第7話 執念
やがてディアナは遂に重い口を開く。
「ミーオさん。どうか......」
「いいよ。でも刺青はやだからね」
ディアナの言葉を途中で遮るミーオ。
「ほっ、ほんとに?!」
余りにあっさりとしたミーオの返答にディアナは面喰らった様子。
「『ヴァローナ』でしょ。前から興味あったから。でも刺青はやだからね」
「わっ、分かった。シールでいい。でもシールってバレないようにな」
「了解よ」
二人は互いに見詰め合い、笑顔を浮かべている。すっかり打ち解けてしまったようだ。
『ヴァローナ』をまんまと騙し心の中では密かにほくそ笑む美緒。しかし美緒は、その時、同時にこんな事も思っていた。
この人が本当に悪人? 素直でいい奴じゃん......
『ヴァローナ』と初めて接し、最初に感じた事は美緒も圭一と同じだったようだ。
美緒にせよ、圭一にせよ、極東ロシアにおける戦いは今、幕を開けたばかり。これからいかに長い戦いが繰り広げられていくのか? それはこの時点で分かる訳も無かった。ただ一つだけ忘れてはならない事がある。それは一度『ヴァローナ』に入隊してしまったら、如何なる理由があろうとも、必ず一生『ヴァローナ』であると言う事だ。『来る者は拒まず、去る者には死の洗礼を』その事だけは、肝に銘じておく必要がある。
何はともあれ、二人は揃って『ヴァローナ』の入隊をここに成し遂げた。
ポタッ、ポタッ......二人は意気揚々と『アナディリ』の街を歩き抜けていく。そして、二人が歩いた後には......点々と血が垂れていた。
「ママ、あのお姉ちゃん......血が出てるよ」
母にそう語りながら屈託の無い少女はその者の背中を指差した。女性の背中から垂れ落ちる血はズボンを伝い、歩道に垂れ落ちている。
その女性とは......ディアナで無く、なんと、ミーオだった。
くっ......
傷が開いちゃったみたい......
痛い......
富士宮で受けた傷はそう簡単に塞がるものでは無かった。そんな傷を背負って屋上から飛び降りたのだ。傷が開いてしまうのも致し方ない。
「ミーオ、一体何でプラスチック爆弾なんて持ち歩いてんだ?」
「そんなの日本じゃ、小学生だって持ってるわよ」
「うそー......」
「冗談よ。ハッ、ハッ、ハッ......」
一切そんな素振りを見せず、高らかに笑い声を上げるミーオ。
エマさんも......
圭一さんも......
ポール君も......
みんな必死に戦ってるんだ。あたしだけ格好悪いとこ見せられない......苦痛すらも笑顔に変えてしまう美緒。それは正に女の執念だった。




