない?」
「わからないから聞いてんだよ!」
「マリオンはどうなの?」
「隣に同じだ」
もったいぶるガブリエラ。俺の顔を見るや否や、手を腹に持っていき摩る。
「ッ! おいガブリエラ!」
「ヒントはコ~レ」
下腹部の紋が熱い。ガブリエラが対の紋を摩っているからだ。だんだん体が火照り、顔が染まっていく。
「ック! やめてくれ!」
「ッ、私が言った言葉、ッ覚えてる?」
「言葉ッ?」
なんだ、何を言ってたんだ。思い出せッ……。ッダメだ! 頭がぼーっとする!
「運命の人ッ」
「えッ?」
顔がどことなく染まり、ガブリエラの雰囲気が蠱惑で妖艶になってきている。そして俺の隣で目を瞑ってナッシュが震えていた。
「マリオンと繋がっている運命の赤い糸ッ、辿って見つけたのッ」
言い終わると手を机の上に持ってきて一息ついている。やっと俺も解放された。
「ふぅ」
俺も一息つく。辛抱が堪らなくなるので本当にやめてほしい。後で少しお願いしてみよう。聞いてくれるかわからないが。
そう思っていると、隣が爆発した。
「大概にしやがれ! まともな答えが出ると思って我慢したけどそれが答えか!? ぶっ殺すぞクソアマ!! ふざけんじゃねぇ!!」
口の悪い饅頭が物凄い形相で怒り狂っている。
「ふざけてなんかいないわ。素敵でしょ?」
「いいかぁ!? ここがめくるめくファンタジーな世界だったとしてもだ! 運命の赤い糸なんかありゃしねーんだよ!」
「言いきるのね」
「矛盾してんだよ!」
矛盾?
「なあにが赤い糸だ! 例え本当にあったとしても! それを確認できるのはヤッタ後に出る淫紋のはずだろうが!」
「「あっ」」
今ガブリエラの素がでた。口元を手で隠している。俺も同タイミングで口走り、それを見たナッシュがさらにボルテージを増した。
「我慢して損した! ッッ~~クソ! だんだん思い出してきたぞ! おい牛乳! マリオンの体は大丈夫なんだろうな!」
「なんの話?」
「最初だよ最初! その汚ねえデケェケツ振ってマリオンに飲ませた液体の話だ!」
「ああ、アレね」
「え、ちょ、なんの、どういう事だ……!」
二人は何を話しているんだ? 会話についていけない、二人についていけない。
「聞けマリオン! この女は口移しでお前に何か飲ませた!」
「浸透する媚薬よ」
「え、口、媚薬?」
聞いてるだけで恥ずかしくなる話、俺の知らない情報が雪崩れ込んできた。
「私が調合したものだから大丈夫よ。効果が切れれば何も問題ないの」
「全くもって信用ならん! 異常なんだよ! 自然覚醒していないマリオンの○○がみるみるたつわけねーだろうが!」
「そこは覚醒したでしょ? 自信作なの。そうならない方が異常よ」
「うっさい! ヨガりやがってこのメス豚ぁ!!」
「二人とも――」
やめてほしい。本当にやめてほしい。俺の知らない恥ずかしい情事を槍玉にあげないでほしい。
「声がデケーんだよ!! それに――」
「はぁ。魔術をかけた私の気持ち、わかるでしょマリオン」
知らない。俺に振らないでほしい。……外の空気、自然がいっぱいで美味しそうだ。うん。外に出よう。
「――飛び散りすぎて震えるわ!! お前のアレは噴水か!? 出すぎなんだよ気持ち悪! かぁぁっぺ!」
「媚薬の効果もあったけど、運命の人に出会った喜び、満たされる心、濡れるに決まっているでしょ。女の悦びを知らないのね」
「本の世界か! お前が特殊すぎるんだ! だいたい気に入らねえんだよ――」
扉を閉じ、外に出ると雪が降っていた。
「スゥー、ハァー」
喉、肺に入る冷たい空気が気持ちいい。空を向くと、綺麗に輝く星々が見える。
「ああ」
トゥインクル。剣と魔法の世界。なんて純粋で綺麗なんだ。
「俺、頑張る。がんばる! だから見守ってくれ!」
希望の名の星、ホープスを見ながら叫んだ。
「アハハハ」
あれ、もしかして俺。精神に来てる?
