第15話 次なる戦いへ
するとなぜだか、美緒の顔が一気に気色ばんでいく。そして、大声を張り上げた。
「エマさん......秋葉秀樹の遺産はやっぱ飛んでも無かったみたい! この紙幣の透かし......一体、何だと思う?!」
「な、なに? どうしたって言うんだ?!」
エマは美緒の大げさなリアクションに
二三歩たじろきながらも、そんな1ドル紙幣を受け取り美緒にならって朝日にかざしてみる。すると、
「なんだ、これは?......化学記号みたいなのが、いっぱい並んでるな」
「エマさん驚かないで。これは遺伝子の組替図。やっぱ......間違いない! ウェポンにされた人間を、元に戻す為の遺伝子設計図よ!」
「なっ、何だって!」
「なるほどな......だからウォールには馴染みの無いドル紙幣にしたって訳か......もしルーブル紙幣だったら、写真の額縁から出て来た時、ウォールにばれてたかも知れんからな」
思わず感心してしまう圭一だった。
「秋葉秀樹......マーラさんを普通の人間に戻してやる事が、お前の夢だったんだもんな。確かにこの1ドル紙幣は、金には代えられないお前の大事な遺産だった......」
やがて、ビュ~......突然風が吹き起こる。その風には、真っ白な砂が含まれていた。
「ところで......ここは一体、日本のどこなんだ? 潮の香りがするみたいだけど......」
半分崩れ掛かった舞台セットから抜け出してみると、そこは小高い丘になっていた。遥か遠くには広大な海が広がっている。
「分かりまセンカ?」
ポールが懐かしそうな表情を浮かべながら、エマの顔を見詰めた。
「待てよ、この景色......見た記憶か有るぞ。まさか......」
「それが、そのまさかなんです」
「ひょうたん島......ってことか?!」
遥か丘の下には、広大な海が広がっている。それは言うまでも無く東シナ海。そして振り返ってみれば、背後には扇状の洋風建築が威風を放っている。
「その通りです。ここは、俺とポールとマスター、そしてエマさんが初めて出会った場所......正にひょうたん島です!」
ひょうたん島......それは、長崎県、五島列島から更に西。東シナ海に浮かぶ小さな孤島を言う。ほんの数年前までは、30人程の民が暮らしていたが、ある事件をきっかけに、今となっては無人島と化している。
ある事件......それは8人の高校生を巻き込んだ壮絶なる事件だった。そんな事件こそが、エマ、圭一、ポール、マスターの4人を巡り合わせたと言っても過言では無かろう。
今、思い返しても、よくこの島から生きて帰れたものだ......記憶が甦ると共に、背筋が凍るエマだった。
そんな事件の中心となったのが、今、4人の背後にそびえ立つ3階建ての洋風建築。即ち......
「カトレーヌ修道院!」
だった。
「そうデス......カトレーヌ修道院です。マリモサン!」
悪戯の笑みを浮かべながら、エマの事をそんな名で呼ぶポール。
「そんな名前......もう忘れたよ」
エマは目を伏せ、悲しげな表情を浮かべる。きっと、本気で思い出したくないのだろう。
事件は今から5年前、エマが『EMA探偵事務所』を立ち上げた直後に遡る。それはそれは、暑い夏の夕刻だった......
今回、極東ロシアの地において、『ヴァローナ』、そしてウォールに勝ち得た事も、きっとそんな若かりしき壮絶なる経験があってのこと。
エマ、圭一、美緒、ポールの4人は丘の上に並んび無言で朝日を見上げた。
この4人が合わされば、どんな悪にも打ち勝つ事が出来る! きっとそんな手応えを感じていたに違いない。すると、
「キー、キキキッ!」
バサッ! 何やらエマの目の前を小さな影が通り過ぎたではないか。
「ん? なんだ? あれっ? 1ドル紙幣が無いぞ!」
「あっ! エテコウちゃんが持ってるわ!」
「ダメだ! それだけは返せっ!」
タッ、タッ、タッ......!
「不味い! 逃げ出しマシタヨ!」
「追い掛けろっ!」
ドタバタ、ドタバタ......!
ドタバタで始まった長きに渡る極東ロシアでの戦いは、今ここで漸く終焉を向かえた。しかし、それはまた新たな戦いの始まり。この世に悪が存在する限り、『EMA探偵事務所』のドタバタは終わらない。
未来に向かって駆け出していく、頼もしき4人の『GOD』達だった。
『傷だらけのGOD MARAの呪い 氷結のサバイバル!』 完
そして、傷だらけシリーズ第4段、
『傷だらけのGOD アガサの方程式 復習のサバイバル!』
へと話は続いて行くのでした......




