第1話 謎解き
ブルルルン......ギー、ガシャン。
ソフィアに遅れること丸1日。スノーモービルのエンジンを停止し、漸く『ネクラソフカ村』に降り立ったエマとアレク。
この日も昨日と同じ、雲一つ無い清々しい天気だ。そんな澄みきった青空とは裏腹に、静まり返ったこの村の空気は暗雲に包まれていた。
村に到着するや否や、思わず目を見開く二人。予想だにもしない散々たる光景がそこには広がっていた。
「なんじゃあ、こりゃ?」
「ヒデーな......」
見渡す限り一面に散乱する斧、槍、棒、包丁......そしてそれらと同じ数の死体が足の踏み場も無い程に散らばっているではないか。その全てが凍りついている。コチコチだ。
「一体、何があったって言うンダ......死体の数はざっとミテ30。ここは小さな村ダ......ほぼ全滅じゃ無いノカ?」
「いや......よく見てみろ。死体は全て大人ばかりだ。子供はどうしたんだ?」
「確かに......言われてみれば大人ばかりダ。マサカ......誘拐サレタ?」
アレクは未だ信じられないような表情を浮かべている。
「ん......確かにその可能性は有る。でもまぁ......今更慌ててもしょうがない。まずはゆっくり見てみよう」
死体が凍り付いているところを見ると恐らく村が襲われたのは昨日。今更焦ったところで、昨日にタイムスリップ出来る訳でも無かった。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
氷の彫刻と化した村民達を横目で見詰めながら、歩き進んで行く二人。頭、胸、腹......どの死体も銃弾が何発も撃ち込まれ血飛沫を上げていた。思わず目を背けたくなるような光景だ。
「おいアレク......この村人の死体見てどう思う?」
「どう思うッテ......みんな銃で撃たれてルナ」
「そんなの素人が見たって分かるわ。あたしが言ってるのは、撃たれてる場所の事だ」
また謎解きか? どれどれ......撃たれてる場所だって?
アレクはエマに言われるがまま、目に付く死体の観察を始めた。すると思ったままをそのまま口にする。
「ん......ミンナ正面から撃たれてるみたいダナ」
「その通り。誰一人として、背中から撃たれちゃいない。つまり村人達は、そこら中に散乱してるガラクタを持って、銃を持った敵に自ら襲い掛かって行ったって事になるわな」
「ナンデそんな無茶な事ヲ......それじゃまるで玉砕じゃナイカ......」
「確かに玉砕だ。でも逆に言うと、それだけ村人達は追い詰められてたって事にもなるんじゃないか? まぁ、とにかく隈なく見て回ろう。きっと何か分かるに違いない」
そんな複数の死体の間を潜り抜けながら歩き進んで行くと、やがて一際大きな平屋の建物が目の前に現れる。するとアレクが再び感嘆の声を上げた。
「なっ、なんだ......コレは......」
二人して思わず足を止める。と言うよりかは、足がそれ以上前に進む事を拒んだと言った方が正しいのかも知れない。二人の足を止めさせたもの......それは、辺り一面に敷き詰められた内臓、骨、頭、足、手、腸、腱......所謂、身体のパーツだった。
足の踏み場も無い程にそれらは完全に地面を覆い尽くしている。まるでこの一画だけ、赤い雪が降ったかのように全てが朱に染まっていた。見ているだけで胃液が込み上げてくるような感触に囚われる。




