第5話 4人
「ちょっとディアナ......もう疲れた。どっか座ろうよ」
「こんだけ探して見付からないんだから、きっとこの列車には居ないって事だな。ちょっと座るか。でも結構席埋まってるな」
「あそこ、2人分空いてる。良かった......」
そう語りながら黒縁メガネの日本人女はなんと! ヴィクトルとソフィアの席を指差していた。タッ、タッ、タッ......二羽の『カラス』が瞬く間に歩み進んでくる。
な、な、な、なんと!『MAD″ディアナ』と『カラスシール女』がこの座席にやって来る! 思わず心の中で十字を切る2人。もうこうなったら開き直るしかない。
「ちょっとごめんね。ここ座らせて貰うよ。あれ? 君達はさっきの......」
『カラスシール女』は思わず目を輝かせる。
「さっ、先程は......あっ、有難うございました」
ヴィクトルはあまりの緊張に口が回っていない。
「なんだ、ミーオの知り合いか?」
そのように問い掛けた金髪、レイバン、全身レザースーツの女は、他ならぬ天下の『MAD″ディアナ』。例えその者達がそれだと知らなくても、全身から湧き出て来る威圧感が全てを圧倒してしまう。それが『MAD″ディアナ』と知っていたとあらば尚更だ。
そんな猛犬を前にして全くたじろがなかった人間と言えば、
このミーオ(美緒)......すなわち2人が言うところの『カラスシール女』以外には居なかったのである。そんな『カラスシール女』は、爽やかな笑顔で答えた。
「ああ、さっきチンピラに襲われてて、そこで知り合った。お兄ちゃん顔大丈夫?」
「ええ......た、大した事ありません......」
二人はまともにその顔を見れない。変装がバレるとかそう言う事以前の問題だ。テレビでも雑誌でも有名な『MAD″ディアナ』、そしてその冷血殺人鬼を『ディアナ』と呼び捨てにする『カラスシール女』。まともに顔など見れる訳もない。
そんな二人の慄きなどお構い無しに、なんと! ディアナは愛用の44マグナムを取り出した。そして何を始めるかと思えば、布切れで拭き始める。
「やっぱ道具たるもの、日頃の手入れが大事だ」
場所もわきまえず『手入れ』に余念が無いディアナ。そんな光景を目の当たりにし、ソフィアとヴィクトルの身体はいよいよ震えが止まらなくなる。
「ちょっとディアナ、こんな所で止めなよ。この子達が怖がってるじゃん」
そう諌めながら『カラスシール女』は、それを止めさせようと前に手を出す。すると、コロロン......ポケットから何やら黒い個体が落ちて床を転がった。見ればそれは、
「てっ、手榴弾!」
ヴィクトルは思わずソフィアに覆い被さった。
「危ないなぁ......もう」
呆れ顔のディアナ。
「大丈夫だよ。ちゃんとピン付いてるから」
澄ました顔で手榴弾を拾い上げる『カラスシール女』だった。
もう嫌だ......早くどっか行ってくれ......
取り敢えず、手榴弾が爆発しなかった事に関しては神に感謝する健気な2人であったが、この張り詰めた空気はもうどうにも耐えられない。




