起動
魔法陣――いや、魔術陣。
初めて見たが凄いの感想しか出ない。同時に圧倒された。魔女のコスプレかと思っていたが、本当に魔女、魔術師なんだなガブリエラ。
「ここがどこかわかってんのか? 魔術師ぃ」
「剛魔王ドバンの領地でしょ」
魔王、剛魔王。まさかその単語が本場で聞けるとは、これは本格的にファンタジーな世界だな。
「知ってこの場にいるのか、あぁそう。……死にに来たか?」
「ッ!」
目を細め声を低くし、雰囲気がガラリと変わった。初めて受ける本物の殺意に、俺は冷や汗をかく。
「なんかマズくね」
「……」
ナッシュの言う通り、そもそもだ、ここは魔王の領地らしいじゃないか。しかも許可なしの不法侵入。……かなりマズイ気がする。いや、マズイ!
「よっと。 俺たちも不運だよな。ゲームで言ったら終盤じゃんココ」
「ああそうだ……」
俺の頭上に乗ってきたナッシュ。不思議と重さは感じない。なぜ頭へと思ったが、何やらウィンドウを出してデータをいじっている。正直、ナッシュの行動にツッコむ余裕は俺にはない。
「あなたこそ、私を知ってる?」
「ぁあ? 知るわけねぇだろ魔術師」
「そう。……いいわ、引き返してくれたら見逃してあげる」
「ッハ! 言うじゃねえか!」
なにを言っているんだガブリエラ! 魔術師としての君の強さは知らないが、相手はバリバリの前衛。大剣を携えた姿は今にも襲ってきそうだぞ! それなのに挑発してどうする!
「ガブリエラ!」
「大丈夫よ」
確かな自信が振り向く表情と言葉で伝わってくる。撃退できるのか? 物凄く強そうだが……。
「おいマリオン。あのゴリラ女、上ランクPsychicer並に強いぞ」
「……マジかよ」
データを見ながらナッシュが言う。
上ランクのPSY、その強さに個人差はあるが、どれも一般人からすると化け物並みに強い。それこそ地形を変える程に。
本当に大丈夫なのかガブリエラ!
「ここじゃ何だから、着いてきなさい」
ガブリエラが宙に浮かぶ。
「別にここでもいいが、まぁ乗ってやるよ魔術師!」
狂気じみた笑顔を向ける女。それをものともせずに宙に上がっていくガブリエラ。チラリと俺を見て眉を器用に上げた。余裕綽々と受け取れる。
「ッヘ! ――あ、おい」
「っなんだ」
ガブリエラに着いていく態勢を崩し、思い出したかのように話しかけてきた。
「あの魔術師をぶっ殺したら次はお前だ。まぁ顔は良いから奴隷として飼ってやってもいいがな」
「……」
「それとお前ぇ」
「ん? 僕?」
ナッシュが余裕を含む返事をし、女を見た。
「お前は……お前は……、うん」
ナッシュの姿をじっくり見たのか、どう言っていいのか困った顔になっていく。しばらく言葉を詰まらせ、何事もなかった様に跳躍した。
「僕にはないのか!」
「そこじゃないだろ!」
ツッコんでしまったが、なぜこんなに余裕なんだ。俺なんて奴隷にすると言われ脂汗をかいたんだぞ。
「ナッシュ、なんでお前は余裕なんだ。教えてくれ」
「ん? 言ってなかったか? 最高傑作のマリオンには漠然とした敵意を感知して――」
またしてもナッシュの言葉が遮られた。デジャブ、先ほどの爆音が辺りに響いた。
「ヤバいぞナッシュ……!」
「もう一人来たか」
舞に舞う土煙から出てきたのは男だ。ひしゃげが残る服装に、煙がたっているタバコらしきものを咥え、普通の人間ではない証拠の巻角が頭部から生えている。
「ったく、面倒な女だ。やる気なんて出さなくてもいいのに。ただの偵察だろったく」
愚痴を溢しながら俺を見据える男。特徴的な角から思うに、ゲームで言う魔族的な種族だろうか。
「んで? おたくどちらさん」
ぶっきらぼうに質問されたが、それはこちらのセリフでもある。さっきの女と違い、こっちの男は話し合いが出来るように思える。ここは穏便に済ませた方がいい。むしろ戦えない俺はそれしか選択できない。
「初めましてぇ、マリオンです。いやぁ先ほどの女性と違い、随分と紳士的で驚きましたぁ」
「うん、あそ」
「最初に断っておきまずが、自分たちに敵意はありません」
「ふーん」
偵察と言うからには仕事なんだろうが、全くやる気を感じない。でもそれは好都合。やる気なんて出さずに帰ってくれ!
