第34話 追憶
一方、組織たる『ヴァローナ』の方はと言うと、ウォールが姿を消して以降、後を継ごうとする者は誰1人居なかったそうな。
別組織へと流れて行った者。
堅気の世界へと戻って行った者。
他国へ脱出した者。
放浪の旅に出て行った者。
仏門の扉を叩いた者。
自らの命を絶った者。
のたれ死んでいった者。
その後の足取りは様々であったが、『ヴァローナ』と言う名を継承する者だけは皆無だった。やはり世間からの『恨み』と言う負の遺産を誰も引き継ぎたく無かったのだろう。実に賢い選択だ。
『ヴァローナ』の崩壊がほぼ確定的となったその頃から、世間では『ヴァローナ狩り』なる言葉が至る所で耳にするようになっていく。手の甲に『カラスの紋章』が残った者は、次々と半グレ集団の標的にされた。
夜中になぶり殺された『カラス』が、翌朝、本物のカラスにつつかれている様子は
日常的に散見する事となり、そんな皮肉な様は『共食い』と言う見出しのもと、投稿動画サイトで大層な賑わいを見せたと言う。
そんな中、『ヴァローナ』出身者であっても1人だけ、別格の扱いを受けている者が居た。
それは『MAD″ DIANA』ことディアナだった。
元々、弱い者には慈悲の心を示し続けて来たディアナは、容姿端麗と言うアドバンテージも加わり、『ヴァローナ』崩壊後も根強い人気を誇っていた。
最高指導者たるウォールに火の油を浴びせ掛けた大功は、口伝てに広がり、いつしか伝説と化していった。
そんなディアナは、自ら『自警団』なるものを設立し、生涯、極東ロシアの治安維持に命を捧げたと言う。
晩年に至っては、大統領候補に推挙されるまで上り詰めるが、焼け爛れた手の甲が未だに痛む事を理由に、断じてそれを受け入れなかったそうだ。
まぁ、勿体ない話ではあるが、そんな犯罪組織に関与していたと言う事実が未だ彼女の心の中では大きな傷となっていたのだろう。
一方......
気になるソフィアのその後ではあるが、同事件終結後、『ミルコの村』へと帰郷し、生涯母を助け続けながら幸せな人生を送ったと言う。
そして......
マーラは自身の宣言通り、あからさまに現れる事は無かった。ソフィアが成人した後の事ではあるが、一度、暴漢に襲われた事があった。
翌朝、気付いた時にはベッドで寝ていて、不思議な事に身体には傷一つ付いていなかったらしい。全身血塗れだったようだが、それはソフィアの血では無かったようだ。
その後、路上で男のバラバラ死体が山積みになっていたと言う事だが、犯人が見付かる事は無かったと言う。
マーラは決して死んではいない......常にそんな『姉妹』を見守っていたのだろう。
そして最後に......
極東ロシアにおけるエマの功績は、果てしなく大きかった。正に、苦しみ抜いていた極東ロシアの民を救った『神』と言っても過言では無かろう。
そんな長きに渡るエマ達の戦いは、極東ロシアに訪れた春と共に、人々の心から消え去ろうとしていたのだが......




