第11話 命
やがて一人が、
「うっ......」
身体が固まり海底へと。ブクブクブク......
そしてもう一人も、
「んがっ......」
心臓が停止し、石となった。
ところが! 最後の一人だけはは、
「何をこれしき!」
潜る!
潜る!
潜る!
更に潜る!
そして......遂に!
「見付けたっ!」
村一番泳ぎ達者のその者は、沈みゆくソフィアの姿を視界に捕らえた。
一方、舟上では......
「どうしたって言うんだ?......誰も戻って来ないじゃないか?! やはり......ダメか......」
年老いた村人は視線を落とし、是非もない......そんな表情を浮かべている。
「くっそう!」
諦め切れないもう一人の若者は突然服を脱ぎ始める。何をしようとしているかは一目瞭然だ。
「ダメだ。これ以上犠牲者を出す訳にはいかん! 飛び込む事は許さん!」
開口一番、そのように叫ぶと若者の身体を押さえ付け頑とも動かない。
「放せっ!放せっ! 助けに行かないと、みんな死んじまう!」
抑え込むその者の腕を、必死に振り解こうとする青年。しかし、年長たるその者はなおも頑として腕の力を緩めようとはしなかった。
ガタガタガタ......2人が激しい攻防を始め、舟が大きく揺れ始めたその時だった。
パサッ! 眼下から突如、水飛沫が立ち上がる。何事かと手を休めてみると、なんと村一番水達者なその者が、少女をしっかりと抱き抱え、水面にプカプカ浮いているではないか。
「帰って来やがった!」
舟上の二人は、即座に休戦条約を結び、水中に浮かぶその者達を引き上げに掛かる。
「ほらっ、掴まれ!」
「まずは少女からだ!」
「それっ!」
やがて......ソフィアは舟に引き上げられ、即座に毛布を掛けられる。続いて、ソフィアを救出したその者も自力で舟に這い上がる。
一方、海に飛び込んだ他の2人は、その後海面に顔を出す事は無かった。残念な事ではあるが。
ここにソフィアは、何とかその命を取り留めた。彼女にはまだやらなければならない事が山ほど残っている。
きっと神が、死ぬことを許さなかったのであろう。