「ん? 自分たち? おたく、それ手なずけたスライムじゃないの?」
「……え」
なにを言っているんだ?
「なるほどなマリオン。どうやら僕の事をイケメンスライムと勘違いしたらしい。あ、どうも。ナッシュでーす」
「……」
みるみるうちに肩が下がり、唖然とした表情になっていく。咥えているタバコが今にも落ちそうだ。余裕があるナッシュがフランクに挨拶した。俺からすればそう言った波風は立てたくない。
「ほんとすみません無礼な態度をとってしまって! 寛大な心で許してやって下さい! 彼はただの饅頭なんですぅ!」
「おいマリオン! 僕の事を饅頭だって!? 無礼なのはマリオンの方じゃないか!」
「このバカ! 波風立てようとするな!」
「……」
頭上で暴れるナッシュを制御するため、態勢を変えながら男を見る。タバコを挟んで口から放してるあたり、男は落ち着きを取り戻したに違いない。
「……フー、もういいわ。」
「!」
「早く娘に会いたいし――」
(やったぞ! なんとか帰ってくれる! 後はガブリエラを待つだけだ!)
そう喜んでいると、目の前に薄い膜が波紋し、何かが横を通り過ぎる。痛みを感じると頬から血が流れ出た。
「ッ!!」
「ん? 外したか。まあいいわ。帰るわけないだろ、おたくら、怪しすぎ」
ヤバい! マズいって!!
「おたくが言ったように、先に来てる同期がいないの。ちゃんと居た形跡はあるのにな」
割れた地面を指でさしてめんどくさそうに言っている。
「まっ、見た目通り同期はそこそこ強いわけで、どうしてもおたくにやられたとは考えにくい」
「……ッ」
「考えられるのは他に戦える奴が居たってことだ。まぁ脳筋なんで釣られてどっかに行ったんだろうさ、戦えないおたくから遠ざけるために」
言い終わると同時に遠くの方で爆音が響いた。そして男は「な?」と俺の確認を取るように呟いた。
「逃げた方がいいかも、どう思うナッシュ」
「……」
「ナッシュ?」
小声でしゃべりかけるが、ナッシュの様子がおかしい。小刻みにワナワナと震えている。
「――げろ」
「え、なに?」
「逃げろマリオン!!」
「ックソ!!」
ナッシュの叫びで振り返り、全力で走った。敵に背中を見せているのに、追ってくる気配がない。
「召喚、グリードハウンド」
後ろをチラリと見ると、遠くに離れた男が何か呟いた。地面に魔術陣が浮き、中から化け物、モンスターが出てきた。毛並みは鋭く口からは蒸気が漏れ巨大。元の世界では見たことのない狼が一体、また一体と増えていき追ってきた。
「GAAAUU!!」
「GOUGAA!!」
後ろに迫るは明確な死。唸り声を聞くと焦りが増し、脚に力が入った。
「ッハッハ!」
「そのまま走り続けろマリオン! 今最適化中だから頑張れ!」
「ッハ! さ最? なんだって!?」
「とにかく走れ! あいつの強さはゴリラ女以上だ! 歪曲バリアが抜かれた!」
「バリア!?」
木々を縫うように走る続ける俺。足取りは軽く、景色が後ろへ流れていく様に感じる。
「ングッ! 思ったんだけどさ! ッハ!」
「うん?」
「なんか俺、速くない!?」
狼が追いかけてくる気配は確かにする。唸り声も聞こえる。だが追いつかれる気配がない。距離が縮まるどころか離している。
「最高傑作のサイボーグだからな」
「ッハ! ッハ! こんなに脚が速かったら最高だな!」
追いつかれない事をいいことに、心の余裕が生まれた。もしかするとガブリエラが帰ってくるまで逃げ切れるかも!
