第6話 ダリアとダリア
ギー、バタン。扉は開けられた。ハイエナは鋭い眼光を発しながら物色を始める。
「隠れてる奴は居ないか? 命が欲しけりゃ、今のうちに出て来い!」
大声を張り上げながら辺りを探し回るハイエナ。完全に成り切っている。迫真の演技だ。
「おっと......なんだ? 床のフローリングが少し浮いてるじゃねぇか! ははーん......さてはこの下に何か有るな......」
ハイエナはそう呟きながら、フローリングの目地に爪を立ててみる。すると、
「ここの目地だけ、埃が溜まって無いじゃんか! いつも開けてるって証拠だ」
そして、一気にフローリングを剥がすと、その下にはなんと! マンホールの蓋が! それに気付いたハイエナは、遂に、遂に、遂に、遂に! 口を開く!
『み ー つ け た !』
すると突然、バコンッ! マンホールの蓋が飛び上がりアレクの顎に直撃する。
「いてーっ!」
マンホールの蓋はアレクの顎に跳ね返り、足元でゴロゴロと転がっていた。
「よし、実験は終わりだ。何やってんだ、早く行くぞ」
お尻に付いた埃を叩きながら、澄ました顔で労いの声を掛けるエマだった。
「あの......エマさん。それダケ?」
「それだけだ。どうかしたか?」
「顎が痛いんダケド......」
「冷やしとけ」
「......」
さっさとアレクに背を向け、歩き出すエマ。遅れてはならじとそれに続くアレク。やがてエマは、二人のベッドの前で足を止めた。すると、
「二人を埋めてくぞ」
「オオ......意外と優しいんダナ」
「ああ......優しいさ。ダリアの死体がここで見付かったら、きっとあっちの『ダリア』が困るだろう」
ソフィアの顔を思い浮かべながら、うっすらと笑みを浮かべるエマだった。
「ハァ? あっちの『ダリア』? なんダそりゃ」
「あっちの『ダリア』だ。さぁ、もたもたするな。穴掘るぞ」
その時、エマの顔は明らかに紅潮していた。目は爛々と輝いている。それはエマの頭の中で、離れ離れになっていた点と点が漸く線として繋がった事を示唆している。
この時、エマは既に看破していた。ソフィアとマーラの秘密。そしてその切り替えスイッチ。更にはヴィクトルが『ダリア』に扮したソフィアを連れて大陸に渡ったこと。もっと更には、ヴィクトルが義兄妹以上の感情を『ダリア』(ソフィア)に抱いている事までも......
エマとアレクは二人の亡骸を地に返すと、すぐ様、港の船を拝借し大陸へと渡って行った。一日の遅れを取り返す為に......