「ああ、……がんばろ」
ちょっと経ってたった後、ガブリエラが本当のことを言ってくれた。
空間の揺らぎを魔術が感知し、様子を見に来ると俺たちが倒れていたらしい。
俺の状態が悪く、ナッシュが饅頭だったので、ここに簡易な家を魔術で建て療養してたと言っている。彼女の瞳を見ると嘘は言っていない風に思える。
「ふん! もういい。本当のこと言ったみたいだし」
「ごめんねマリオン。ついからかっちゃうの、反応が可愛くて」
「う、うん」
ナッシュの怒りも収まり、謝罪も受けた。まぁ俺からは一つ、状態が悪い人間に媚薬を飲ませ、あまつさえ行為をしたガブリエラ。どうかしてると思うのは俺だけなのか。それともここではそれが通なのか……。まぁおいしい思いをした者としてそっと蓋をしておこう。
「ガブリエラ。もう一度聞くけど本当に僕たちだけだったんだな?」
「ここにいたのは二人だけよ」
先ほど聞いた質問をナッシュがする。その内容は俺たち以外は誰もいなかったのか、だ。
「……マズいなぁ」
「なんだよ、なにが心配なんだ」
「実はさぁ、ワープをしたのは僕たちだけじゃないんだ」
「他に誰かいたのか?」
半透明なウィンドウのデータを見ながら俺へ返事した。妙に難しい顔をしている。
「人じゃない。マリオンと同調するサポートロボも一緒だったんだ。それも四機」
「サポートロボ?」
そんなのも用意していたのか。徹底してると言うか何というか、当時のナッシュは凄い勢いだったのかもしれない。
「そうだ。サポートと言っても戦闘向けのロボもある。Photonをぶちのめすために創った」
「戦闘向けかぁ。同調するなら動いてないんじゃないのか? 少なくとも俺は接触していない」
「全機能を行使するのに同調が必要なんだ。緊急起動し、護身するだけなら勝手に動く」
説明するナッシュから汗が出ている。確かに、Photonを斃すためのロボなら相当強いはずだ。懸念してるのは、間違って人に害をなす可能性がある、と考えているのだろう。
「ここ以外にも他の場所や別大陸で歪みを感知したわよ」
「え?」
「同時に感知したの。他に四つ」
「それを先に言え馬鹿野郎!!」
カップをおろしたガブリエラに饅頭が吼える。
「どんだけマリオンしか見てねーんだよ!」
「すぐに感知したのがマリオン。魂の相性もいいし凄く好き愛してる。夢中になるのは当然じゃない」
「お前の感情なんて知らねーよ! 僕の無駄に悩んだ時間を返せ!」
「……」
ガブリエラの何気ない言葉にドキドキしながら思う。どうやら俺たちの当面の目的は決まったようだ。各地に散らばったサポートロボの回収に行く。
「言い合いはここまでよナッシュ。話が進まないわ」
「ッヌ! ぐぬぬ……」
「ガブリエラ。魔族が使っていたように近くの町まで魔術陣でワープ……転移出来ないのか?」
「可能よ」
よし。これなら比較的に早く回収できそうだ。ナッシュのサーチとガブリエラの魔術的サーチ、二重で探すとさらに良い。
「でも転移なんて非常時以外は展開しないわよ」
「お前なぁ、ロボが人を傷つけるかも知れないだろう? 手遅れにならないうちに回収をだなぁ」
「それはあくまで可能性。あなたの事だから、そんなことは絶対起こらないようにしたはずよ」
「んー悪意ある攻撃には反撃するけどな」
それを聞いたガブリエラが椅子から立つ。手のひらに魔術陣を展開させると、中から翼が生えた馬、小さなペガサスが出てきた。
「ここはトゥインクル。あなた達でいう異世界でファンタジー」
小さなペガサスが部屋を駆け巡る。通った後には虹が架かり花が咲く。その様子を目で追い楽しむ。
「この世界の一切を五感で感じなさい。きっと心が豊かになる、そういった旅をしなさいな」
確かにガブリエラの言う通りだ。人工物で溢れた現代では絶対に体験できない事ばかりなのは確定している。チラリとナッシュを見ると――。
「ぉぉおお……」
目がキラキラしている。これは同意見で間違いない。
「さあ行きましょうか!」
「よし!」
「魔王城へ!」
「……え」
……え?
昔企業のインターンに参加していた時、そこの偉い人が「仕事終わりのビールは1杯千円出しても飲みたい!」て言ってた。(* ̄- ̄)ふ~んって思った。
面白い、続きが気になる、1杯千円は高すぎぃい! そう思ってくださった方、下の☆の評価をお願いします。ブックマークも頂けると最高です。