第4話 ハンター
しかし、私は『ヴァローナ』に追われている身......それは、明日をも知れぬ命であると言うこと。今の私にその先を聞く権利など無い。
兄、そして妹......しかし、この時2人に芽生えた感情は、すでに兄と妹の垣根を超えていた。『恋』、巷で言うところのそれだったのであろう。
やがてヴィクトルは再びソフィアの手を握ると、優しい笑顔で語った。
「カムチャッカが君を待っている」
「はい!」
そして二人はそれぞれの想いを胸に走り出す。北行きの列車が待っているその駅へと向かって......
※ ※ ※
ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン......『ニコラエフスク・ナ・アムーレ』を発した夜行列車は、アムール川を左手に見詰めながら、いよいよ北上を開始した。長旅の始まりだ。乗車率は7割程度。幸いにも、ヴィクトルとソフィアのブロックは二人だけ。他に客は居なかった。
窓際に向かい合って座る2人。膝と膝が触れる度にドキリとする。顔は極力窓に向けているように心掛けていた。なぜなら、列車が発車してからまだ5分も経っていないと言うのに、すでに『カラス』が3度も2人の横を通過している。目をギラギラと光らせ必死に誰かを探している様子だった。
この列車は『ヴァローナ』にマークされている......それは最初から分かっていた事。とは言え、いざその鋭い視線を
目の当たりにしてしまうと、蛇に睨まれたカエルのような心境に陥ってしまう。無理もない......二人はまだ10才そこそこなのだから。
「ソフィア......何も怖がる事なんか無いんだよ。君の変装は完璧だ。逆に怯えていると怪しまれちゃうぞ」
作り笑顔で語るヴィクトル。動きはどうもぎこちない。そんな風に語った本人が、一番怯えていたりもする。
「大丈夫でしょうか......」
一方、ソフィアも不安を隠せない様子。しかし実際のところ、二人が『ヴァローナ』に見付かる心配などは無かったのである。現時点での話ではあるが......
『ヴァローナ』は確かにこの列車の中で一人の少女を探していた。その少女とは『マーラ』。現時点で『ヴァローナ』のハンター達に配られていた写真は『マーラ』のみ。ソフィアとは似ても似つかぬ少女であった事は言うまでも無い。勿論、そんな事を怯える2人が知る由も無かった訳ではあるのだが。
すると、ギー、バタン。突如、連結部の扉が開く。再び『ヴァローナ』の登場だ。その者達に気付かれぬよう俯き加減でそこに視線を向けた途端、思わず二人は息を飲み込む。ま、まずい......




