第6話 決心
「よし、こっち!」
美緒は即座にスタートを切った。それに遅れてはならじとディアナが続く。既にこの時点で、美緒が完全にイニシアティブを取っている。なんと、『MAD″ディアナ』を差し置いて......
タッ、タッ、タッ......
タッ、タッ、タッ......
間も無く時刻は11時。この時間ともなれば、『アナディリ』のメインストリートは
それなりの人だかり。車の通行量も渋滞とまでには至らないが、信号が赤になればそれを待つ車が車道を覆い尽くしていた。そんなメインストリートを疾風の如く走り抜けていく二人だった。
一方、ガチャンッ! バキッ! 黒塗りワゴン車は、停止車両に側面を激しくぶつけながら、猛スピードで二人を追い掛け続けている。
「絶対仕留めるんだ! 逃したら終わりだぞ!」
後部座席からドライバーを叱咤激励するリーダー。その顔には、ただ事ならぬ悲壮感が漂っていた。彼らは恐れ多くも『ヴァローナ』の重臣『MAD″ディアナ』を襲撃している訳だ。当然、それなりの覚悟が出来ているのだろう。正に決死の追跡劇であったに違いない。
「リーダー、奴ら止まってる車に乗り込みました! 追尾を続けます!」
正面には猛スピードで飛び出していくタクシーが見える。その車両に二人が乗っている事は明らかだった。
「追えっ! 絶対逃すな!」
ブルルルルンッ!
黒塗りワゴンは真っ黒な排気ガスを撒き散らしながらタクシーに追い付くべく更なる猛加速を始めた。
やがて......一旦は車道からタクシーに乗り、逆のドアからそのまま歩道に降りた二人の前を黒塗りワゴンは通過していく。
「はい、飛びなさい」
その女の一人はすれ違い様に何やら小さな箱を黒塗りワゴンに張り付けた。
ピタッ。どうやら磁石で引っ付く仕組みになっているようだ。
「さぁ、行きましょうか」
「あ、ああ......」
二人は黒ワゴン車に背を向け、ゆっくりと歩き出す。一体、何を張り付けたんだ? ディアナは気になって仕方が無い。
「ところで......今、何張り付けたんだ? それに飛びなさいって......」
そのまま聞いてみた。すると、
「はい、5、4、3、2、1......」
ミーオは腕時計を見ながらカウントダウンを始める。そして、
ドッカーンッ!
何やら背後でけたたましい爆発音が!
「なっ、なんだ?!」
ディアナは慌てて振り返る。見れば、黒塗りワゴンがバラバラになって見事空を飛んでいた。まるで打ち上げ花火を見ているようだ。
「あら......やっぱ『アナディリ』の街は、都会だけあって賑やかね。楽しいわ。フッ、フッ、フッ......」
ミーオが黒塗りワゴン車に張り付けたもの......それは『EMA探偵事務所』ではお馴染みのプラスチック爆弾に他ならなかった。どうやって日本から持ち込んだのかは一切不明だが、今のミーオはフル装備。勿論『ハイパワースタンガン』もポケットの中に潜んでいる。
そんなミーオの有り得ない行動を目の当たりにしたディアナは、驚きを超え、恐怖すら感じていた。顔は完全に興奮仕切っている。どうやら......遂に、何かを決意したみたいだ。
繰り返しになるが、『ヴァローナ』であらゆる名声と地位を手に入れたディアナ。しかし、彼女は孤独だった。彼女の下には優秀な『部下』が大勢いる。ところがその者達はあくまでも『部下』であって決して『パートナー』に成り得る器では無かった。
そんな彼女が心から欲していたもの......それは自らが尊敬出来る正にその『パートナー』に他ならなかったのである。
この人しか居ない!
ディアナの目は爛々と輝いている。この時点で、ディアナがミーオに惚れ込んでいた事は最早疑う余地が無かった。




