第2話 阿鼻叫喚
正直......『EMA探偵事務所』と『ヴァローナ』は敵対関係。それぞれの組織に所属する2人も、当然の事ながら敵対関係。しかし今の2人の間には、組織を超えた別の感情が芽生えていた事も事実だった。『友情』......とでも言うのだろうか。
美緒が長々と発したその言葉は、『ソフィア』を逃す為の虚言だけに止まらず、ディアナの今後を案じたそんな『友情』からくる忠告の意が多分に含まれていた事は間違い無い。そんな美緒の親心に対し、ディアナも決して凡人では無かった。
「確かに......そうだな」
一言そう言い残すと、ミーオに背を向け不貞腐れた表情で座席へと戻ってしまった。
全く、素直じゃ無いんだから。フゥ......落ち着きを取り戻したディアナを目の当たりにし、思わずミーオは胸を撫で下ろす。しかし本当の修羅場はその直後に訪れた。
ドッカーン!
突如、けたたましい爆発音が! 列車は激しい振動と共に、気付けば斜め45度に傾いている!
「だっ、脱線する!」
誰かがそう叫んだ時には、パターンッ! 見事車両は転倒し、前方車両に引き連れられながら激しく谷を転げ落ちているではないか! 残念ながら列車は車と違ってシートベルトなる安全装置は装備されていない。
「うわぁ!」
「いてーっ!」
「死ぬ......!」
無重力と化した列車内は正にパニック状態。首を折って即死する者、窓ガラスを突き抜け崖下へ転落して行く者、荷物に押し潰され圧死する者等々......気付けば、その空間は地獄絵図。想像を絶する阿鼻叫喚の世界が広がっていた。
それは、下り坂に差し掛かり正にマックススピードに差し掛かっていた矢先の出来事だった。やがて、全ての車両は森の木々をなぎ倒しながら漸くその動きを止めたのだった。
白銀の世界にもくもくと立ち上がる黒煙。更には所々からオレンジ色の火の手が既に上がっている。これは明らかなテロ行為だった。一体、誰が何の為にこのような残虐行為を行うに至ったのか? やがて、薄れゆく意識の中でかすかに声が聞こえる。
「ディアナはどこだ?! 絶対に居る筈だ。探し出して血祭りにあげろ!」
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ......バキッ。ディアナの姿を求め、辺りを走り回る男達はその時、何かを踏み潰した。それは......血に染まった黒縁メガネだった。




