第2話 第一歩
私が行けばきっとお母さん喜んでくれる!
既にソフィアの心は大自然の宝庫『カムチャッカ』へと一足先に飛び立っていた。
なぜだか分からないけど、お金は沢山ある。『ユジノサハリンスク』まで行ってしまえば、飛行機を乗り継いであっと言う間にカムチャッカへ辿りつける。
でも、飛行機は使えない。だって私は『ヴァローナ』に追われてるんだもの......サハリンの中じゃ、列車だって使えないと思う。きっと、どこの駅でも私を待ち構えてるに決まってる。
そうだ......確か、この『ネクラソフカ』から大陸まで渡し船が出てるってニコライさんから聞いた事がある。もしかしたら......昨晩記憶が無くなって以降のもう一人の私が大陸へ渡る為にここへ私を連れて来たのでは......
痛いっ! ダメだ......思い出そうとすると、また割れるように頭が痛くなる。しばらくは考えるの止めよう......
ソフィアは無意識のうちに歩き始めていた。
ザッ、ザッ、ザッ......
ザッ、ザッ、ザッ......
昨晩振り続けた雪が凍り足元はアイスバーン。気を抜くと直ぐに転びそうになる。ソフィアは大きな希望を胸に一歩一歩、『ネクラソフカ村』へと歩を進めていった。
ソフィアが暮らしていた『オハ』の街はサハリンの東側。それに対し、今、ソフィアが足を踏み入れた『ネクラソフカ村』は反対の西側に位置する。サハリン湾を渡ってしまえば、その先は広大なユーラシア大陸。あとは果てしなく続く陸路があるだけだ。
なんとしても、大陸まで船を渡してくれる人をこの村で探さねば......それが出来なければ私に未来は無い。とにかく村人に逢えたら一生懸命お願いしてみよう。きっと気持ちは通じるはず......
ソフィアは期待と不安を胸に村内の散策を開始した。幸いにも天気は快晴。しかし、サハリン湾からのべつ吹き続ける風は冷たく、そして強かった。
ヒュルルルル......降り積もった雪が渦を巻き宙を舞う。どんなに重ね着をしていても、どんなに高価な毛皮を身につけていても、到底マイナス20度の世界に立ち向かえるだけの術には至らなかった。
寒い......
ソフィアは毛皮の襟に顔を埋め真っ白な息を吐きながら一歩一歩、前へと進んで行った。
ところが......いざ村に足を踏み入れてみると、そこは思っていた以上に寂れていた。平屋の家がポツポツと点在しているが、どこも生活感は感じられない。『ゴーストタウン』そんな代名詞が一番しっくりとくる。
まず最初に現れた家。それは灰色の薄汚れた小さな家だった。隣に家畜小屋のようなものが隣接しているが、中はもぬけの殻。大層、荒れ果てている。トタンの屋根には1メートルもの雪が降り積もり、今にも崩れそうだ。
ソフィアは玄関の前で立ち止まって一旦深呼吸。あと一歩が
中々踏み出せない。弱冠12才の少女が一人で見ず知らずの家を訪ねるのだ。躊躇する理由も分かる。
でもここまで来て後戻りする訳にもいかない。よし、頑張ろう......
ソフィアは自らを奮い立たせ、コンコンコン......恐る恐るノックしてみた。




