第3話 再来
「またなんで......」
『ヴァローナ』に苦しめられ続けている村人達にとって、その『ヴァローナ』に追われているソフィアが決して他人事には思えなかった。
「理由はよく分かりません。昨晩も『オハ』の街で襲われました。私......カムチャッカのお母さんの所に行きたて......ただそれだけなんです」
ソフィアはそこまで語ると、突然目から湧き上がった涙が頬を伝い、無くなった左手首の包帯に垂れ落ちていった。そんな様子を黙って見詰めていたヴィクトルは、ここで突然顔を上げる。何か意を決したようた。そして、
「母さんっ! 俺、ダリアを......いや、ソフィアさんを......カムチャッカまで連れていく!」
そのように語ったヴィクトルの目は爛々と輝いていた。恐らくソフィアを通して、亡きダリアを感じ取っていたのだろう。
そして自分の為にそんな言葉を掛けてくれたヴィクトルを通して、ソフィアもニコライを感じ取っていたのかも知れない。
「ヴィクトルさん......」
ソフィアが羨望の眼差しでヴィクトルの顔を見詰めたその時だった。
「ガルルルル......!」
突如、キリルが唸り声を上げた。
「どうしたキリル?」
ウー......ワン、ワンッ!
「まさか?!」
すかさずカーテンの隙間から目を細め、外の様子を覗き見る村人。すると、途端に顔から血の気が引いていく。そして振り返るや否や、即座に『CAUTION』を発した。
「『ヴァローナ』だ! 10人は居るぞ! 皆銃を持ってやがる」
「なんだって! また襲って来たのか!」
「戦うか? 籠城か? 話し合いか?」
皆揃って立ち上がり、俄か軍議が開始された。正直、『ヴァローナ』たる者、話が出来る相手ではない。昨晩の出来事がその事を証明している。
因みに、村人達が持っている武器と言ったら斧、槍、包丁......飛び道具を自由に使いこなす『ヴァローナ』からしてみれば、そんな物はただのガラクタに過ぎなかった。
『戦う』イコール『玉砕』
口には出さずとも、それは誰もが理解している事だ。
ヴァローナが襲って来た! それってもしかしたら......私を捕まえに?やだ......怖い。どうしよう......そうだ。逃げよう! 私が居なくなれば村の人達にも迷惑が掛からない筈......
実際のところ、昨晩の延長で村を襲いに来たのか? それともソフィアを捕まえに来たのか? はたまた別の理由でここにやって来たのか?
そんな事は、本人達に聞いてみなければ分かり得ぬこと。今は『だろう論議』をしている場合では無かった。
やがてソフィアは慌ててベッドから身体を起こす。そして決心を固めると、
「私......この家から出て......」
「ヴィクトル、お嬢さんを連れて隠れ部屋に! さぁ、早く!」
突然、ダリアの母がソフィアの言葉を遮る。村人達の頭の中にソフィアを追い出すなどと言う選択肢は皆無だったようだ。




