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第2話 カミラ(Ками́ла)

「ちょっと止めて! 引っ掻かないで! 痛い、痛いったら!」


女性が涙声で叫び声を上げたその時だった。


「エテコウ、止めなさい!」


突如、窓の外からそんな声が......すると、それまで狂気の行動を続けていた猿の動きがピタリと止まる。


えっ、なに? 誰か来たの?! なんか、女性の声だったような......


慌てて振り返ってみると、そこには1人の女性が。窓越しにこちらをじっと見詰めている。夕日が逆光となり、表情までは見えないが、やたらと線が細い。


「あっ、あなたはだれ?!」


震える声でそう叫ぶのがやっとだった。展開の早さに、頭が付いていく訳も無かった。すると、


スタスタスタ......猿は澄ました顔で、窓の隙間から外へと飛び出して行く。そして気付けば、そんな窓越しの女性の肩の上に飛び乗っていた。きっとその者がこの猿の飼い主なのだろう。


「あら、ごめんなさい。ビックリさせちゃったわね。大丈夫? 怪我はない?」


悪びれた表情を浮かべ、自分の身体を気遣うそんな女性は、見るからに東洋人。髪の毛は真冬の北極海の如く黒く、吊り上がったメガネも、目の色も真っ黒だった。


「私は......大丈夫です。それで......あなたは?」


猿に引っ掻かれた手を擦りながら、清楚なる女性はなおも震える声で問い掛けた。


「名乗る程の者でも無いわ......それよりその写真......それって......あなたの?」


見ればそんな『黒』の女性は、一心不乱に写真を見詰めている。殺気すら感じる程だ。


因みに......写真に写る男性の1人は東洋人。そしてまた、突然現れたその来訪者もまた東洋人。更に......その者のペットたる猿は、今、私からこの写真を奪い取ろうとしていた。もしかして......この写真には何か秘密がある?!


即座にそんな空気を読み取った清楚なる女性だった。そして、窓際に立つその者に向かってきっぱりと言い切った。


「はい、これは私の大事な写真です。この写真が......どうかしましたか?」


正直なところ、この写真が自分に取って大事かどうかなど、分かりはしなかった。ただ何となくではあるが、絶対に手放したく無い......自分をそんな気持ちにさせるだけのミステリアスな魅力をこの写真は持ち合わせていたのである。


少なくとも、見ず知らずの者に手渡すなど有り得ぬ話だ。


「そう......分かったわ。因みに、あなた......名前は?」


意外にも、簡単に引き下がってしまう『黒』なる者。ちょっと、拍子抜けだ。


それにしても、あたしの名前なんか聞いてどうするんだろう? まぁ、でも......名前くらいなら、教えてもいいか。下手に逆らって長居されても困るし......


「カミラ(Ками́ла)......カミラ・ソロコワよ。ごめんなさい......私、そろそろ夕飯の支度をしないと......」



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