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【完結済】傷だらけのGOD MARAの呪い 氷結のサバイバル!  作者: 吉田真一
第10章 Vale tudo(バーリートゥード/決死の潜入)
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第4話 決着

見れば、いつの間に酔っ払いは立ち上がり、汚れた服をパタパタと叩いているではないか! しかもその目には、まだしっかりと炎が灯されている。


「おっと、復活だ! 2万ルーブル返せ!」


「いけいけ!」


「やれやれ!」


よし、今だ!......酔っ払いは一瞬の隙をつき、マルコの身体目掛けて猛ダッシュを敢行する!


タッ、タッ、タッ!


タッ、タッ、タッ!


酔っ払いは一体、何を仕掛けようとしているのか? まさか『重戦車』とも言える『ブルドーザーマルコ』に、体当たりでも仕掛けるつもりなのだろうか? その答えは......なんと、そのまさかだった。


「うりゃあー!」


怒号を発しながら人間爆弾と化した酔っ払いの身体は、マルコの元へと一直線! いち早くその行動に気付いたマルコもすぐ様、その攻撃を受け止めるべく、土俵の真ん中で身構える。避けるつもりなどは毛頭無い。そして遂に、


バシッ!!!


二人は土俵のど真ん中で、がっぷり四つ。行司が居ないのは残念だが、それは正に千秋楽の横綱バトルと言えた。筋肉と筋肉のぶつかり合いだ。


「フンガーッ!」


「おうりゃあー!」


体格的には圧倒的にマルコが有利。それは誰の目で見ても明らかだった。しかし......


ザザッ、ザザッ、ザザッ......徐々に土俵側へと追い込まれていたのは......なんと! 重戦車マルコの方だった。


「アワワワワ......」


ジリジリと後退しながら焦りの表情を隠し切れないマルコ。それに対し、


「◎?〃$★△♀!(この圭一様をナメるなよ!!!)」


思わず我を忘れ、思いっきり本名を叫ぶ酔っ払いではあったが、幸いにもそれが名前である事には誰も気付いていない。


なんと! この酔っ払い......はるばる日本から今日この地にやって来たばかりの圭一だったのである。


エマから圭一に送られて来た最初の指令......それは、『ヴァローナに潜伏しろ!』だった。


『ヴァローナ』の本拠地は、この首都『アナディリ』。圭一はサハリンで展開するエマの頭を飛び越えて、今日、この港町に到着したばかりだ。


『ヴァローナ』にいち早く潜入する為には、今、屈強な兵隊を集めているこの組織に自分の力を最大限にアピールすること。それ以外に方法は見付からなかった。


まずは、このマルコなる重戦車に大勢の『ヴァローナ』の目の前で打ち勝つこと。それこそが『ヴァローナ』潜入の登龍門と圭一は位置付けていた。


絶対に負けられない!......


「とうりゃあー!」


ジリジリジリ......


ジリジリジリ......


徐々に......


徐々に......


土俵側へとマルコを追い詰めていく圭一。やがて、マルコの背中の先には暖炉が見えてくる。極寒のこの地であるが故に、それはどこの家でもどこの店でも当たり前のように、オレンジの光と熱を発していた。


メラメラメラ......


バチ、バチ、バチ......


暖炉は激しく燃え盛る。そして遂に、


「これで終わりだっ!」


圭一はマルコの足に自身の足を絡めると、一気にその巨漢を投げ飛ばした。


ズコンッ!


ドカーン!


「ウワァッ!」


すると、すぐ様マルコの服に暖炉の火が燃え移る。


「アチチチチ......!」


と言ったかは定かで無いが、背中を床に擦り付け悶え苦しむマルコだった。やがて服に広がった炎は一気に全身を覆い尽くし、髪の毛にもその勢力を広げていった。


「こいつは大変だ! マルコが焼き豚になっちまう!」


慌てふためくマルコのセコンドは即座にタオルを土俵に投げ入れ傍に置かれていた消火器で一気に炎の勢いを止める。


勝負あり! ここに居合わせた誰もがそんなジャッジを下したのである。


「よしっ、酔っ払いの勝ちだ!」


「1万ルーブル貰いだ!」


「お前強いな!」


「かっこ良かったぜ!」


気付けば、圭一の周りには人だかりが。皆、こぞって圭一の肩を叩き圭一の勝利を称えている。それは、『ヴァローナ』に喧嘩を売ったバチ当たりから、『バーリートゥード』のヒーローへと昇進を果たした瞬間だった。


やがて、助け起こされた『ブルドーザーマルコ』がのっそりと起き上がる。そして圭一に一言、


『Congratulationsおめでとう!』


ニコリと笑う。


なっ、なんて潔い奴なんだ?! それと、さっき俺にテーブルを倒された連中も、なぜか今は俺と笑顔で握手を交わしている。


何なんだよこいつら......めちゃめちゃいい奴らじゃねえか!『ヴァローナ』がどんどん巨大になっていく理由が何となく分かったような気がするぜ......


思わず笑顔が溢れる圭一に『ヴァローナ』の一人が、


「お前、日本人か?」


なんと日本語で語り掛けて来た。


「ああ......そうだが。あんたは?」


「モスクワの大学デ日本語ヲ学んでた。日本にも行った事がアルゾ。まぁ、一杯ドウダ」


「大学行ってた奴が『ヴァローナ』に? まぁ、いいだろう。どうせ行く宛ても無い」


「ナンダ......放浪者カ。そいつはイイ。今日は俺のおごりダ」


「......」


その後圭一は、大勢の『ヴァローナ』達と朝まで飲み明かす事となる。大いに食べ、大いに飲み、大いに語り、大いにふざけ、そして、大いに打ち解けていったのである。


翌朝......


「これから頼んだゾ」


『ブルドーザーマルコ』とハグをしながら

そんな言葉を皆から掛けられた圭一の右手の甲には、なんと! 『カラス』の紋章が

光輝いていた。


『来る者は拒まず、去る者には死の洗礼を』......『ヴァローナ』のそんな風習を垣間見た瞬間だったと言えよう。


エマが圭一に送った最初の指令......『ヴァローナに潜り込め』。そのミッションは一か八かの戦略が甲を奏し見事なまでに成し遂げられた。ところが......エマからそんな指令が下りたのは圭一1人では無かった。


夜が明け、それまで降り続いていた雪がいきなり姿を消し、久方ぶりに日差しを取り戻したこの『アナディリ』の街。圭一はそんな空を見詰めながら、ポツリと呟く。


美緒さん、気を付けろよ......


そしてそんな圭一の姿を少し離れた所から見詰めていた黒淵眼鏡の女性は、


圭一さん......さすがね。


コートの襟を立て、鋭い眼光を放ちながら

裏路地へと歩いていく。


コツコツコツ......


コツコツコツ......


獲物を求め肉食獣と化す美緒。しかし彼女の身体はまだ傷が癒えた訳では無い。正にここが彼女の正念場。真価が問われる時だ。


エマはマーラの秘密を解き始め、圭一は『ヴァローナ』への潜入を果たした。次は言うまでも無く美緒の出番。


彼女の知能が『ヴァローナ』にどこまで通用するのか? 正直、見ものだ......



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