第33話 生存者
「マーラさん......」
気付けばソフィアは、氷上に膝を着き泣き崩れていた。きっと一時的とは言え、ヴィクトルを死に追いやったそんな『姉妹』に対し、憎悪の念が生じた事を後悔したのだろう。
「うっ、うっ、うっ......」
マーラさんが私の姉妹だなんて、今までそんな事、一度も考えた事無かった......
その後、ソフィアの涙が乾く事は無かったと言う。一方、
「秋葉秀樹とウォールの写真か......」
圭一は、神妙な表情を浮かべていた。
「そんな事より......まず先にやる事があるわ」
美緒は既に崩れ落ちた瓦礫の山を見詰めていた。
「エマサンの捜索......デスネ!」
ポールの目は、光り輝いている。きっとエマの顔を思い浮かべているのだろう。すると背後から、
ガガガガガッ......
ガガガガガッ......
何やら複数の車両音が、近付いて来る。それは消防車、クレーン車、ブルドーザー......そんな、有りとあらゆる救助車両だった。雪煙を羽ばたかせながら、群れをなし、迫り来ている。
「おっと、消防隊が到着したようだぞ!」
「絶対にエマサンを見付け出してヤル!」
「探し出すまで私は帰らないわ!」
「ヴィクトルさんの為にも、マーラさんの為にも......私は死ぬ気で探します!」
瓦礫の山は、地上20階にも及ぶ巨大な船体が一瞬にして崩れ落ちたもの。どう贔屓目に見ても、その中で人が生存しているとは思えなかった。仮にまだ息があったとしても、全面に広がった炎がその者の身体を焼き尽くしている事だろう。
そんな絶望的状況であったとしても、エマさんが死ぬ訳無い! 今頃どこかでピンピンしている......そう信じて止まない4人の若武者達だったのである。
消防隊の後に続き、死した『氷の方舟』の中へと突入していく4人。
その後......3週間に渡り救出活動は続いたと言う。全身に大火傷を負いつつも、片足を失いつつも、視力を失いつつも、奇跡的に一命を取り留めた者は12名。
ロシア人 9名。
アメリカ人 2名。
フランス人 1名。
たった......それだけだった。残念ながら、日本人は含まれていない。
一方、船の中に取り残された残り800余名は、男なのか、女なのか? 大人なのか、子供なのか? そんな事すら分からぬ程に、全く原形をとどめていなかったと言う。
「エマさん......」
「エマサン......」
「どうして......」
「なんで......」
............
............
............
3週間後、救助隊はその全てが、『墓場』から立ち去っていった。来る時は鮮やかに......そしてまた、去る時も鮮やかだった。
絶望に包まれる4人を、天にたなびくオーロラだけは、いつまでも見詰めていた。闇夜に広がる北極海の空を、緑色に包み込んで......
その後、これだけ多くの人命が失われた惨事であったにも関わらず、世に大きく報道される事は無かったと言う。
法治国家たるその国が、『ヴァローナ』たる無法者集団を野放しにしていたとあっては、きっと威信に関わるのであろう。何らかの政治的圧力が働いた事は間違いない。




