第2話 列車
「『オハ』の街に住むマーラって少女だ。依頼者の娘に当たる。もっとも......依頼者は死んじまったけどな」
「オハか......あそこは今ゴーストタウン化してるゾ。ムカシは油田で栄えたが、今じゃソレモ取れなくなって、皆、町から去ってイッタ。残っているノハ、一部の地主だけラシイ」
「ゴーストタウンか......」
「マァ、噂だ。俺も実際行って見た訳じゃナイカラ、確かな事は分からんケドナ......因みにそのマーラって少女は、何で『ヴァローナ』に狙われてんダ?」
「マーラを見付けて『ヴァローナ』から守れって言われてるだけだ。何で狙われてるのかは分からない」
「ナルホド......まぁ、取り敢えずは明日ダナ。明日『オハ』の街に着いてミレバ、何か分かるんじゃナイカ」
「ああ......」
時刻は、夜の9時を回ろうとしていた。荒れ狂う吹雪は、一向に収まる気配を見せない。最早、窓外の景色は、荒れ狂う雪のみ。
街の中を走っているのか......
山の中を走っているのか......
はたまた、異世界の中を走っているのか......
それすらも分からなかった。
やがて睡魔が襲いくる。気付けば、
グゴー......
グゴー.......
エマは、ネバーランドを旅していた。そんなエマの寝顔を正面から見詰めるミハイルは、
「探偵ダッテ......違うナ。あんたは......天下無敵のテロリストだ」
一言そんな不気味な言葉を吐くと、エマを追って夢の世界へと旅立っていった。
グゴー......
グゴー......
二人は揃って眠りの徒に就いた。明日からの壮大なサバイバルを前にして......
※ ※ ※
ブルルル......
ブルルル......
エマのスマホのバイブが突然震え始めたのは、ちょうど3時を過ぎた辺り。さすがにこの時間ともなれば、それまでざわついていた車内もヒッソリとしている。
「ん?......」
震動に気付いたエマがユサユサと身体を起こす。メールか......
ミハイルはなおも豪快なイビキを掻きながら熟睡している様子。起きる気配は無かった。
念の為、個室で開くか......機密情報かも知れないし。
恐らくミハイルは、自分に取って敵と言う立場の人間では無かろう......ただあの時、『ヴァローナ』に見せた冷淡な眼差し、カラスのタトゥーに突き立てた刃物、それらは常人に有らず。戦慣れした者にしか出せない独特のオーラを醸し出していた。
ただの通訳? そうとは思えない。それら疑惑が払拭されない限り、警戒心を解くことは出来なかった。
エマはミハイルを起こさぬよう、静かに立ち上がると、ツカツカと女子トイレへ足を運んでいった。歩きながら車両内を流し目で見ていると、サラリーマン風の中年男性、老夫婦、子連れの母、ファミリー......あらゆるタイプの乗客が、皆、静かに目を閉じていた。一人を除いては......
そんなエマの去り行く背中に突き刺すような鋭い視線を送る者が一人だけ存在していた。勿論、エマはその者に気付いていない。
見詰める......
見詰める......
そして、なおも見詰める......
やがて、その者は立ち上がった。
カツカツカツ......
............
............
............
一方、エマは個室の扉を閉めると、再びポケットからスマホを取り出した。
ピッ、ピッ、ピッ。
メールは、『EMA探偵事務所』のポールからだ。メンバーの中では一番若いイケメンハーフ。少し頼りない部分もあるが、一途にエマを慕う忠誠なる部下の一人だ。
そのポールが一体こんな時間にどうしたと言うのだろうか?
脳裏に暗雲が漂う中、エマはアイコンをクリックした。すると......