第7話 儚き命
そんな迷いの表情を浮かべる村人衆の顔を番犬の『キリル』も心配そうに見詰めていた。
クゥ~ン......不安げに鼻を鳴らすキリル。きっと人間の心理を理解しているのだろう。
「入れてあげましょう。このままじゃ凍死してしまいます。とでもじゃ無いですけど『ヴァローナ』には見えません」
母はその少年の身を真っ先に案じた。きっと母性を刺激されたのだろう。
「お父さん。入れてあげよう。あの子可哀想だよ」
母に同調したその少女はこの家の次女ダリア。年の頃、12~3と言う所だろうか。たまたまではあるが、背丈、身体つき、雰囲気などがどことなくソフィアに似ている。
すると、
「う......ん。ダリアがそう言うなら逆らえんな。ハッ、ハッ、ハッ......よし、入れてやろう」
最終判断を下したのは他でも無い。この『ネクラソフカ村』の村長。ダリアの父だった。可愛い娘には逆らえない......きっとそんな所なのだろう。
コツコツコツ......
村長は家の明かりを灯しドアノブを握った。
そもそも......この判断の誤りが全ての不幸の始まりと言っても過言では無かった。
しかし結局、カシャ。村長はその扉を開けてしまったのである。
すると......バタンッ!
なんと! いきなり外から扉が勢いよく
開け放たれたではないか!
そして次の瞬間には、バンッ、バンッ! けたたましい二発の銃声が。予告無し。いきなりの発砲だ。
一発めは逸れたが、二発目はなんと村長の左胸に!
「うっ......」
村長は胸を押さえながら、その場に崩れ落ちる。銃弾は村長の胸部を貫通し、見事、壁にめり込んでいた。血飛沫が散乱し、周囲の村人衆の身体が途端に朱に染まる。残念ながら......即死だった。
ほんの数秒前までは愛らしい娘の顔を見て笑っていた父が
今はもう居ない。人間の命とは、なんて儚いものなのだろう......そんな事を強く痛感させられる。
ところが、悲劇はそれだけに止っていなかった。この後村民達は、更なる悲劇を目の当たりにする事となる。
やがて『招かれざる客』は村長の死を確認すると、いかにも満足気な笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。
「よく覚えとけ。俺達に逆らうと、こう言う事になる。『ヴァローナ』の許可無しで漁をする事は絶対に許さん。このサハリン湾で漁をしたけりゃ、しっかりと払うものを払え。いいな......分かたな。また来るぞ。今日は挨拶代わりだ。ハッ、ハッ、ハッ」
『ガルルルル......ワン、ワンッ!』
番犬のキリルは、銃を持ったその者の左手首に噛み付こうと
一気呵成に飛び掛かろうとするが、残念ながら一歩及ばず目の前で扉は閉じられた。
バタンッ。




