第5話 放火
でも、ちょっと違うかも。さっきの人は、とにかく線が細かった。今通り過ぎた影は、もっと太くて大きい。しかも明らかにシルエットは短髪だ。
やだぁ、どうしよう......もし、泥棒だったら? そうだ、こうしちゃいられない。ベーラを起こさなきゃ!
カミラは、怖じ気づく自身の身体と心に鞭を打ち、気付かれぬよう、抜き足、差し足、忍び足......静かに部屋を出て行った。
そして、小さく、コンコンコン......ベーラの部屋をノックすると、
「ちょっと入るわよ」
ギー、バタン。返事を待つ事なく、ツカツカ入室していく。するとベーラは、思った通りベッドの中。スヤスヤ熟睡中だ。小さく扉をノックしたくらいで、起きる訳も無かった。
「ちょっとベーラ、起きて!」
「ムニャムニャムニャ......んんん?」
どうやらベーラは覚醒を始めたようだ。
「ちょっと寝ぼけてないで起きて! ほらっ!」
更に、身体を揺すってみると、
「あれぇ、もう朝なの? 何だか寝たり無いなぁ......あれ? まだ夜じゃん」
見れば小窓から星明かりが差し込んでいた。多少寝ぼけていても、今が朝で無い事くらいは誰でも分かる。
「なんか家の周りを変な男が彷徨いてるの。窓の鍵は閉まってるわよね?」
仰々しい表情を浮かべながら、突然、仰々しい言葉を述べるカミラ。
一方、今起きたばかりのベーラはと言うと、寝たくても眠れなかったカミラより、遥かに落ち着いていた。
「男の人が彷徨いてる? 近所のおじさんじゃ無いの?」
「近所のおじさんが、夜中に家の柵を越えて入って来る? 泥棒よ......きっと泥棒よ!」
「こんな貧乏漁村に泥棒? 盗む物なんて何も無いいでしょ......」
「盗む物?」
............
............
............
「まさか?!」
............
............
「まさか!......」
............
............
「「写真?!」」
カミラとベーラが、『泥棒』とかけて『写真』と解いた正にその時をだった。
「あれぇ......カミラ姉ちゃん、今って......夕方?」
「また何言ってるの? だから夜だって言ってるじゃない。何でそんな事言うの?」
「だって、ほら......」
見れば、ベーラは小窓を指差している。何事かと思い、カミラがそっちに視線を送ってみると、小窓の外は確かに夕陽の如くオレンジ色に照り輝いていた。
「ちょっと待ってよ......これってまさか......」
そのまさかだった。バチバチバチ......耳をそばだててみれば、四方からそんな音が聞こえて来る。
「たっ、大変! 火事よ!」
台所の火は、もうとっくに消した筈だ。夏であるが故に、暖炉を焚いている訳も無い。母も、そしてヘビースモーカーの父も、祖父の病気の看護で今日は家に帰っていない。
つまり......寝静まったこの家において、火の手が上がる要因など何一つ無いと言う訳だ。そうなると、答えは一つしか残っていなかった。
それは......
「「放火?!」」
2人はまるで声を合わせたかのように、そんな言葉を投げ飛ばす。
「カミラ姉ちゃん、早く外へ逃げないと!」
完全なる覚醒を成し遂げたベーラは、既に熊さんのぬいぐるみを抱き抱えていた。逃げる準備万端だ。