「――ヤバ! シールド!」
「ッ!」
ナッシュが叫ぶと小さな盾が一瞬で出現し、何かを防いだ音をたてて大きく凹んだ。そして役目を終えた盾が露として消えるが、通り過ぎた木々が爆ぜていく。
「なに今の!?」
「あいつの攻撃を防いだ! 最初に頬を掠めたやつ!」
「ッ!」
思わず頬を撫でる。だがあるはずの傷口が無い。
「ナノマシンの効果だ! 今は狼に追いつかれないように走れ! あいつの攻撃は僕が防ぐ!」
「ああそうしてくれ!」
走るのが精一杯であいつの攻撃は対応できない。ナッシュがやってくれるなら全力で逃げるだけだ!
「シールド!」
「ック!」
幾度も後ろで盾が凹む音がする。あの男も躍起になって攻撃しているのか。
「ック! ッおいマジか! このまま行くと崖だぞ!」
「!」
ここに来て崖。ここまで逃げて崖! 大きく曲がると狼に追いつかれ兼ねない! そうなればこの連携はなし崩しだ! ッどうしたらいいんだ!!
「クソッタレエエエ!」
「そのまま崖を跳べマリオン!」
「はあ!?」
ついにとち狂ったか!?
「僕は言ったよなマリオン」
近づく――
「最高傑作のサイボーグと」
崖が――
「だから叫べ、叫ぶんだマリオン!」
地を蹴り、崖を跳ぶ――
「――」
「――」
体に残る浮遊感。それが無くなり、ナッシュが離れ、地の底へと落下し始めた。
そして最後にナッシュが俺に送った言葉、それを叫ぶしか選択肢は無かった。
「ウェイクアアアアアアップ!! 』
瞬間、光に包まれる。そして脳に直接流れ込む情報。体験した事のない、戦闘、技術、闘う術。何人も、幾人の体験が体に馴染む。
『ッ!!』
そして理解するナッシュの想い、俺たち家族を愛した心。至極色の鎧を身に纏い光を越え、ナッシュを迎えに行く。
『――!』
「――!! ――!!」
落下するナッシュを抱き寄せ頭へと昇らせた。定位置におちつくと、ナッシュの顔に俺と同じ頬まで被ったアーマーが装着する。
足裏と背中のバーニアを噴かせ、風を切りながら先の崖上へと浮かぶ。
「GURAAA!!」
崖を跳び、牙並ぶ大口を開けて襲い掛かってきた。
『――ハンマァァァアア!!』
一瞬にして組み立て現れた巨大ハンマーを手に、勢い任せに振るう。
「KYUN!!」
派手な音を立てて叩き落した狼は、ピクリとも動かず霧のように消える。
『ッシャア!!』
これが力! ナッシュがくれた力! ナッシュが創った力! 牙を持たない俺を、牙を持つ俺へと創った!
「BuskerArmor! 大道芸見たく様々な武器を駆使、創造するアーマーだ!!」
『ああ!』
「最初のアーマーとしては、文句ないだろ?」
『もちろんだ!』
狼が跋扈する最奥で、魔族が睨みを利かせている。
『乗り越え、切り抜けるぞ……!』
「当然!」
バーニアを噴かし、敵に突っ込んだ。
ああこんな感じの小説なんやぁ……。ほな!
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